第955話 言ってる側から

 民衆の力も借りて学校のプールくらいの穴を掘れた。


 深さも三メートルはあり、これなら五百匹くらいは入れられるだろう。


「あの数でこの穴では心もとないですな」


「なに、また掘ればいいさ」


 オレらは油圧ショベルで掘り、兵士や民衆はスコップで掘っている。自分たちの故郷をとりもどすためにがんばってくれ、だ。


「しかし、魔力を吸うのも一苦労ですな」


「そうだな。終わりのない仕事をしているかのようだ」


 マナイーターが当たって二本(実際は三本。マルデガルさんに一本渡しています)になったので二人でバデットの魔力を吸っていたのだが、本当に終わらない。これなら穴を掘っているほうがまだマシだよ。


「しかし、ルースブラック、きませんね?」


「そうだな。なんかあったのかな?」


 なんて缶コーヒーを飲んで休憩していたらルースブラックがやってきた。タイミングいいな!


 Hってマークって描いたところに着陸した。


 後部格納ハッチが開いてサイルスさんたちが降りてきた。見知らぬ者を連れて。誰?


「どうしました?」


「あの近くにあった村の者だ。オーグに襲われていたのでこちらに移すことにした」


「村なんてあったんですね。全然気がつきませんでした」


 それらしきものなんてまったく見えなかったよ。


「まだいるんですか?」


「あと三、四往復は必要かな? 百四十人はいたから」


「随分と生き残ってたんですね。こちらはいくらでも人手は欲しいのでどんどん連れてきてください。食料は用意してもらうんで」


 アルシファが完全体で残っているなら貯蓄している麦は開放されるだろうし、バデットが片付ければランティアック周辺の麦もいくらかは収穫できるはず。百四十人増えても問題はないだろうさ。


「わかった。オーグの肉も運ばせるよ」


「オーグって食べられたんですか?」


「そう美味いものではないが、そう贅沢も言ってられまい。塩があるなら冬の食料になるはずだ」


 まあ、オレは食わんから大切に食ってくださいだ。


「バデットはどうだ?」


「順調に排除できてますね」


「お前にかかると一国の問題も小事として片付けられるな」


「バデットくらいなら小事ですよ。元に戻せは大事ですけど」


 ランティアックを復興しろなんて二十年三十年のスパンで見なくちゃ元には戻せないが、バデットには限りがある。一月もあれば充分だ。


「まあ、バデットも相手次第ですけどね」


「相手?」


「──タカト!」


 ほら、言ってる側から動き出しちゃったよ。だからなるべく避けてたのにさ……。


「見つけたよ!」


「わかった。位置を教えくれ」


 スケッチブックを出して位置を聞いた。


「ここだよ」


 雷牙示した場所とプランデットに入れた地図と見合わせる。ここは、教会か。頑丈なところにいたんだな。


「タカト。なんなんだ?」


「バデットを操るヤツが潜伏していた場所を発見したんですよ」


「どういうことだ?」


「コラウスでも似たようなこと起こったでしょう。大量のゴブリンが現れたことが。ゴブリンがバデットに変わっただけ」


「……ミサロのような存在がいるってことか……?」


「いるでしょうね。魔王軍が関わっており、バデットが街から出ることはない。もう、誰かが操っているとみたほうが自然です」


 本当はもっとバデットを排除してからにしたかったが、予定とおりに動かないのが世の常。諦めて倒すとしよう。


「……お前の頭の中はどうなっているんだ……?」


「普通ですよ」


「普通はそんなこと考えもつかんわ」


「オレは弱いですからね。力でどうこうできるなら力任せに解決してますよ。できないから頭を使って予想しているんです」


 本当ならもっと考えて、もっと用意してから動きたいが、状況がそれを許してくれない。一旦動き出したのなら速やかに解決するのが最善だろうよ。


 ……最良があるなら是非とも教えて欲しいもんだ……。


「わたしもいこうか?」


「大丈夫です。オレたちで片付けますんで」


「やけに自信満々だな」


「ランティアックにきてから用意はしてましたからね」


 ライダンド伯爵領でゴッズのバデットを見たときからいくつかの予想はしていた。意図的にバデットが増やされ、ソンドルク王国に攻められたらどうするとかな。


 さすがに魔王軍が関与しているとは想像できなかったが、魔王軍が関与しているのら予測することは難しくない。きっと同じパターンを取るだろうと思ったよ。


「魔王軍は基本脳筋集団です。その中に多少なりとも賢いのはいますが、上がダメなら下は戦略を立てるのも限界がありますよ」


 今少し我に時間と予算をいただければ。


 誰が言ったかわからんが、それを言っても認めてくれる上司は魔王軍にはいないだろう。いたらもっとマシな作戦を実行しているはずだ。


 コラウスでのこともミサロに丸投げされていた。あれで上手くいっていたのはゴブリンだったこと。コラウスがゴブリン相手に本気を出さなかったからだ。


「オレが察知できないとなればゴブリンではない。なら、探すのは雷牙に任せたんです」


 それでも二十日以上かかってしまったがな。


「ミサロみたいに同情するなよ」


 サイルスさんの忠告に苦笑いが出てしまった。


「ええ。ちゃんと殺しますよ」


 オレが抱えられる数はとっくに上限に達している。相手がどんなヤツであろうと殺す。それも前々から決めていたことだ。


「ライガ。タカトを頼むぞ」


「了解!」


 信用されないオレ。まっ、仕方がないか……。

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