第969話 リユース

「頼もしい子たちですね」


 どんなことをやってきたかはわからんが、アリサの言葉でいろいろやってきたのがわかるよ。


「そうだな。十年後に活躍するヤツらだからな」


 マリルもマルゼもまだ幼いが、素質はあると思う。オレが教えることをスポンジのように吸収しているからな。十年後は最前線に立っていることだろうよ。


「アリサも十年後も頼むぞ」


 こいつが何歳か知らんが、きっと十年後も同じ姿をしているだろう。オレはさらに老けて最前線に立っていられるかわからない。四十なんてさらに体力が落ちてんだろうな~。


 ハァー。息を切らしながら走っている未来しか見えないよ。最前線は若いヤツらに任せて一日五匹駆除したらいい日々にしたいぜ。


「マスターなら十年後でもがんばってますよ」


「オレは後方で若い者が働くところを眺めていたいよ」


 この世界で四十歳なんて老人──あー嫌だ嫌だ。考えたくないよ。


「ふふ。では、訓練にいってきますね」


「ああ。送ってくれてありがとな。気をつけていってきてくれ」


 三十分前にも見送ったが、エルフたちが乗り込むのを見送り、ルースホワイトが消えるまで手を振った。


「さて。あいつらのために菓子でも用意してやるか」


 まだ臭いは漂っているが、あいつらなら気にしないだろう。オレと違って過酷な環境で育ってきたヤツらだしな。


 ホームからアイスとジュースを持ってきてやった。


 三十分くらいしてマリルたちがホカホカと上がってきたのでジュースを渡してやり、飲んだらアイスを配った。


「改めてお帰り。よくがんばったな。元気なら報告してくれるか? 疲れているなら明日でも構わんが」


「大丈夫。疲れてないから」


 マルゼからデジカメを渡され、写したものを見ていった。


「結構、荒んでいるな。約一年近く籠城したらこうなるのか」


 ずっと籠城していたわけじゃないらしいが、ランティアックと完全に連絡が途絶えて半年以上。どことも連絡がつかないとここまで荒れるものなんだな。よく崩壊しなかったものだ。


「麦も結構あるな」


 倉庫は二十以上あり、かなりの量が貯蔵されている。確実に今年の冬は越えられるだろう。


「プランデットも見せてくれ。あ、子供たちは休んでいいぞ。腹が減ったら職員に言えば用意してくれるから」


「他の人たちはどうしたの?」


「街に出ているよ。バデットはまだたくさんいるからな。回収しながらだからなかなか進んでないよ」


 バデットを排除する報酬として街にあるものは回収しても構わないって男爵に許可をいただいた。多少ゴブリン駆除が遅れても回収せねばならんだろう。リユースだ。


「回収するのはなんでもいいの?」


「そうだな。食糧、衣服、武器、貴金属、あとは自分のものにしたいのがあったら好きにしていいぞ」


 そのくらいなければやる気も出ないだろう。欲しいものがあるかは知らんけど。


「マリルたちも好きなものは自分のものにしていいぞ。たくさんあるようならボックスコンテナがあるから名前を書いておくんだぞ」


 エルガゴラさんも屋敷で使うものを集めに出た。足りないならまたアイテムボックス化してもらおう。


「おじちゃん。今から街に出てもいい?」


「まあ、構わんが、そう急ぐこともないだろう。今日はゆっくりして明日からにしたどうだ?」


 ランティアックは広い。十数人ですべてを網羅できないんだから急ぐこともないだろう。


「そんなに疲れてないから大丈夫。子供たちは置いていくよ」


「おれも疲れてないから大丈夫」


「そうか? まあ、二人がやりたいなら好きにするといいさ。暗くなる前には帰ってこいよ」


「了解! ヤッカたちはここで休んでな」


 ヤッカって言うのか。この子は。戦闘より後方勤務が似合いそうな雰囲気だな。


「う、うん。気をつけて」


 不安だろうに、年下の子を守るように肩を寄せ合っていた。


 ……マリル、なかなか見る目があるじゃないか……。


 二人を見送ったらヤッカたちに仕事を与えることにする。ただ待つよりなにかしていたほうが気が紛れるだろうからな。


「この服を綺麗なのと汚れているの、もう着れないのに分けてくれるか? 働いたら腹一杯食わせてやるから」


「わ、わかりました。やります」


「うん。頼むな」


 不安そうな四歳くらいね女の子の頭を優しく撫でた。


「オレはそこにいるからなにかあれば声をかけてくれ。他の大人でも構わないから」


 そう告げて席に戻り、プランデットをかけてマルシファの様子を見るとする。


「……この世界の女の子は過激だな……」


 マリルが大人しく情報収集するとは思わなかったが、都市型ゴブリンを殺すのに一切の躊躇いがない。即キルじゃないか。道徳とか倫理とか教えたほうがいいんだろうか? いや、ないほうがいいのか? 


「教育って難しいな~」


 二人には健やかに育って欲しいが、駆除請負員としてやっていくなら非情なくらいが精神的にもいい。そこら辺のバランスがよくわからんよ……。


 ハァー。まるで猛獣を育てるようで胃が痛いよ。


 こういうときは酒だと、トリスをウーロン茶で割って胃に流し込んだ。あーこのキュッって感じが痛みを紛らわしてくれるよ……。

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