第976話 老後問題

 やっぱりマイルだとよーわからんな。大体三十キロくらいか?


 道はそれなりにいいので進みはいいが、途中の町がバデット化していたせいで少し手間取ってしまった。


「そろそろ防御付与の効果が消えるぞ」


 同じハイラックス一号に乗っているエルガゴラさんが声を上げた。


 車はエルガゴラさんの魔法で強化してもらっているので、三十キロくらいに保ってバデットを牽き飛ばしていたのだ。


「マリル。開けた場所で停止だ」


 プランデットで通信する。


「了解」


 しばらくして廃村に到着。ここもバデットに襲われて朽ちていた。


「よし。村のバデットを排除しろ。エルガゴラさん。付与を施してください。運転手は車を守れ」


 ハイラックス一号はサイオに任せ、オレもバデットの排除に動いた。


「ここら辺のバデットは無秩序だな」


 ただ、魔力がある者に襲ってくる感じだ。


「付与を施したぞ!」


「了解! 運転手は後発組を連れてこい!」


 オレは残り、襲いくるバデットを排除する。


 運転手たちが村を出ていったらモニスに巨人に戻ってもらい、村の周りを掘ってもらった。


「疲れたら交代するからな!」


「大丈夫だ。バデットを近寄らせないでくれ」


 ほんと、巨人の体力はどうなってんだろうな? これで世界を征服できないんだから不思議なもんだよ。


 後発組がくる頃には大体のバデットを排除し、廃村の中のバデットは片付けが始まっていた。


 まだ完全に動きをとめないバデットから血を抜くが、それでもまだ動いている。魔力がなくならない限り止まらないか。ほんと、面倒だよ。


 手分けしてマナイーターで魔力を吸ってもらい、オレはホームから油圧ショベルを出してきた。


 畑だったところに穴を掘り、そこにバデットを放り投げる。


 数が数なだけにその日では終わらず、次の日も片付けに追われた。


「こんなことしながらミルズガンに向かわないとならないのかと思うと辟易しますな」


「そうだな。なにか解決策が欲しいところだ」


 とは言え、バデットはゴブリンのエサになりかねない。面倒でも排除しておくほうがいいだろう。手間でも地道に排除していくしかないんだよな。


 油圧ショベルで穴を掘り続け、交代しながらバデットをなんとか片付けられた。ふー。


「三日で三十キロか。これなら歩いたほうがよさそうだな」


 まあ、歩いても苦労しそうだけどよ。


「──タカト! ゴブリンの群れだ! 数千はいる!」


 ほっとしていたらマーダたちが飛び込んできた。ハァ~。休んでいる暇もないな……。


 意識を集中すると、北の方に二千くらいの気配を感じだ。距離は五キロを切ったくらいか? こちらに向かってきているよ。


「飢餓状態だな。食えてない集団か?」


「どうする? 迎え撃つか?」


「いや、皆の体力が持たないだろう。ロイス、皆を連れて進め! 元気なやつは歩け! エルガゴラさんは残ってください。付与の報酬を払いますんで。マーダたちは漏らしたものを駆除しろ」


 職員を廃村から出発させ、急いで油圧ショベルや荷物をホームに運び込んだ。


「大丈夫か?」


 ブラックリンを出してため息を吐いたらエルガゴラさんに心配されてしまった。


「ええ、まあ」


 戦闘強化服を着ているから体力の消費は抑えられているが、それでも疲れは出るもの。冷えたビールが飲みいよ。


「すみません。これを村に撒いてください」


 ミジャーの粉と処理肉を混ぜたものを渡した。


「わかった」


 エルガゴラさんが撒いている間にスポーツ飲料を飲んで疲れを癒した。


「撒いたぞ」


「じゃあ、ブラックリンに乗ってください」


 ゴブリンの気配がもうすぐそこ。なんとか間に合ったな。


 二人でブラックリンに跨がり、空へと扉上がった。


 間一髪、でもないが、すぐにゴブリンが廃村に雪崩れ込んできた。


「魔境から流れてきたゴブリンか?」


 ルート沿いと言えばルート沿いだが、マルシファに向かいそうなんだがな? なんか別な理由があるのか? いろいろありすぎて想像もつかないよ。


「エルガゴラさん。これをゴブリンどもに投げ込んでください。五百匹くらいなら駆除できます」


 これで付与を施してくれる報酬にさせてもらいます。


「お前は律儀だな」


「ただ働きは害悪です」


「ふふ。逆に厳しいことだ。下手な仕事はできんな」


 マルダートを受け取り、スイッチを押して下に向けて放り投げた。


 すぐに回避。背後で爆発して熱が追いかけてきた。ほんと、携帯武器とは思えん威力だよ。


「いくら入ってきました?」


「約二百万だな」


 ってことは……五百匹以上か。やはりそのくらいが限度なんだな。


「充分だったらコラウスに戻ってもいいですよ」


「いや、もっと稼がせてもらうよ。わしはハーフだが、あと百年は余裕で生きる。豊かに生きるためにも一千万円は稼いでおかんとな」


 確かに百年も生きるとなると数百万では厳しいかもな。元の世界でも老後は二千万円が必要とか聞いたことあるし。一千万円どころか一億円くらいないと無理なんじゃないか?


「ふふ。働き者ですね」


「言ったろう。ニートになるなと教育を受けたと。オタ活は健全に、だ」


 いい母親を持ってなによりだ。

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