第968話 *マリル* 7

 一分としないで駆除終了。たわいもなかったよ。これならマチェットでやればよかった。弾を無駄にしちゃったよ。


「どこかにゴブリンいないかね?」


 弾はおじちゃんが出してくれるとは言え、なにもかもおんぶに抱っこでは情けなすぎる。弾代くらい稼げるようにならないとおじちゃんに認めてもらえないよ。


「ねーちゃん。人が集まってきたよ」


「了解。撤収だ」


 ガソリンを撒いて火をつける。


 人が集まってくるなら大火とはならないでしょう。あとは町の方々にがんばってくださいな。


 裏から飛び出し、人のいないところで装備を片付ける。


「あんたは先に壁の外に出な。あたしは騒ぎに乗じて出るから」


「了解」


 マルゼとはそこで別れてヤッカたちのところに向かった。


 一分もしないて終わらせたから用意できているかな? と思ったけど、元々用意するほどの荷物もない。ほぼなにも持っていなかった。


「これだけかい?」


 ヤッカより下の子ばかり。八人だけだった。もっといたんだけどな?


「うん。他も誘ったけど、外に出たくないって」


 まあ、外に出たこともないヤツにしたら外は怖いだろうさ。あたしだって村を出るときは不安だったしね。責められたりしないよ。


「わかった。いくよ」


 火事の騒ぎがここまで聞こえる。今がチャンスだ。


 城門は二つあるけど、主要の城門に向かった。


 兵士や町の者が結構いたけど、城門は開いているので問題なし。スモーククレネードをレッグバッグから出して人の中に放り投げた。


 パン! と破裂して煙が出る。それに驚いた人たちがパニックを起こす。


「大きい子は小さい子の手を繋ぎな。ヤッカは皆を先導して外に走れ。あたしが最後にいくから」


 パニックになっているとは言え、兵士たちはそこまでパニックになっていない。邪魔されたときのためにあたしは少し離れて子供たちのあとに続いた。


 どうなることになるかと思ったけど、無事、マルシファを脱出。城壁の外にも人はいたものの呼び止められることはない。マルゼと合流してそのまま走り続けていると、急に影った。


 なに? と見上げたらルースホワイトがいた。


「迎えにきてくれたの?」


 上空を飛び超えて後ろ向きに着陸。ハッチが開いた。


「こっちだ!」


「マルゼ! そのまま走れ!」


 先頭を走るマルゼが走ればヤッカたちも恐れることはない。あたしは殿となってグロック19を抜いてマルシファのほうを向いた。


 つけてくる者はなし。一キロは離れただろうからよほど視力がよくなければ気づくこともないはずだ。


「ねーちゃん!」


 マルゼの叫びに振り返って全力で走った。


 エルフの人らがEARを構えているのを横目にして飛び立とうとするルースホワイトに飛び乗った。


「お疲れ様。ナイスタイミングだったようね」


 アリサってエルフの人の手を借りて起き上がった。


「ありがとうございます」


 おじちゃんから礼儀は大切だと教えられたので感謝の言葉を述べた。


「どう致しまして。怪我はない?」


「はい。大丈夫です。迎えにきてくれたんですか?」


「いえ、訓練中だったのよ。マルシファの上空を飛んでいたら煙が上がっているのが見えたから、きっとあなたたちがなにかしたんだろうと思って様子を見てたのよ」


 偶然ってことか。確かにナイスタイミングだったようだ。


「途中で降ろしてもらえばあたしたちでランティアックに戻ります」


 訓練中なら邪魔しちゃ悪いでしょう。


「大丈夫よ。ランティアックまで数分なんだから」


 まあ、確かにルースホワイトならあっと言う間か。


「ありがとうございます」


 降りるのもランティアックまでいくのも同じなので、ありがたく送ってもらうことにした。


 五分もしないで着陸体勢に入り、発着場に着陸。ハッチが開いた。


「お帰り」


 外に出ると、おじちゃんが迎えてくれた。


 自然と笑みが溢れてしまう。ニヤける前にマルゼが「ただいま!」と出てくれたからなんとかニヤけ顔を見せなくて済んだよ。ふー。


「無事帰ってきて偉いぞ」


 マルゼの頭を撫で、あたしの頭をわしわししてくれた。


 いつの間にかおじちゃんに褒められるのが嬉しくてたまらなくなっている。実の父親には思ったことないのに。


「仲間を連れてきたのか?」


「うん。尊敬できるのがいたから仲間にした」


「そうか。いい出会いをしたようだな」


 余計なことを、って言われることも予想してたけど、おじちゃんはそんな顔をすることもない。優しく笑ってくれた。


「じゃあ、その子たちの面倒は二人がやれ。街から使えるものを集める作業が追いついてないんだ。マリル隊として鍛えてみろ」


「あたしの隊?」


「そうだ。いずれお前たちにも一部隊を率いてもらいたいからな。その練習だ」


 あたしが部隊を率いるの?


「まあ、そう深く考えることはないさ。あいつらを強くする目的ついでに部隊がどんなものかを学べばいいさ。必要とあればマリルには前線に出てもらいたい。お前の突破力は不利な状況でも覆させるだけの力があるからな」


 おじちゃん、あたしのことそんな風に見ててくれたんだ。ふふ。


「よし。風呂に入ってさっぱりしてこい。報告は夜にでも聞かせてくれ」


 あ、お風呂入ってなかったっけ。あたし、臭う!?


「お風呂入ってくる!」


 そう言ってお風呂に向かった。

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