第965話 *マリル* 4

 食料はランティアックで集めたものなので、惜しみなく豆スープを振る舞った。


 贅沢な舌になってしまったのであたしらは配る担当をし、やってくる人らに配ってやってすべての胃を満たしてやった。


 人の食材だとここまで寛大になれるものなんだね。余ったものは勝手にもってってもらった。


「マルゼ。タープを張って」


 あたしはグロック19を抜いて弾を装填。ホルスターに戻した。


 まあ、あれだけ食事を振る舞っていたら目立つよね。ただでさえ食料不足が続いている。奪ってでも手に入れたいでしょうよ。


「それ以上近づくなら倒されても文句言わないでね」


 柄の悪さが服を着ているかのようだ。


「お嬢ちゃん、マルシファのもんじゃねーな?」


「それが?」


「どこから入ったか知らねーが、マルシファに勝手に入ったなら犯罪だ。殺されても文句は言えねーぜ」


「だったらお前が死ね」


 グロック19を抜いて、男たちの太股を撃ち抜いてやった。


 魔法使いのじいちゃんに音を出ない魔法をかけてもらっているので音を気にする心配はない。


「……テ、テメー……!」


「まさか、自分が殺されるなんて考えもしなかった? そんなことないよね?」


「こ、こんなことしてタダで済むと思ってんのか?」


「思っているよ」


 あたし、こーゆー大人──いや、しゃべるゴブリンは嫌いだ。


 おじちゃんも薄汚いしゃべるゴブリンは駆除して構わないと言っていた。それで問題が起きても気にするな。文句を言ってくるヤツはゴブリンの仲間だ。すべて駆除しろ。あとはオレがなんとかするからって。


 おじちゃんの言葉には強い信頼がある。ここにきたのだってセフティーブレットの仲間を助けるため。そこに種族も性別も役職も関係ない。セフティーブレットの一員であれば必ず助ける。例外はない。絶対的ルールだ。


 もちろん、どこにいるかわからない者を救うことはできないから、必ず誰かは助けに戻ってこい。残された者は仲間くるまで泥を啜っても生き残れ。


「セフティーブレットは一人のために。一人はセフティーブレットのために。うちにケンカを吹っ掛けるなら死ぬ気でかかってきな」


 男の額に銃口を当て、引き金を引いた。


「ねーちゃん。二人は残しておいてよ」


「わかってる」


 自分たちの墓場を掘ってもらわなくちゃならないからね。


 五人中三人を駆除した。


「死にたくなかったら仲間を埋める穴を掘りな。そしたら助けてやるから」


「ほ、本当か!?」


「人との約束は必ず守れと教えられてるんでね。破ることはしないさ」


「わ、わかった! 掘るから殺さないでくれ!」


 スコップを二つ出してやり、二人は脚の痛みに堪えながら穴を掘り出した。


「マルゼ。見張ってて。サボるようなら殺しても構わないから」


 グロック19を渡し、わたしはヤッカのところに向かった。


「ヤッカ。あのゴブリンども、なんなのか知ってる?」


「このマルシファの裏を仕切っているラウル一家だよ」


 へー。こんな城塞都市でもマフィアっているもんなんだね。稼げるんだろうか?


 あたしは商売のことなんてさっぱりだけど、とても稼げるような規模の都市だとは思えないんだけどな~。帰ったらおじちゃんに訊いてみようっと。


「大丈夫かな? ラウル一家は怖いよ」


「あたしたちのほうがもっと怖いから大丈夫だよ」


 山で十二年生き抜き、おじちゃんに戦いの心得や技術を教えてもらい、最高級の装備をたくさんもらった。ゴブリンの百や二百、余裕で駆除できるよ。


「ヤッカたちは気にすることはない。因縁つけられたらセフティーブレットがやったことだと言いな。文句があるならあたしより強い人たちを挨拶にきてもらうからさ」


 おじちゃんなら挨拶一発にRPG-7をぶっ放すだろうな~。ゴブリンに一切の情を見せない。それが都市型ゴブリンでもね。


「ねーちゃん! 掘れたよ~!」


 お、もう掘れたんだ。人間、必死になるととんでもない力を見せるもんなんだね。あたしも必死で強くならないとな。そうじゃないとおじちゃんの横にたてないからね。


 穴のところに向かうと、いい感じに掘られていた。


 マルゼからグロック19を返してもらい、死体を穴に入れるように命令する。


「ご苦労様」


 血を流し、痛みを堪えながら穴を掘ったせいで顔が真っ青になったゴブリンの左腿を撃ってやる。


「なっ!? 助けてくれる約束だろう?!」


「約束? あたし、人との約束は守れと教わったけど、ゴブリンとの約束は守れとは教わらなかったな~」


 男の額を撃ち抜いてやった。あん! 穴に落ちなかった! 落ちるように撃ったのに!


 まだまだ練習が足りないな~と思いながらもう一匹に銃口を向けた。


「穴を埋めな」


 ゴブリンのために汗一つ垂らしたくないからね。


「……こ、殺さないでくれ……」


「安心しな。あんたは穴掘り係と生かしておいてやる。逃げるなら殺すけど」


 またくるかもしれない。なら、一匹は穴掘り要員として残しておくとしよう。


「マルゼ。水をくれてやりな。仕事をするなら報酬を与えなくちゃならないからね」


 ゴブリンでも働いたのなら報酬を与える。ただ働きはおじちゃんの嫌うところ。ちゃんと仕事をまっとうしたのならそれに見合う報酬を与える。それが雇い主の義務だからね。

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