第954話 オタクの鑑
アルシファは速やかに城門を閉じたお陰でバデットに侵入されることはなかったそうだ。
だが、そう簡単に出ることもできず、迷いに迷っていたそうだ。オーグの目撃情報もあったとかで。
「そうか。さすがプラルクだ」
プラルクってのはアルシファを治める男爵で、ランティアック辺境公と親族関係もあるそうだ。
「タカト。アルシファまでの道は危険か?」
「断言はできませんが、凶悪な魔物やバデットはいませんでしたから往来するのはそう難しいとは思えませんね。ただ、ランティアックから出るのは危険だと思います」
大量に人が動き出したらバデットは襲ってくるだろうよ。
「アルシファの食糧事情はどうなんだ? まだ麦の刈りはまだみたいだったが」
「潤沢、とまではいきませんが、今年の冬は越せるとは思います」
「外に出れるのならすぐにでも刈り取りを始められます」
「アルシファが無事でなによりでしたね」
今年の冬は確実に越せる保証は得た。アルシファの男爵は優秀だな。
「バデットはまだいますが、馬を走らせたらバデットは追いつけません。連絡を取り合うことはできるでしょう。ランティアックをどうするかはそちらに任せます」
ランティアックはランティアックの者がどうかしたらいい。オレはそこまで面倒見きれんよ。
「では、オレはバデット排除に戻ります」
「ああ、頼む」
男爵に一礼して部屋を出ると、すぐに兵士が集まってきた。
「長く空けて悪かった。状況は?」
「約三千は行動不能にしました。そろそろ片付けないと先に進めません」
「わかった。次の段階に移ろうか」
まだ街の中に止まってくれているうちに状況を好転させておかないとな。
城壁の外に向かい、ロイスたちと合流。張ってくれたタープの下で次の段階を説明する。
「ここに穴を掘ってバデットを埋める」
至極単純な方法だが、街の外に運ぶより街の中に埋めたほうが楽ってものだ。
「死者の上に住むのですか」
「人はいつだって死者の上に立って生き、死んだら生きている者の下になるだけだ。それが嫌なら別の場所に移り、新しい都市を築くしかないよ」
将来、夜中に亡霊の行進が発生しようとオレの責任じゃない。今の状況を作ったランティアックの責任だ。受け入れるか逃げ出すかはランティアックが決めたらいい。
「こことここに穴を掘る。その指揮はアルバックとマイクに任せる。必要なら民を集めろ。男爵の許可はもらうから」
さすがに兵士だけで掘れってのは酷だ。民衆にも働かせるとしよう。
「ドワーフたちが逃げたのが痛いですな」
「自分たちの街くらい自分たちでなんとかしろ。そんな甘えたことを言っているから滅ぼされるんだ。兵士なら誇りを持て。守るために全力を尽くせ。できないようなら兵士を辞めろ。兵士の名折れ、ひいてはランティアックの名折れだ」
何百年とドワーフを家畜にしてきた国では根っこまで染みついているんだろう。なかなか消えないと思うが、誇りで塗り替えてやるしかないな。
「す、すみません」
「謝る必要はない。オレは兵士の在り方を説いただけだ。これからのランティアックを作るのはお前たちだ。このことも子や孫に伝えられるだろう。そのとき、不名誉なことを言われたくないのなら誇り高く生きろ。自分たちが守ったんだと胸を張れ。生き様を今生きている者たちに見せつけるんだ」
兵士たちが直立不動になった。
「団長に敬礼!」
過度なストレスを感じていたからだろうか、兵士たちが盲目的になりすぎているような気がする。早く団長を決めないとな。
「随分と気に入れていますな」
「本当にな。困ったものだ」
「ふふ。で、おれたちはどうします?」
「まずは職員を迎える準備だな。ランティアックを拠点にしてマガルスクの王都を目指す。あと、もしかすると、マガルスク王国中にゴブリンがいるかもしれない。周辺都市を回って確認だな」
「それはまた稼ぎ時ですな」
「そうなるといいが、手間がかかるのは困るな。子供が産まれる前には帰りたいよ」
「アハハ。そうなるといいですな」
「そうだな。そうなるといいな」
なんかそうならない未来しか見えないのが悲しいよ。
「油圧ショベルを出す。練習でもしててくれ」
「わかりました」
「エルガゴラさん。先行しても構いませんが、どうします?」
まだまだランティアックに滞在することになる。稼ぎたいのなら先行しても構わない。
「んー。タカトといたほうがゴブリンと出会えそうだから残るとするよ。なにかやることがあるなら言ってくれ」
「コンテナボックスをアイテムバッグ化してもらえます? このまま食糧が腐るのももったいないですからね」
「それならわしが回収するよ。きっちり仕事をしないと今日視るアニメがおもしろくないからな」
オタクがどんなもんか知らないが、きっとオタクの鑑なんだろうな、この人は。
「助かります。雷牙がいるので気をつけてくださいね」
「あの坊やか。まあ、顔を会わしたことはあるから大丈夫だ」
会ったことあるんだ。変なこと教えてないですよね?
「よろしくお願いします。まだまだ時間はかかるのでのんびりやっててください」
「ああ。どこか住みやすい家をみつけてやることにするよ」
そう言うとレオナを連れて柵を越えて街の中に消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます