第978話 希望はある

 ミンズ伯爵領の城は山を一つ使ったもので、城と言うより要塞って感じだった。


 城門は開いており、兵士たちが槍を持って集まっていた。


「そのまま走れ!」


 殿のオレはタボール7を背中に回し、MINIMIを取り寄せて集まってくるバデットに向けて撃ち放った。


 二百発はあっと言う間になくり、切れたら回れ右をして城門に向かって走り出した。


 城門を潜ると鉄の柵が降ろされた。


 その場に膝をつき、跳ねる心臓を落ち着かせるために空気をたくさんおくりこんでやった。戦闘強化服を着てなければ心臓発作を起こしているところだ。


「マスター、水です」


 職員からペットボトルを受け取り、一気に飲み干した。


 戦闘強化服の生命維持装置も無茶をすると働いてくれないが、息が落ち着いてくると正常に働き出してくれた。


「ドワーフと兵員は?」


「倒れてますが、息はしています」


 戦闘強化服を着てないのに丈夫なヤツらだ。オレ、本当に三段階アップしてんだろうか? 


 やっとこさ息が落ち着いてくれ、周りに目を向けられた。


 城下町、って感じなんだろうか? 兵士たちの後ろには領民と思われる人間がいた。


 ……ドワーフの姿はないな……。


 先の見えない籠城だ。ドワーフは追い出されたか見捨てられたんだろう。希望を胸にソンドルク王国に向かったそうだからな。


「タカト殿。落ち着いたら城に上がって欲しい」


「わかりました。職員の安全は約束してもらえましたか?」


「ああ。だが、ドワーフがいるからな。よく思わない者はいるだろう。念のため、レイズを残させる」


「ご配慮、ありがとうございます」


「なに、マガルク様より絶対タカト殿を敵にするなと厳命されている。いざとなればミンズ伯爵を敵にしても構わないさ」


 男爵、そこまで覚悟してたんだ。まったく、思いっ切りがいい人だよ。


「サイルスさん。一緒にきてください。ロイス。指揮はお前に任せる。万が一のときは躊躇わず殺れ」


 オレが守るべきは職員。そこに種族は関係ない。害してくるなら殲滅してやる。


「お任せください。セフティーブレットの名は汚させません」


 女神セフティーの名はどんなに汚れても構わないが、職員の名誉と命は必ず守ってくれ。


 武器類は外し、文官のゴルティのあとに続いた。


 途中からミンズ伯爵の兵士が前後につき、山の上にある要塞に向かった。


 城下町的なところは第三区のようで、第二区は貴族や上位領民が暮らすところで、第一区は行政を行う場所のようだ。


「行政は死んでないようですね」


「避難が早かったか、兵士たちが優秀だったかだな」


 領都周辺を落ち着いて見れなかったが、バデットの量を見たらあまり優秀な伯爵とは思えない。いや、ランティアックと同じで伯爵はいなかったパターンか?


 上に向かう毎に調度品が高価になり、絨毯が敷かれるようになった。


 ……伯爵、いるのか……?


 どっちのパターンでもいいように頭の中でシミュレーションをする。まあ、こういうとき、大体外すけどな。


 重厚な扉からして伯爵がいるパターンか? と思いながら侍従的な者が開けた扉を潜った。


 うん。やっぱり外れた。


 中にいたのは老婆──いや、老婦人だった。


「ミンズ伯爵様のお母様で、ローザン様です」


 紹介したのはランティアックの文官、アルドラさんだ。


 四十を過ぎた人だから老婦人と面識があるのかもしれんな。隣の領地でもあるし。


「こちらは、タカト・イチノセ殿です。マガルク様が信頼を寄せる方でもあります」


「一ノ瀬孝人です。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスターでもあります」


「ローザンよ。今はミンズ伯爵の代表となっているわ」


「他の方は?」


「王都よ。わたしは病気で残ったの」


 それは運がよいのか悪いのか。老婦人の顔を見たら悪いことのようだがな。


「オレは外国人であり部外者でもあります。マガルスク王国のことには口を出すことはありません。アルドラさん。話は任せます」


「わかりました。こちらで話を済ませておきます。ロイランス様。タカト殿とサイルス殿に現状をお教えください」


 アルドラさんが視線を向けた先に白髪の老兵士がいた。

 

 ……どことなくカインゼルさんを思わせる人だな……。


「わかりました。お二方、こちらに」

 

 ロイランスさんのあとに続いて部屋を出て、一階下の、サロン的な場所に連れてこられた。


「わたしは、ロイランス・ジーガー。現在、ミンズ伯爵領の兵士団を纏めている」


「現在、と言うことは、本来の立場ではないので?」


「ああ。兵士団を纏めていた者も伯爵様を護衛して王都に向かった」


 それはまた、運が悪いとしか言いようがないな。


「ここに、ミンズ伯爵様に繋がる方はいないのですか? ローザン様以外に」


 いなけりゃミンズ伯爵家は終わりってことだぞ。


「いない。親戚筋ならミルズガンにはおるが」


「それが唯一の希望、ですか」


「そなたははっきり言うのだな」


「オレは外国人でありマガルスク王国に一切の義務もありません。ただ、マガルスク王国にいるゴブリンを駆除するためにきました。その協力を得られるならミルズガンまで同行しても構いません。ミルズガンはまだ落ちてないようですからね」


「その話は本当なのか?」


「さすがにミルズガンのすべてはわかりませんが、我々はまだ希望はあると思って目指しております」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る