第960話 たい焼き

 職員たちがよく働いてくれたので一日休みを与えることにした。


 まだバデットはランティアックを徘徊しているが、それは兵士たちのお仕事。そして、ランティアックに住む者たちの役目。がんばってくださいだ。


 オレはこの国を救おうって気はさらさらない。ロズたちを救うために時間を稼ぎ、ゴブリンを駆除するためにきたのだ、リソースを割くことはしない。カロリーバーは撒き餌なので惜しくはありません。


「マスター。街に出てもいいですか?」


 ホームから出てくると、職員のラガルカがそんなことを言ってきた。


 ラガルカはまだ十代で、将来有望視されていたが、怪我をしたことで冒険者ギルドに入ったそうだ。


「別に構わんが、まだバデットが彷徨いているぞ」


「スカーを買ったので試し撃ちと宝探しをしてきたいんです」


「なんだ、自分で買ったのか?」


 SCAR-Hなら予備があるから言えば出したのに。


「はい。おれ、お嬢が使っているスカーが好みなんです。だから自分用が欲しかったんです」


 ブルパップを好んでいるオレが言うのもなんだが、銃なんてなんでも同じだろう? 好みなんてあるものなのか?


「そうか。弾はたくさん買ったから持ってきてやるよ」


 八百万円も儲けたから7.26㎜弾をパレット買いした。五十パーオフシールを使ってな。


「ありがとうございます!」


 エルガゴラさんに付与魔法を施してもらったと言うので千発くらい持ってきてやった。


「で、宝探しってなんだ?」


「その名のとおりですよ。これだけの都市なら金目のものがあるはず。どうせ使うこともないんですからセフティーブレットの資金にさせてもらいましょう」


 オレも考えたわけじゃないが、他国の金ってソンドルク王国で使えるのか? って思って諦めたのだ。仮に金を溶かすとしてもその手間を考えたらやる価値なしと判断しても仕方がないだろう。


「それに、服や靴、布はコラウスで不足しています。あるんなら持ち帰りたいんですよ」


「服と靴は確かに欲しいな。よし、宝探ししてきていいぞ」


 アシッカやロンレアも不足している。布なんかは巨人に喜ばれるだろうよ。


「それならこれを持っていけ」


 リュックサックを取り寄せて渡した。エルガゴラさんに容量を十倍にしてもらったものだ。


「ラガルカ一人でいくのか?」


「いえ、ハルッカといきます」


 ハルッカはアシッカ出身の女性職員だ。シエイラが雇ったと言ってたっけ。


「そうか。無理しないようにな。なんかあれば連絡しろよ」


 ルースブラックを動かしたままなのでランティアック内ならカバーできるはずだ。


「はい。いってきます」


 若いとは羨ましいよ。オレもあの年代のときは活動的で徹夜しても疲れなかったものだ。


「若いっていいですな」


「そうだな」


 残った職員は三十を越えたヤツばかりなので休みはゆっくり過ごす派だった。


「これでもう少し空気がよければ安らげるんだがな」


「そうですね。次は街を出て休みとするとしましょう」


 人数が少ないのでルースブラックの中で休んでいるが、窓もないので後部格納ハッチは開いたままなのだ。


「寒くなってきたな」


 そう思うならアイスを食べるのを止めたらいいのに。サイルスさんの菓子好きは変わらんな……。


「たい焼きとか食いたくなりますね」


 甘いものはそこまで好きではないが、まったく食わないってわけじゃない。寒い季節に食うできたてのたい焼きは美味いものだ。


「タイヤキ?」


「ちょっと待っててください」


 ちなみにラダリオンと雷牙はホームに入っております。


 ホームに入って人数分のたい焼きを買ってきた。


「これですよ。寒いときに食うのが格段美味いんですね」


 甘くなった口の中をティーチャーズをお湯割りで流す。冬がきたって感じるよ。ここはまだ秋の終わりくらいだけど。


「美味いな」


 サイルスさんは大満足。足りないと自分で買って食べていたよ。


「タカト。ツマミをくれないか?」


 ルースブラックを操縦して稼ぐことはできなかったが、稼いだところで自由に使えないのだからエウロン系のエルフは厳しいもんだ。


「チーズでいいですか?」


「ああ。それでいいよ」


 チーズ各種を取り寄せると、役得役得と満面の笑みを浮かべるラオルスさん。この人が一番役得してるのかもな。


 職員たちもそれぞれ好きなものを買ってそれぞれ好きに過ごしている。こういう日は大切だとわかる光景だな。


「マスター。あまり飲んでないですね?」


「まーな。休みと言ってもなにがあるかわからんからな。コラウスに帰るまでは深酒はしないよ」


 こうして酒を飲めるだけで幸せってものだ。


「じゃあ、第二陣を連れてきてはどうですか? そのときに長めの休暇をしてきてください。こちらはおれたちで回しておくので」


「ありがとな。でも、大丈夫だよ。魔王の手下を駆除するまではほどよく休むから」


 なにが起こるかわからない。第二陣を連れてくるのはラオルスさんに任せるとするよ。


「オレに構わず休め。これからが本番なんだからな」


 職員にもたくさん働いてもらわなくちゃならない。そのときのために今はゆっくり鋭気を養ってもらうとしよう。


 お湯多めにしてティーチャーズをちびちびと飲んで楽しんだ。

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