第958話 最後の一人
雷牙が入ってきたのでダストシュートしてもらった。
さすがにマルダードを三個も爆発させると大教会は崩れてしまった。
「敵からしたら身も蓋もないだろうな」
こちらとしては敵がなんなのか興味はないし、殺せるのなら別に対峙する必要もない。力技で潰せるならそれでよし、である。
「死んだかな?」
ラダリオンもダストシュートしてもらって出てきた。
「まあ、生きてても問題はないさ。奥の手を潰したんだからな」
さらに奥の手を用意するヤツならもっと別の戦い方をしているし、生き残っているなら逃げているはずだ。仮に瓦礫に埋まっているならマヌケなだけ。生き残ったところで脅威でもなんでもない。そのままくたばれ、だ。
「これでバデットが散り散りになるほうが面倒だな」
今はまだ城に閉じ籠っているからいいが、人が拡散されたらバデットも拡散するだろう。あいつらは魔力をエサにしているからな。
「雷牙。またバデットを排除してくれ。あの魔法使いがいたら殺していいから」
もうどうでもいい存在。さっさとこの世から退場してもらおうか。
「了解」
元気に駆けていく雷牙。元気で羨ましいよ。
「ラダリオン。悪いが、巨人の姿のままで夜まで残ってくれ。ラダリオンの魔力ならバデットが集まってくるだろうからな」
「わかった。お菓子、食べてていい?」
「いいけど、よくこんな臭いの中で食えるな?」
ラダリオンも結構鼻がいい。マルダードで臭いも吹き飛んだが、まだ臭いはある。こんなところで食えるとか大丈夫なのか?
「臭いのには慣れてる」
どんな臭さの中で育ったんだ?
「そ、そうか。まあ、好きに食べてろ。オレは城に戻るな」
「うん」
バデットが現れても面倒なのでブラックリンを出してきて城に戻った。
城門前の広場には人が結構出ており、オレたちが暴れたほうを見ていた。まあ、あれだけ爆発させていたら気になって仕方がないわな。
広場には職員もいるので説明は任せ、そのまま城に向かった。
兵士がいるところに降ろし、ブラックリンはそのままにして男爵のところへ。途中、侍女っぽい人らに連れられた十歳くらいの女の子に遭遇した。
たぶん、ランティアック家最後の人間かもしれないマリバラ嬢だろう。
壁に寄り、一礼する。
侍女っぽい人らは怪訝な目をしたが、オレに声をかけることはなくそのまま通りすぎていった。
「大変だな」
十歳くらいの女の子に背負わせるにはランティアックの未来が過酷すぎる。男爵が支えなければ一日として持たずに滅んでいることだろうよ。
可哀想とは思うが、オレに義務も責任もない。ランティアックの未来はランティアックの者がなんとかするしかない。同情だけはしてやるよ。
心を切り替えて男爵の部屋に。この人、この部屋に住んでんじゃね? とか思いながら大教会のことを報告した。
「死亡は確認しなくて本当によいのか?」
「割ける時間も人手もありませんからね。仮に生きてたとしても問題あはありませんよ。その者がランティアックに相当の恨みを抱いているなら別ですが」
「……なにか、そう思わせることがあったのか?」
「これを」
オレが使っているプランデットを男爵にかけてもらい、ヘルメットから魔法使いの姿を送って見てもらった。
「……ドワーフか……?」
さすが男爵。魔法使いの背丈からわかったようだ。
「顔は出してませんが、おそらくドワーフでしょう」
他にも似たような種族がいたら別だが、ここがマガルスク王国だと考えたらドワーフと見たほうがいいだろう。ドワーフにしたら恨みしかない国だからな。
「そのツケを払わされたわけか」
「そこまではわかりませんが、力で支配するとはそういうことです。嫌ならわからないように支配することです」
日本はその点上手かったと思うよ。あれだけ税金を奪い取っていながら日本人は暴動の一つも起こさないんだから。まったく、奴隷ではなく家畜として上手く飼われていたんだから酷いものだ。
「まあ、ツケを払わされたというならそれはそれで仕方がないことでしょう。過程があって結果が出たまでですからね」
「他人事だな」
「他人事以外なにがあるんですか?」
「そうだな。他人事でしかないな」
自虐的な笑みを浮かべる男爵。
「まあ、わかっていても変えられないことはありますよ。そして、失ったものを取り返すこともできない。今は残ったもので未来を築くしかありませんよ」
すべてを失ったならまだしもランティアックはまだ希望があり、再興するチャンスが残っている。過去を反省するの時間ができてからにしたらいいさ。
「そうだな。今はできることを一つ一つ片付けていくしかないな」
「そうですね。それがよろしいと思います。ランティアックの希望はまだ消えてないのですからね」
「希望、か。そんな言葉があったことすら忘れていたよ」
「それすら知らずに死んでいった者は数知れず。生きて知れてよかったと思いましょう」
絶望に死んでいった駆除員を思うと、こうして生きていることに感謝しかない。だからこそオレは死ねない。死にたくない。必ず寿命で死んでやる。
「強いのだな」
「いえ、オレは弱いですよ。弱いからこそ人を大切にする。恨みを買わず、信頼を得て、強敵に挑む。それがオレの戦い方です」
オレは一度たりとも自分が強いだなんて感じたことはない。弱いと知るからこそ臆病に用心深く生きているのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます