第963話 *マリル* 2
町は大きいのであたしたちに気を止めるのはいなかった。
ただ、露店はなく、大通りなのに開いている店もない。これだけの規模の町なら賑わっていると思うのになぁ。
「住んでた村より活気がないね」
マルゼもそう思ったようだ。
「毎日食べられてないんだろうね」
あたしたたちも食うに困るときはあったけど、山に入ればなんとか狩りができて肉が食えたものだ。外でバデットがうろついてたんじゃ狩りにもいけないよね。
「こんなところの情報っているのかな?」
マルゼが疑問に思うのは当然だ。あたしもそう思っているからね。
「おじちゃんが必要ってんなら必要なんでしょ」
いつも情報は大事だ。なにかを判断するときに必要となるものだと言っていた。
正直、おじちゃんは頭がいいのであたしには理解できないことが多い。でも、いろんな人から聞いたおじちゃんは間違ったことはしないし、仲間を誰一人失わせていない。
勇者が相手しそうなバケモノでも協力し合って倒したとも言っていたっけ。
そのバケモノの写真を見たけど、ウソとしか思えないバケモノだった。いや、あんなの人が倒せるわけないよ!
「そこがマスターの凄いところさ。自分は臆病だ、弱いだと言っているが、真っ先に最前線に立って勝利を収めるんだからな。英雄ってのはあんな人のことを言うんだろうよ」
この戦いを見た人は凄く興奮してたっけ。
確かにわからないではない。こんなのを倒した者が一般人とかあり得ない。英雄か勇者でなければなんなんだって話だ。
「ねーちゃん、あれ」
と、マルゼに物思いから引っ張られ、現実に戻された。いけないいけない。周りに目を向けてなかったよ。
マルゼが見ているほうに痩せこけた子供が四人、皿を持ってものごいしていた。
「お恵みってヤツかな?」
「それとはちょっと違うかも」
コラウスの街にいったときに孤児院の子供が「お恵みを!」と叫んでいるのを見たことあるけど、あれとは違う。あっちは生活のために。こっちは生きるために、って感じだ。
「おじちゃんが言ってたこと覚えている?」
「もちろん。味方が欲しいなら弱っているヤツ。利用したいのなら金を持っているヤツ。仲間にしたいのなら尊敬できるヤツ、でしょう」
マルゼの自信満々の答えに頭を撫でてやった。
「手数を増やすよ」
「了解」
カロリーバーじゃたべものかわからないだろうからパンと干し肉(サラミ)を出して痩せこけた子供のところに向かった。
「おじひを」
か細い声。もう何日も食べてないんだろうね。
「ほら。食いな」
まずは一つの皿にパンを置いてやった。
痩せこけた子供たちはびっくりしたが、年長と思われる八、九歳の男の子がつかんで半分にして五、六歳の子に食べさせた。
おじちゃんが言っていた。リーダーを見極めろって。
集団になれば必ずリーダーは作られていくものであり、手下をどう扱っているかで集団としての価値が決まるって。
その言葉に照らし合わせるのなら八、九歳の男の子がリーダーであり、下を大切にしているのがわかった。
「まだあるから食いな」
もう一つ出して皿に置くと、男の子はびっくりした顔を向けた。
「ゆっくり食べな。パンはまだあるから。水も飲むんだよ」
空腹時にはいきなり食べさせるなと言われている。胃がびっくりして腹を壊すんだってさ。
ペットボトルの封を切ってやり、小さい子から飲ませた。
「あんたら孤児かい?」
「う、うん。そうだよ」
「仲間はここにいるだけ?」
「もっといる。まだ動けるおれたちがおじひをもらってる」
あたしでもわかる。こいつは当たりだって。
「そこに案内しな。慈悲を与えてやるから」
「どうしてそこまでしてくれるんだ?」
お、警戒心もちゃんと持っているんだ。なかなか賢いじゃないか。
警戒心を持っているのは賢い証拠。それ、褒めてのか? とおじちゃんに言われて眉をしかめたけど、こうしてみるとよくわかる。経験から学んでいるから警戒心を持つんだってね。
「あたしらは外からきて、マルシファのことなんも知らないんだよ」
「外からきたのか!?」
こんな子供でも自分たちが置かれた状況を理解しているんだ。
「そうだよ。バケモノはまだいるけど、冬前にはいなくなると思う」
だからってこの子たちの暮らしがよくなるってことはないだろうけどね。それどころかさらに厳しい日がやってくるでしょうよ。
「あたしらは外国、外国ってわかるかい?」
「知らない」
まあ、この子らにしたらマルシファがすべて。きっと城壁の外にも出たことないんじゃないかな?
「まあ、遠いところからきたからマルシファのこと全然知らないんだよ。知っていることを教えてくれたら食べ物をやるよ。どうだい?」
「……本当か……?」
「マルゼ」
鞄からパンを出させた。
「パンはたくさんある。なんなら服でもいいよ。あたしたちはマルシファのことが知りたいんだよ。どうだい?」
「わ、わかった」
「交渉成立」
前払いとしてパンを渡してやった。
必死にパンを食べる子供たち。おじちゃんもこんな風にあたしたちを見てたのかな?
あたしにはこの子供たちを受け入れてやることはできない。責任を持つなんて無理だ。おじちゃんがどんな覚悟であたしたちを受け入れてくれた、その重みがよくわかったよ。
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