第956話 大教会

 教会は城門から一キロと言ったところだろうか、案外近くにいたんだな。


 ランティアックの歴史は長いようで、中心にある教会も世界遺産になるくらいの造りだ。バデットのことがなければ後世に残るものだったことだろうよ。


「悪いな。後世に残してやれなくて」


 後世にオレが壊したと残らないようにしないと。悪名で歴史に名を残すなどゴメンである。


「そう言えば、この辺ってバデットがよくいる場所だったな」


 教会から百メートルくらいにも聖堂みたいな建物があったので、その鐘楼から教会──大教会を見ています。


「うん。排除しても排除しても集まってくるから探すの後回しにしてたんだ」


 普通に考えたら怪しいと思うものだが、別に本気で探す必要はない。偶然見つけたらそれでよしくらいの感覚でいた。雷牙のせいではない。


「なんかバデット以外はいたか?」


「ううん。魔法使いみたいなヤツがいただけだよ」


 情報をもらった。


 本当なら臭いで探せたんだろうが、目眩がするほど死臭に満ちている。戦闘強化服のヘルメットがなければ酷いことになってたことだろうよ。


 オレもプランデットのセンサーで探るが、魔力、動体反応では探れず、熱反応もない。視覚センサーでしか探れなかった。


「……これは……」


 魔法使いの姿を見て言葉が出てこなかった。


「なにか気になることでもあるの?」


「まーな」


 言葉を濁して映像を消した。


「厄介だな」


 なんにしても、だ。魔法使いとしてもこれだけのバデットをどうにかできるなんて思えないだろう。が、ランティアックをここまで追い詰めたヤツ。多少なりとも知能を持つヤツだ。


 そんなヤツが奥の手の一つも用意してないってことがあるだろうか? ミサロはグリフォンが奥の手だったぞ。


 バデットで魔力反応が定まらず、動いているのが多くてノイズが走っている。死体を動かしているので熱もない。音、臭い、その他諸々もダメだ。この戦闘強化服、機動性や防御性に力を振っているからセンサー系はそこまで優秀じゃないんだよな。


「雷牙。少しここを頼む」


「了解」


 ホームに入り、ホワイトボードに大教会の図を描き、作戦を考える。


 敵が空から逃げることはできない。できていたら動きを見せているはずだ。ルースブラックやブラックリンを飛ばしているんだからな。仮に警戒して隠れているならあちらにとっての奥の手。センサーに引っかかるはずだ。


「──タカト」


 考えていたらラダリオンが入ってきた。


「ご苦労さん。ドワーフたちはどうだ?」


「落ち着いてる」


 ドワーフたちはランティアックから五キロくらい離れた鉱山に移っている。そこがドワーフたちが労働させられた場所であり、建物もあるのでそこに移動させたのだ。


「そっか。バデットはどうだ?」


「大体片付けた。魔石も取り出した」


 持っていたバケツを見せてくれた。


「ボックスロッカーに入れておいてくれ」


 人から取り出した魔石を使うのは気持ち悪いからな、山崎さんの糧となってもらうとしよう。


「なにかあったの?」


 バデットを操る者を発見したことやどう襲撃するかを考えている伝えた。


「あたしもいく?」


「んー。エクセリアさんもいるからな~」


 ラダリオンも混ざったら過剰戦力になりそうだな。


「安全のためにもきてもらうか。そっちは大丈夫なのか?」


「今のところ問題ない」


「じゃあ、二日くらい空けることを伝えてきてくれ」


「わかった」


 ラダリオンが外に出て、しばらくして戻ってきた。


「ロズがこっちは大丈夫だからそっちに集中してくれってさ」


「そっか。なら、ダストシュートさせるな」


 ラダリオンをダストシュートさせ、オレも外に出た。


「ラダリオンは援護を頼む。万が一のときは任せる」


 戦闘面はラダリオンに任せたほうが上手くいく。タイミングよく動いてくれるだろうよ。


「わかった」


 一旦、ホームに入り、SCAR-H装備に着替えて出てきた。


「雷牙。下で暴れてくれ。敵を誘い出す」


「了ー解!」


 元気よく返事をして鐘楼から飛び下りてしまった。怖いもの知らずだな。


「RPG-7を持ってくる」


 そう言ってホームに入り、発射器とロケット弾を四つ持ってきた。


 なんだかんだとRPG-7って長いこと触ってない。ちゃんと練習しておかんといざってときに当てられないぞ。


「タカト。ライガが暴れ始めた」


 下を覗くと、ブーメランを振り回して無双していた。


「ブーメランの意味あんのか?」


 雷牙がブーメランを飛ばしているとこ一回も見たことないんだけど。


「しかし、雷牙も強くなったな」


 出会った頃から強かったが、心身ともに充実したからか、バデットを一刀両断にしている。あの小さい体のどこにパワーが隠れてんだろうな?


「援護する?」


「いらんだろう。変なのが出たときだけ援護してやれ」


「わかった」


 ロケット弾を発射器に装填。ハンマーを落として安全ボタンをズラす。肩に担いで照準を合わせる。


 狙いは鐘楼のちょい下。窓があったのでそこに撃ち込むとする。


「ラダリオン。下に雷牙はいるか?」


「移動した」


「了解」


 引き金を引いてロケット弾を発射させた。


 ちょっと外して壁に当たってしまったが、爆発したからオッケーだ。中にいるヤツを炙り出そうとしてんだからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る