第971話 強運

 城から戻ると、ルースホワイト以外の職員たちが集まっていた。


「マガルスク王国の地図を」


 そう指示を出すと、職員がすぐに広げてくれた。


「まず先行隊はミルズガンの手前の町に向かってもらい、迎え討つ橋頭堡きょうとうほを築いてもらいたい。ルースブラックが着陸できる山か砦があればそこでも構わない。あるていど削れば逃げていい。もちろん、そこで全滅させても構わない」


「数はわかるのか?」


「そこまではわかりませんが、万単位……」


「どうかしたのか?」


 沈黙してしまったオレにサイルスさんが代表して尋ねてきた。


「……いや、ちょっと怖い考えが浮かんでしまいましたもので」


「妄想でもいいから言ってみろ」


「もしかすると、バデットはゴブリンのエサじゃなかったんだろうか? って思ってしまいました」


 死体は腐るが、バデット化したら腐敗が緩やかになっていた。この冬を越えるためにマガルスク王国の民をバデット化したんじゃなかろうか? ゴブリンは悪食だ。あのくらいの腐敗なら構わず食ってしまうだろうよ。


「……怖いな……」


「まったくです」


 誰が考えたんだ? これが本当ならかなり頭のいいヤツがいるってことになるぞ。


「いや、お前だよ。怖いのは」


 え? オレ? なんでよ!?


「ふとしたことでそんなことを考えられるからだよ。魔王軍としても嫌な存在だろうよ。お前は一度、魔王軍の将を倒して計画を潰しているんだからな」


「運の賜物ですよ」


 チートタイムをもらわなければ魔王軍の将(名前、なんて言ったっけ?)を倒すことはできなかった。もう運としか言いようがないよ。


「運も実力のうちだ。お前はその強運を引き寄せているんだからな」


 まあ、確かにラダリオンやミリエルと出会えているのだから強運と言っていいか。ダメ女神に拉致されたのは不運以外なんでもないけどよ。


「あくまでもオレの妄想です。ですが、それが正しいときはバデットをエサにしましょうか。あいつらは魔力に寄ってきます。なら、進路を変えてやることもできます。駆除しやすいところにでも導いてやってください」


「おれに指揮しろと?」


「稼ぎ飽きましたか?」


「いや、もっと稼いでおきたい。こんな機会、そう回ってくることはないだろうからな」


 オレの場合、何回でも回ってきそうだけど。


「ルイス。サイルスさんの補佐につけ。人選は任せる。ロイスは悪いがオレの補佐を頼む」


「了解です」


「お任せください」


「サイルス隊は明日の朝に出発してください。オレたちは明後日の朝に出発しますんで」


「残り全員を連れていくのか?」


「連れていきます。セフティーブレットはゴブリンを駆除するためにありますから」


 四、五歳の子もいるが、セフティーブレットに年齢は関係ない。直接、駆除できなくとも弾込めや物を運ぶくらいはできる。


「ラダリオンはドワーフのところにいけ。請負員を纏めろ。予備兵として投入するときのために。雷牙はカインゼルさんのところにいってくれ。あちらも激戦になるだろうからな。補給を頼む」


 補給がなければ十万匹以上を駆除することはできんだろうよ。


「わかった」


「了解」


「オレは第三陣を連れてくる。ロイス。それまで頼む」


「わかりました」


 二人を連れてホームに入った。


「どうしたの?」


 タイミングよくミサロが入っててくれた。


「雷牙をミサロのところにダストシュートしてくれ。カインゼルさんのところにいってもらう」


 アレクライトは補給のためにコルトルスの町まで戻ってくる。そのときに乗り込んでもらうとしよう。


「わかったわ」


「雷牙、頼むぞ」


「了解。任せて」


 そんな頼もしい雷牙の頭をわしわししてやった。


「ラダリオン。準備ができたら出発してくれな」


「わかった」


 中央ルームに向かい、ミリエルが入ってくるまで必要なものを買っておくとする。


「三千万円超えてたか。これならハイラックスが二台は買えるな。七十パーオフシールも残っているし」


 乗ってみたかったが、道が狭くて諦めていたんだよな。


 だが、マガルスク王国の道幅は広く、主要街道は馬車が交差できるくらいあるそうだ。それならハイラックスでも移動できるってことだ。


「さすがに新品はもったいないから中古を買うか」


 調べたら中古でもなかなかな値段をしていたが、三百万円のがあった。七十パーオフシールを使えば二台で二百万円もかからない。これなら万が一壊れても惜しくはない。


 さっそく買ってみて具合を確かめる。


「さすがメイド・イン・ジャパン。問題なさそうだ」


 ディーゼルエンジンだから軽油を買わないといかんな。またガレージが狭くなりそうだ。


「タカトさん。どうしました?」


 昼になってミリエルが入ってきたのでリミット様のアナウンスを教えた。


「十五万匹ですか。これまで駆除したより多いですね」


「そうだな。だが、問題はないさ。ラダリオンと交代するかもしれないからよろしくな」


「はい。そのときを楽しみにしていますね。一万匹でも二万匹でも永遠に眠らせてやります」


 ほんと、頼もしすぎるよ。


「ダストシュート頼むよ」


「はい。わかりました」


 玄関に立って館にダストシュートしてもらった。

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