第966話 *マリル* 5
「ねーちゃん、きたよ!」
ヤッカからマルシファのことをプランデットで記録しながら話を聞いていると、マルゼが駆け込んできた。
「何人?」
「八人。刃物やこん棒を持ってた」
話し合いにきた、ってわけじゃないみたいだ。いや、都市型ゴブリンは力で語り合うのかもしんないな。
「マルゼ。ゴブリンは殺せるね?」
「当たり前だろう。報酬が入らないのが残念だけど」
本当にね。それだけが惜しまれるよ。
「ヤッカ。物陰に隠れてな」
グロック19に弾を装填させてからゴブリンどもを迎えた。
やってきたのは柄の悪いヤツばかり。よく人間社会で生きていたと思う。性根の悪さが顔に出すぎじゃないか?
「なにか用?」
グロック19には手をかけず、頭の後ろで手を組んでわざと隙を見せ、小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「うちのもんが帰ってこねー。なにをした?」
穴掘り係を見ながら怖~い顔で尋ねてきた。
「殺しにきたから殺してやった。そこの土の中で朽ちてる最中だよ」
怖~い顔に可愛く微笑み返した。
「ガキが。生きて──」
マルゼのパチンコ玉が男の額にメリ込んだ。あれ、意外とエゲつない武器なんだよな。
「生きて、なんなの? 今度は最後までしゃべらせてあげるからいいなよ」
「テメー!」
堪え性のないゴブリンがこん棒を振り上げたが、マルゼのパチンコ玉に黙らされた。
倒れたゴブリンに目を向ける仲間のゴブリンたち。戦い方をまるで知らないな。敵から目を逸らすとかバカすぎんだろう。
グロック19を抜いてゴブリンどもの右脚を撃ち抜いてやった。
「弾代にもならないんだから嫌になるよ」
一発でパンが買えるんだから贅沢な攻撃だよ。パン一つ分の価値もないヤツに使うんだから。
まだ弾は残っているけど、マガジンを交換してホルスターに戻した。まだ仲間がいるかもしれないからね。
「……こ、こんなことしてタダで済むと思ってんのか……?」
「それ、前のヤツからも聞いた。で、タダで済んでないのはどっち? あたし? それともお前ら?」
落ちている武器を集めて一ヶ所に纏め、ゴブリンどもの懐を探った。
「結構持ってるね」
ここのお金の価値は知らないが、銅貨や銀貨が二十枚くらい入っていた。
「ヤッカ。あげる」
あたしはランティアックで集めたお金を持っている。こいつらのお金など邪魔でしかないよ。
「ラウル一家ってあと何人?」
銃口を額に当てて尋ねた。
「…………」
引き金を引いた。
「ラウル一家はあと何人?」
次のヤツの額に銃口を当てて同じことを尋ねた。
「た、助けて──」
引き金を引いた。
なかなか口を割ってくれない。クズのクセに口の固いヤツらだよ。
「ねーちゃん。一人は生かしておいてよ。穴掘り係が死にそうなんだ、」
初代穴掘り係に目を向けたら本当に死にそうだった。あ、止血してなかったわ。ゴメンね。
「運がよかったね。二代目穴掘り係に任命してあげるよ」
今度は止血して穴を掘ってもらうことにした。
「マルゼ。ちょっと周辺を探ってきて。いつまでもゴブリンに構ってらんないよ」
あたしたちはマルシファの情報を集めにきたのだ。邪魔されてたまるか。おじちゃんに褒められるくらいの情報を集めなくちゃならないんだよ。
「了解」
気持ちを切り替えてまたヤッカから話を聞くとする。
大体のことを聞いていたら陽が傾いてきた。
「今日はこのくらいにするか。炊き出しするから手伝って」
さすがにあたしもお腹が空いた。シチューでも作るとするか。
食材は芋と豆、あとはベーコンを入れて作る。おじちゃんみたいな味にはなんないな~。
まあ、シチュールーを使っているから不味くはない。ヤッカたちはあまりの美味しさに無我夢中で食べているよ。
「ねーちゃん、ただいま」
「お帰り。食べる?」
「ううん。いらない。途中でハンバーガー食べたから。それと、ランティアックと連絡が取れたってことで町は大騒ぎしてたよ」
「まだバデットがいるのに気が早いね」
「塩が足りないみたいだよ」
「塩か。村でも塩が足りなくなったときあったね」
まだ両親が生きていた頃に塩がなくて大人たちが買いにいったことあったっけ。
「塩が足りないと不味いの?」
「不味いよ。おじちゃんも動いて汗をかいたときは塩飴を舐めて水分を摂れって言ってたでしょう。人間は塩分が抜けると体に悪いんだよ」
「ふ~ん」
わかってないときの返事だが、まあ、八歳には理解できないでしょう。あたしもわかるように説明できない。大事だってことさえわかればそれでいいよ。
「明日は町を回ってみるか」
「そうだね。明日にはランティアックのことが町中に広がると思うし」
人が出てきたら人に紛れることができ、もっと情報が集められるはずだ。
「今日は早めに寝るか。マルゼ、先に眠れる?」
「おれは大丈夫。ねーちゃんが先に寝なよ。ねーちゃんのほうが寝てないんだからさ」
そう言われると眠気が出てきた。四時間も眠ってなかったっけね。
「じゃあ、先に寝るよ。我慢できないときはすぐ起こすんだよ」
八歳の子供に十二時間以上起きているのは無理だ。我慢できず寝られるより起こされたほうがいいよ。
「わかった」
歯を磨いたら毛布を出してすぐに眠りについた。
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