第973話 未来の名将軍

「……幸せが怖いって意味、よくわかったよ……」


 オレは今、誰よりも幸せだろう。だが、誰よりも窮地に立たされている。うん十万匹のゴブリンを駆除しろとか無茶もいいところだ。こっちは百人いるかいないかの数で駆除しろと言ってんだぞ? 絶望しかねーよ。


「タカトさん」


 絶望しかなかったが、それは周りが見えてなかったから。視野が狭かったからだ。ちゃんと視野を広くしたら勝ち目はいくらでもある。なにも火山を爆発させなくてもうん十万匹くらい問題はない!


「どうしました?」


「いや、ミリエルがいるといくつも勝機が見えてくるな~と思ってな」


 攻めることも守ることもできる司令官クラスの人間がセフティーブレットには数人もいる。


「タカトさんだからこそ見えるものですよ。わたしではその勝機を見つけ出すことはできませんからね」


「それは経験の差だ。あと五年もしたらミリエルに抜かされるだろうよ」


 オレが生き残れているの人に頼っているから。能力がある人にやらせているから。大軍を率いてとかは無理だ。だが、ミリエルならやれそうだ。


 本当ならミリエルをトップにしてオレが下にいて動きたかった。それが一番組織として強くなると思っている。


「それはともかくマガルスク王国の状況が変わった。リミット様のアナウンスによると、ゴブリンの将軍は十五万の数を率いて三軍、いや、将軍も混ぜれば四軍いる」


 ホワイトボードにマガルスク王国を描き、リミット様からのアナウンスを元に軍団の配置を予想描きして説明した。


「それぞれを軍団には首長クラスがいるということですか」


「そうだな。だが、騎士クラスのヤツはいないと思う。騎士はさらに特異種みたいなものだからな」


 リン・グー(女王、名前なんつったっけ?)のところの騎士は首長より強く、ミサロのような完全な人型だ。あれは別の進化を経た種族だ。野生から進化できるのは首長が精々。それ以上になるのはなにか別の力が働いているんじゃなかろうか? 


「ゴブリンの将軍がどこまでかはわからんが、参謀役がいるのは確かだろう」


 バデットがゴブリンのエサではないかって説をミリエルに言ってみた。


「話を聞いている限り、タカトさんの予想したとおりではないでしょうか? 数十万もの胃を満たそうと思ったら人をエサにするしかないでしょうからね」


 だよな。これから冬になるんだから食料なしにでは生きられないんだから。


「リミット様によれば、なにもしなければ春には二十万匹になると言っていた」


「たった数ヶ月で五万匹も増えるんですか」


「脅威は脅威だが、限界はある。ある一点を超えたら滅びるか別の場所に移るかだ。無限に増えることはないさ」


 そうなったらそうなったで手は打てる。一ヶ所に集めてボン! してやればいいだけだ。


「脅威なのは統一された動きをされたときだ」


「五万匹以下、くらいですかね?」


「そうだな。三軍を駆除したら一万匹くらいがやっと、って感じになるだろうよ」


 所詮、ゴブリン。野生の猿を引き連れるようなもの。ゴブリンの将軍がどれほど強かろうが全体を見渡せはしない。端から瓦解していくだろうよ。


「勝負はそこから、ですね」


 ミリエルは頭がいいから話が早くて助かる。これに経験が加われば希代の将軍となれるだろうよ。


「そうだな。だが、今の情報では、だ。まだ全体が見えないからな。これはあくまでも一つの考え方だ。状況次第では変わってくる。常に情報は持ってくるよ」


 いざってときはミリエルに指揮権を渡すこともある。そのときのためにミリエルには情報を伝えておかないとならないのだ。


「そのときはラダリオンを戻すよ」


「いいんですか? ラダリオンは戦いの要では?」


「ラダリオンが出る敵が現れたらオレの出番はないよ。チートタイムもないしな」


 巨人になる手もなくはないが、それならラダリオンを出したほうが勝率は高くなる。オレが下がったほうがいい。


「それに、こちらにはマルデガルさんがいる。あの人ならチートタイム並みに動ける人だ。十万匹くらいは任せて大丈夫だろう」


 リミット様がアナウンスしているかは謎だが、どこかで職員と会えばマガルスク王国のことも伝わるはず。二万匹で一人セフティーホームに入れられるんだからくるなって言っても全力疾走でやってくるだろうよ。


「ヤマザキさんの仲間もいますしね」


 あ、エクセリアさんの存在を忘れてた! 今どこにいんだ、あの人は?


「数が多すぎてエクセリアさんが倒したのかわからんな」


「そうですね。都市国家方面もたくさん現れているようですから」


 ミリエルもタブレットをつかんで報酬の動きを見た。


 報酬学からして十三万匹から二、三千はプラスされているはずだ。一時期、報酬がとんでもなく爆上がりしてたからな。


「報酬も上がっては下がりの繰り返しですね」


「そうだな。駆除員だけで稼ぎたいものだが、そうもいかんしな~」


 請負員を増やせば増やすほどこちらの実入りは少なくなり、維持するために出費が多くなる。世の社長はこんな気持ちでいるんかね?


「あ、そうだ。ランティアックで回収したものを運び入れるんで整理をおばちゃんたちに頼んでくれ。欲しいのがあったら持ち帰ってもいいから」


 子供たちが仕分けはしているが、集める量が多すぎて対処し切れないんだよな。


「わかりました。任せてください」


 ラダリオンが入ってくるまでミリエルとミーティングして待った。

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