第972話 へし折ってやる!

 出た場所は事務室の前だった。


「マスター!」


「第三陣を送る。至急集めてくれ」


 いきたいと手を挙げる者は多く、人選は揉めたようだが、なんとか二十人は決まっている。館に待機しているはずだからすぐに集めてもらった。


 館から出ると、広場にルースカルガン六号艇が着陸していた。


「マスター!」


 後部に回ると、獣人姉弟のミハレアとルスクが昼食していた。


「出発するから用意してくれ」


「「了解!」」


 昼食を片付け、中に入っていった。


 しばらくして第三陣のメンバーが集まり出した。


「マーダ。帰ってたんだ。都市国家はいいのか?」


「あっちは娘たちで足りているからな。タカトのほうにいくよ」


「そうか。十数万はいるから遠慮なく稼ぐといい」


「そんなにいるのか。なら、今年は帰ってこれんな」


「ああ。妻帯者は止めておけ」


 マーダの嫁はいっているが、他はどうだったかわからん。寂しいなら止めておけよ。


「稼いでこいとケツを叩かれたよ」


 うん。ニャーダ族の女はそうだったな。


「マスター。集まりました」


 マーダの他に五人。他にモリスの民が八人。ミシニー。モニス。予備兵団は四人が集まった。


「巨人がいるとは聞いてたが、モニスのことだったんだな」


 モニスも都市国家方面にいたから違うヤツかと思ったよ。


「都市国家ではあまり稼げなかったからな。そちらで稼がせてもらうよ」


「そうか。ほら、腕輪だ」


 巨人のままでも腕につけられる謎仕様。小さくなるとこいつは背が高いな。百八十センチはあるんじゃないか?


「ミシニーはこちらでいいのか? カインゼルさんのほうでも稼げるぞ」


「海はもうこりごり。揺れない大地のありがたさを知ったよ」


 平気な顔で乗っていた記憶しかないが? それ、酒の飲みすぎでさらに酔ったんじゃないのか?


「まあ、酒はほどほどにしろよ」


「報酬もなくなったし、わたしも稼がせてもらうよ」


 どんだけ飲んだんだよ。かなり稼いでいたよね?


「まあ、がんばってくれ。よし! 用意ができたのなら出発しろ! ビーコンを辿ればマガルスク王国にいけるから」


「タカトは乗らないのか?」


「オレはダストシュートするから先にいっててくれ。」


「ミハレア、ルスク、頼むぞ」


「「了解!」」


 第三陣営が乗り込み、すぐに離陸した。


 消えるまで見送ったら館に入り、シエイラの部屋に向かった。


「起きてたか」


 寝てるのかと思ったら机で書類を纏めていた。


「病気じゃないんだから一日中寝てらんないわよ。体調がいいときは仕事をするわ」


「無理するなよ」


 シエイラの側にいき、少し出てきた腹を撫でさせてもらった。


「順調に育っているようだな」


 触ったくらいで順調かはわからんが、シエイラがこうして仕事をして笑っていられるのなら問題ないってことだろう。


「これから本格的な駆除に入る。おそらく、春まで帰ってこれなくなるだろう」


「こちらのことは気にせずゴブリン駆除に集中してちょうだい。あなたが死んだら元も子もないんだから。生きて帰ってくる。それがわたしの願いよ。あと、我慢できないなら女を抱いても構わないわよ」


「はぁ?」


「タカトは感情を溜めすぎてお酒に走りすぎなのよ。たまには女を抱いて発散させなさい」


「堂々と浮気許可か? 妊娠中の浮気は一生ものって聞くぞ」


 オレはそれで家庭を崩壊させたくないぞ。


「タカトのその考えは嬉しいわ。でも、あなたはもうあなただけの命じゃないわ。何百人もの命を背負っている。死ぬことは許されないわ。あなたには重みでしかないでしょうけどね」


「…………」


「ほら。そうやって溜め込む」


 両頬を引っ張られた。


「わたしはこれまでたくさんの男に抱かれてきたわ。自分がさんざんやってきてタカトにするなって言わないし、言えないわ」


「それはオレと出会う前のことだろう。オレだって他の女を抱いたことはあるさ」


 オレは別に何人男と付き合っていたとか気にしないタイプだ。今、こうしてオレを見ててくれるならな。


「まったく、頭が固いんだから。でも、それがタカトだもね」


 今度は両手でオレの頬を包んだ。


「無理矢理やれとは言わないわ。でも、我慢しないで。壊れる前に女を頼りなさい。タカトの周りにいる女はちゃんと受け入れてくれる女だから。責任うんぬんとか考えなくていいわ。別にあなたに責任を取って欲しいわけじゃないんだからね」


「……オレは別に女に飢えているわけじゃないしな……」


 性欲は人並みにあるが、だからと言って無節操に求めるほどでもない。オレ、結構好みが片寄っているんだよ……。


「それは女神様に制限されているからよ」


 なんかそんなことを前にも言ってたが、オレは昔から無節操ではなかったぞ?


「……オレは人並みの幸せで満足できる男なんだけどな……」


「人並みの人生を送れてないでしょう」


 まったくそのとおりで反論できなかった。


「まあ、そう深く考えないでいいわ。わたしはあなたからたくさんの愛をもらった。だから、あなたには幸せでいて欲しいの。心が壊れないで欲しいの。あなたが笑っていられるならわたしはなんでも受け入れるわ」


 求めていたものを手に入れるとこんなに人って変わるものなんだな。


「……ありがとう。これでまた生きることができるよ……」


 死亡フラグがなんぼのもんじゃない。オレは必ず生きて帰ってくるぞ!

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