第974話 世界のバランス

 ラダリオンが入ってきたのでダストシュートしてもらった。


「まだロズたちのところに着いてなかったんだな」


 距離的には三十キロくらいあったはず。巨人の状態ならとっくに着いているはずなんだがな。なんかあったのかな?


 ホームに入り、ラダリオンに尋ねてみた。


「三メートルくらいのゴブリンと赤い肌のゴブリンがいたから駆除してた」


 タブレットをつかんで報酬を見ると、二千九百万円を超えていた。


「何匹いたんだ?」


「百匹くらいかな? 半分は駆除したけど、残りは逃げちゃった」


 首長がいたのか? 別動隊か?


 外に出たときに気配は感じなかった。ってことは遠くに逃げたか。なんであんなところにいたんだ?


「入った場所からどのくらい離れている?」


「んー。一キロくらいかな?」


「魔石は取ったか?」


「お腹空いてたから取らなかった」


 ラダリオンらしい理由だこと。


「んじゃ、オレが取るか。昼を食ったらロズたちのところにいってくれ」


 ミリエルと話し合っているときにちょいちょい食っていたからそのままホームを出た。


「やはりゴブリンの気配はないな」


 EARを取り寄せ、ランティアックの方角を確認。歩いて向かった。


 約一キロのところに三メートルはあっただろう首長とひき肉になりすぎて赤い肌なのかもわからない。オーバーキルすぎんだろう。


「検証もできんな」


 首長がここにいる理由がよくわからんが、ラダリオンに雑魚扱いされるならそれほど脅威はないだろう。


「金属類の装備もなければこん棒すら持ってないか」


 もしかして、野良か?


 周辺をくまなく探すが、文明的なものは発見できなかった。


「……まさか、ゴブリンの将軍の配下にでもなりにもりから出てきたのか……?」


 ゴブリンを知っているようでまったくゴブリンの習性を知らない。興味もないから追究するつもりもない。が、仮に配下になりに出てきたのなら続々集まってくるってことになる。


 リミット様がなにもしなければ二十万匹を超えるって意味はこういうことなのか?


「……なんか最悪な方向に向かってそうだな……」


 これまでの駆除員が五年以上生き残れない理由は、対処できない事態に陥っているからだ。


「この世界、本当に危ういよな」


 なんで続いているのか不思議で堪らない。滅亡することばかりで溢れすぎなんだよ。誰か調整してんのか? 駆除員が身を犠牲にして救ってんのか? 世界バランスが狂いすぎてんだよ、ダメ女神がよ!


「ハァー。早め早めの間引きが大切なんだよな」


 ゴブリンが主な原因の場合だけどよ。


 首長の上半身(下半身はひき肉になってます)から血を集め、遠くに投げて魔石を取り出した。


「長いこと生きた首長みたいだな」


 ゴブリンの寿命なと知らんが、拳より大きい魔石からして二、三十年は生きているんじゃなかろうか? 


「魔境からでもきたのか?」


 うー。嫌だ嫌だ。魔境なんかにいきたくない。そんなの死地にいくようなものだろう。それなら報酬を貯めてナパーム弾をたくさん買って絨毯爆撃してやるよ。


「……魔境から流れてきているのなら、ここが通り道ってことか……?」


 前もこの近くに集まっていた。それが本当ならまたここを通るってことだ。


 すぐにホームに入った。


 ラダリオンは中央ホームに移っており、具だくさんなラーメンを食べていた。お前、それ好きだよな。


「ラダリオン。ロズのところにいったら要塞を作ってくれ。ゴブリンが数千匹押し寄せても崩れないようなものを」


「なにかあったんですか?」


 パソコンを弄っていたミリエルが顔を上げた。


 先ほどのことを語り、オレの考察を話した。


「……それは恐ろしいですね……」


 魔境からゴブリンが補給されているようなもの。恐ろしい以外があるなら聞いてみたいよ。


「だからロズたちがいるところを要塞にして流れてくるゴブリンを塞き止めようと思う。戦力が減るのは痛いが、流れを止めないと背後を取られる。それをロズたちにやってもらおう」


 ドワーフは二百人くらいいた。EARを渡せば千匹現れても対処はできるだろうし、武器もランティアックで回収したのもある。請負員とすれば食料の心配もなくなるだろうよ。


「ラダリオン。ロズに要塞化して流れてくるゴブリンを駆除するように言ってくれ。ロズには映像にして知らせるから」


 ロズたちも文字の読み書きができない。なので、映像にして指示を出すことにしているのだ。ラダリオンも説明下手だからな。


「わかった」


「ミリエル。ランティアックで回収したものを選別してロズたちに渡す。手伝ってくれ」


 ミサロと雷牙は忙しそうでホームに入ってこれないでいる。オレ一人では無理なのでミリエルに手伝ってもらうことにする。


「わかりました」


 ラダリオンはまだ食事中なのでミリエルと回収品の選別を行い、終わったらKLX230Sに跨がってホームから出た。


「すっかり暗くなったな」


 第三陣はもうランティアックに着いているだろう。夕食前には着けるかな?


 プランデットをかけ、アクセルを吹かした。


「まったく、いろいろありすぎだよ」


 これこらもいろいろあるんだろうと思うとため息しかでないよ……。

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