第975話 敬礼!

 なんとか夕食前にランティアックに到着できた。


 第三陣はとっくに着いており、六号艇はコラウスに戻っていた。


「遅かったですね。なにかありましたか?」


「ああ。想定外のことばかり起こって対処してましたよ」


 心配そうな顔をする職員たちに魔境からゴブリンが流れてきているかもしれないことを説明した。


「……それはまた、恐ろしいですな……」


 ロイスも優秀だから事の重大さを理解した。


 この時代のヤツで頭の中に地図を描けるのは希であり、方角も太陽が昇るほうと沈むほうくらいがわかるくらいだ。


 これは頭がいいとか悪いとかじゃなく、地図うんぬんの概念的なものが原因だと思う。小さい頃から地図や方角に触れてないとわからないんだろうよ。


 だからまず方角を教え、地図を描いてみせて慣れさせると、段々と頭の中に地図を描けるようになってくるのだ。


 ロイスは早く頭の中に地図を描けるようになったヤツだろうな。


 まだ頭の中に地図を描けない者のためにホワイトボードを持ってきて説明した。


「それだとランティアックもルート沿いになるのでは?」


「ランティアックよりマルシファのほうが危ないかもしれんな。マルシファの前にある山にもゴブリンがいた。おそらく、休憩地みたいなものだろう」


 なんであんなところにいたのかと思ったら魔境から王都に向かうルートだったんだろうよ。


「ゴブリンは嗅覚が鋭いからな。臭いを辿っているんだろう」


 数キロ先からでも集まってこれるところを見ると、犬にも勝る嗅覚なんだろうよ。


「だからロズたちがいる鉱山のほうに向かわせる」


 要塞にすることも説明した。


「お嬢を置くのはもったいないのでは?」


「雑魚を駆除するならオレたちだけで充分だよ。仮にラダリオンが必要なときはオレが不要になるときだ。そのときを見誤らなければ大丈夫さ」


 今はモニスもいる。グロゴールみたいなのが現れなければなんら問題はない。いや、フラグではないからね!


「ロズのほうはラダリオンに任せる。オレたちは明日から動くとする。一日約三十キロ移動していく。先発組はオレが。後発組はロイスが仕切る。組分けはこうだ」


 マガルスク王国の地図を消し、組分けをする。もちろん、オレが読み上げ、ロイスに書いてもらった。


「マーダたちニャーダ族は隠れて移動してくれるか? 狙う者や偵察しているのがいるかもしれない。オレたちが囮になるからよく見ててくれ」


 パイオニア四号、五号、RMAX+トレーラー、ハイラックス二台だと嫌でも目立つ。どうせ目立つのなら隠れているヤツを炙り出す目的で利用させてもらうとしよう。


「わかった。それならおれたちは夜に出発して周辺を探るとしよう」


「悪いな。見つけたら排除していいから」


 空を飛ぶ監視者なら手が出せないが、地上ならニャーダ族の目から逃れることはできんだろうし、捕まえて尋問できる生き物でないかもしれない。だったら目と耳は潰しておくとしよう。


「任せておけ」


 そう言うとすぐに出発していった。いや、メシを食ってからでも構わなかったのに……。


「先発組は早めに寝ろよ。出発は七時だ」


 オレもホームに入り、夕飯を食いながらそれぞれの状況を聞いて、ビール一缶だけにして早めに眠りについた。


 朝、五時に起きて用意を済ませ、ミサロが作ってくれた朝飯を持って外に出た。


 まだ外は暗く、寒さが一段と増していたが、マイセンズで見つけたインナーを着ているので寒がっているヤツはいなかった。


「運転手は乗り物のチェック。エンジンをかけておけ。朝飯はそのあとな。タルダ。ハイラックス二号はどうだ?」


 ハイダは輸送部にいる一人で、運転の才能が高いヤツでもある。


 ちなみにオレはハイラックス一号担当だ。パイオニアは大体の職員が運転できるようになったが、ハイラックスはちょっと違う。ガタイもデカいので、乗りこなせそうなのがハイダとサイオ(輸送部部長)だけだった。


「順調です。早く運転したいです」


「最初は慣らしだからな」


「わかってますって」


 道が道なのでそうスピードは出せないが、結構スピード狂なところがあるから心配だよ。


 朝飯を食ったら用を済ませ、終わった者から乗車させた。


「ロイス。あとを頼む。片付けられないのはランティアックの者に使うように言ってくれ」


「了解です。お気をつけて」


 うんと頷き、先発組が乗車したかを確認。先頭はパイオニア四号。マリルが運転し、警戒はマルゼだ。そして、子供たちも乗せている。


「出発だ!」


 パイオニア四号が発車。続いてRMAX。五号、ハイラックス二号、ハイラックス一号と続く。


 城門前は完全にランティアック側が取り戻し、バデットの姿は見て取れない。兵士たちがよく働いてくれているので、ランティアックからバデットがいなくなるのもそう時間はかからんだろうよ。


 バデット侵入防止柵を兵士たちが退けてくれ、元の世界の敬礼でオレたちを見送ってくれていた。


 兵士団団長を決めれなかったが、兵士団としては纏まったと断言していい。その証拠に兵士たちの顔が引き締まっているからな。


「ランティアックの兵士たちに敬礼!」


 そう叫ぶと、職員たちが理解して敬礼を返した。


 まったく、ノリのいいヤツらだよ。

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