第949話 第一陣
隊を二つにしたことで効率が上がり、城門前周辺はランティアック側がとりもどしたと言っていいだろう。
「そろそろ職員を呼ぶか」
兵士たちにはしばらく離れることを伝え、男爵には仲間を連れてくることを伝えた。
ホームに入り、雷牙やラダリオンとミーティングし、ミリエルにダストシュートしてもらった。
すぐにシエイラのところに向かい、久しぶりにその顔を見た。
「元気そうでなによりだ。お腹の子も順調に育ってそうだな」
一緒にいてやれなくでごめんな。お前が安心して産まれてこれるようにがんばるから許してくれ。
「無茶してない?」
「今のところは平和にバデットを排除しているよ。落ち着いてきたから職員を連れていくことにする。館が回らなくなるかもしれんが、よろしく頼むよ」
「任せなさい。館のことはこちらで回しておくから」
キスをして部屋を出た。
事務室に向かうと職員たちは揃っており、万全って表情をしていた。
「遅れて悪かった。これから向かうが問題あるか?」
「ありません」
「よし。第一陣はルースブラックに乗り込め」
あれから十五日以上は過ぎているのにずっと待機してくれていたようだ。本当にありがたい限りだ。
「おじちゃん!」
外に出たらマルゼが駆け寄ってきた。
「マルゼとマリルは第二陣か第三陣できてもらう。それまで鍛えていろ。命懸けになるぞ」
二人にもやってもらいたいことはある。きたらしっかり働いてもらう。
「任せて!」
いい子だとマルゼの頭を撫でてやった。
「あ、各支部に今の状況を伝えておいてくれ。支部からも応援を頼むかもしれん」
支部ならマルデガルさんにも伝わるはず。コルトルスの町付近にいたら戻るか王都に向かうはず。伝わったのなら海沿いを向かうかコラウスに戻ってくるだろうよ、あの人ならな。
「わかりました」
ルースブラックに乗り込んだ職員は……ん? サイルスさん? と、エルガゴラさんも乗っていた。
「いいんですか? コラウスを離れても?」
あなた今、コラウスの重鎮として領主代理を支えてんじゃないの?
「隣国のことだ、誰か王国の者がいかなければならんだろう。一応、領主代理からの命令で向かう。連れてってくれ」
見慣れぬ男女は城の者か? まあ、男爵の相手をしてもらうにはちょうどいいか。
「エルガゴラさんもですか? しばらく帰ってこれませんよ」
「少しは動かんとな。ニートになると母親になにを言われるかわかったもんじゃないんでな」
そういや、そんなこと言っていたっけ。母親、ニートに恨みでもある人なんか?
「エルガゴラさんがきてくれるならありがたいです。血を固まらせる付与とかできます?」
「踏んだら身体低下ならできるぞ。地雷方式だ」
「それ、お願いします」
動きが鈍くなるならなんでも構わない。それなら民衆も駆り出させれるからな。
「ところで、そっちの子は?」
十二、三歳の女の子がエルガゴラさんの横に座っていた。
「メイドとして雇った。レオナだ」
「レ、レオナです。よろしくお願いします」
エルガゴラさんなら悪いことはしないだろうが、この子の将来が心配だ。どんなメイドに育てられるんだか……。
職員は十名に五名プラスか。もうちょっと連れていきたいところだが、受け入れ態勢がそんなによろしくない。食料の問題もあるし、第一陣はこれで仕方がないか。
操縦室に向かうと、ラオルスさんがいた。
「場所を知っていたほうがいいだろう? 帰りも操縦できるしな」
「助かります」
感謝を述べて席に座った。
「距離は約二百キロと言ったところです」
ロズたちはよくその距離を踏破したものだよ。魔物がいただろうに。
「人工衛星からの映像だ。途中、湖があるから一度降りてくれ。発信機を打つから」
「そんなものがあったんですね」
これまで大まかな方位で飛んでいたよ。
「エウロンは独自の人工衛星を持っていなかったからな。エウロンまでいって取ってきた。ルースブラックにも信号を登録しておくから迷子にはならんはずだ」
「それは助かります。これで夜も飛べますね」
「信号が出ているところに限るがな」
「それでも助かります。行動範囲が広がりますからね。では、発進します」
マナ・セーラは始動させてくれたので、格納ハッチを閉めて離陸した。
「ミロイドの町にも発信機は打ってある。エルバ・556・413だ」
プランデットで調べ、モニターに移した。
「わかりました。やはり信号があるとわかりやすいですね」
「そうだな。有視界飛行もそれはそれで楽しいがな」
「わかります」
ブラックリンがバイクならルースブラックは車だ。どちらにもよさがあり楽しさがあるのだ。
すぐにミロイドの町の上空にきたら方角を調べ、湖があるほうへと飛んだ。
ほんの少しだけズレはしたが、大きな湖なだけにすぐに修正。湖の中に島があったのでそこに着陸した。
「なんかいそうな湖だな」
「そうですね」
いても不思議じゃない世界だから困るよ。
ラオルスさんが発信機を打ち込む間に湖面からバケモノが現れることもなし。魚が跳ねたくらいだった。
「よし。信号発信。なにもなければ十年は発信してくれる。帰りにいろいろ調べてみるよ」
「変なのがいたらすぐ逃げてくださいよ」
「わかっているよ。戦いたいって思うほど酔狂じゃないんでな」
それはなにより。
ルースブラックに乗り込み離陸。信号を確認したらまた方角を調べてランティアックに向けて飛んだ。
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