第951話 エンペラー ★
次の日になってもその場から離れることができなかった。
「オーグ帝国ができてたのか?」
朝方、四十匹以上ものオーグが現れ、皇帝なのか五メートルはあるオーグが背後に控えていた。
「さしずめオーグエンペラーか? よく育ったこと」
オーグの寿命は知らんが、あそこまで育つには何十年とかかったことだろう。苦労や争いもあっただろう。その中で自信と慢心が生まれたことがよくわかる。
「所詮、獣は獣。どんなに知恵を絞ろうと獣の域を抜けない、か」
悪いが、オレは猿の惑星には否定的だ。どんなに知恵をつけようが、数千年かけて道具を作り出し、使い方を研鑽してきた人類に勝てるわけないだろう。人類、ナメすぎだ。
まあ、ときとして人間も獣並みに堕ちることもあるが、オレはそこまで堕ちてないし、油断も慢心もしない。確実に殺す気持ちで相手する。その心臓が止まるまでは容赦しないからな。
「生きるか死ぬかの戦いだ。恨まんでくれよ。構えろ」
職員五人がRPG-7を構えさせた。
「貴重な報酬を使わせた罪は償ってもらうからな」
人を暖める火となってもらいます。
「撃て」
五つのRPG-7からロケット弾が発射され、五つの爆発、だかなんだかわらんほどの爆発を起こした。
「魔石までぶっ飛ぶんじゃないか?」
「そのときはそのときですよ」
人間の恐ろしさを教えてやるのが一番。復興が始まればこの辺も田畑ができるはず。そのときのためにオーグに教え込んでおこう。ここは、人間の領域だってな。
「さすがオーグ。五発くらいじゃ全滅させられないか」
まあ、最初から倒せるとは思ってないが、十匹死んだかどうかだな。肉片が飛び散りすぎてよくわからん。
「それなりに状況を把握する知能はあるか」
RPG-7を撃ってこないのを理解して生き残ったオーグたちが仲間を踏みつけつて襲いかかってきた。
「撃て」
次は、職員全員とサイルスさんたちも混ざってEARを乱射させた。
EARの威力はアサルトライフルより少し強いだけなので、オーグに致命傷を与えてはいない。が、雨のように浴びればさすがに致命傷となる。
次々と地面に崩れ落ちるオーグたち。人間をナメるからそうなるのだ。次もナメてきてください。ありがたく魔石を収穫させてもらいますんで。
「撃ち方、止め! ルンを交換だ」
まだ撃ち尽くしてはないが、EARは魔力充填まで時間がかかる。完全に撃ち尽くす前に交換しておくのがいいのだ。
「何匹生き残りました?」
「十二、ってところか? 無傷に近いのはエンペラーとその近くにいるヤツだな」
エンペラーがなんなのかわからんだろうに、すぐに受け入れるサイルスさん。ほんと、柔軟な人だよ。
「いけます?」
「まあ、問題ないだろう。戦闘強化服の慣らしなら、な」
ただでさえチートな人に戦闘強化服を着せたらどうなるんだろうな? 興味深いよ。
「エンペラーはお任せします」
オレは無理。戦闘強化服着てても無理だわ、あれは。
「了解。任せろ」
一メートル八十センチはあるバールを振り、エンペラーに向かって走りだした。
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*サイルス・ミシャッド*
いい。
この戦闘強化服はよすぎる。
これまで自分の全力を出すと服や鎧が耐え切れず、予備をいくつも用意してないとパンツ一丁で戦うことになる。もうどこぞの蛮族だって話だ。
請負員となって丈夫な服は買えたものの、やはり全力を出すと破けたりはさしていた。
なるべく全力は出さず、七割で駆除をしていたが、これは全力を出しても破れない。それどころかさらに力が出せた。よりクリアに視界が確保できた。
それに、このバールもいい。斬ることはできないもののわたしの全力に折れないでくれる。これで剣は作れないものだろうか? いい剣になりそうなんだがな。
あ、いかんいかん。今はエンペラーに集中せんと。こんな大物は何十年か振りだ。昔を思い出すつもりで相手してもらうとしよう。
振り下ろされる爪をバールで弾く。
いいね! 今のにも曲がることもない。並みの剣なら砕けていたことだろよ。フフ。
「どうした? その巨体は見かけ倒しか?」
巨体なだけに力はあるんだろうが、俊敏さはまるでない。弾き返すまでもない。
怒りに咆哮を上げるが、まったく心に響くことない。グロゴールを見た経験があると雑魚にしか思えんな。
渾身の一撃を脛に食らわすと、さすがにバールが曲がってしまった。
まあ、一本一万二千円。エンペラーを倒すのを考えたら安いものだ。
「もう何発かいっておくか!」
曲がったと言ってもほんの少し。持ち変えてもう一発脛を殴ってやると、骨が折れた感触が伝わってきた。
野生で骨が折れることは死に直結する。でも安心しろ。お前はここで死ぬ。わたしが覚えててやる。安らかに眠るといい。
さらに曲がったバールを捨てて愛用の剣を抜いた。
「さらばだ!」
集中。そして、一閃して首を斬り落としてやった。
巨体が大地に倒れ、返り血を浴びるが、戦闘強化服は血がつくこともなくすぐに流れ落ちてしまった。
「こんなに気持ちいい戦いは初めてだ」
やはりわたしは前線に立っているほうが向いているな。
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