第947話 一つになる
ランティアックは世紀末な感じだが、空に目を向ければ秋晴れと言っていいほど透き通っていた。
「じゃあ、やるか」
十六名の兵士に目を向けて城を出た。
荷車に詰んだ木の槍は三百本くらい詰まれ、難民たちが不思議そうにこちらを見ていた。
途中、ロズたちがいたが、視線を向けるだけでそのまま通りすぎた。
「オレの仲間がバデットを街の外に誘うように狩っているが、油断するなよ」
出入りする城門を守る兵士に外の様子を聞く。
「昨日からまったく姿が見えません」
「ご苦労さん。じゃあ、目的の場所に案内してくれ」
街のことは兵士たちのほうが知っているので、目的地まで先導してもらった。
元は多くの人が往来していたのだろう。今は腐敗した死体が転がり、建物はバデットが発生したときに壊れたのだろう。世紀末感がよく出ていた。
「用意を」
荷車に積んだ木の槍を適当に道に突き刺していき、先の道の地面を少しだけ掘り返させた。
「じゃあ、バデットを誘き寄せるぞ。逃げ道の確保、忘れるなよ」
水の魔石を取り出し、周囲の水をゆっくりと集め、限界がきたらウォータージェットを建物に放った。
「西からバデットがきました! 数、数百!」
「よし! 十名、一列に並んで槍を構えろ」
すぐに兵士が動き、槍を構えた。
「恐れるな。バデットはこちらしか見てない」
だから足元がお留守になっている。ほら、注意しないから転んじゃったじゃないの。
「突き刺せ!」
先を進んできたバデットが転び、避けられない後方のバデットも転んで大渋滞。そこに槍を突き刺してやる。
まあ、数が数なだけに乗り越えてこちらにやってくる。
「どんどん刺してやれ!」
別にここでバデットを殺す(停止)させる必要はない。肉体を傷つけるのが目的だ。
バデットは魔力で死体を操っている。肉体に異物が刺さっていればそれだけ動きは阻害されるし、血も流れる。カラッカラの体など脅威でもない。マネキンが動いているくらいのものでしかない。棒で叩いてやれば骨も折れるだろうよ。
「やはり動けなくなったのから魔力を吸っているか」
その判断をできるだけのプログラムは仕組まれているってことか。
だが、それは自ら味方を減らしているってこと。こちらとしてはありがたい限りだ。
「団長! 槍がなくなりました!」
「よし、逃げろ!」
仕事が終われば即帰宅。ビールをいただきたいところだが、明日のためにまた木を削ることにした。
「こんなことでバデットを全滅させられるんですか?」
「無理だな」
「では、なぜこんなことを?」
「お前たちにバデットなど恐ろしい存在ではないことを教えるためと自信を持たせるため。そして、次は自分の隊を率いてバデットを倒してもらうためだ。最初に言ったろ。バデットに対抗する知識と技術を覚えてもらうとな」
魔法や奇策を使わなくてもバデットを倒す方法などいくらでもある。それを教え込むためのものだ。
「強大な敵だろうと、必ず倒す方法はあるものだ」
「見つけられなかったら?」
「恥も外聞も捨てて逃げろ。生きていれば必ず機会はやってくる。どうしても勝ちたいと思うなら、だけどな」
そうもいかないことも重々承知している。だから日頃の備えが大切なのだ。てか、勝てないような存在を創り出す神が悪い。バランスって意味をビッグバンまで戻って学び直せってんだ。
「今回戦ってバデットは恐ろしかったか? 勝てない相手だと思ったか? 人間より勝る存在だと思ったか?」
沈黙が答えだろう。
「これは、人間という種に限ったことじゃない。どんな種族にも言えることだ。学ぶことをしない種に未来はないんだよ」
人が生きている間に進化することは不可能に近いが、成長することはできる。知識や技術を継承できる。先に進めることはできるのだ。
「ここがランティアックの正念場であり、未来を得るか破滅するかの分岐点だ。お前たちはそこに立っている。お前たちはどちらを選ぶ? 明日を得るか、諦めて死を選ぶか。なんなら逃げる選択肢もあるぞ?」
「明日を得るほうを選びます!」
若い兵士が声を上げた。
「おれも!」
「おれもです!」
若い兵士の覚悟が伝播したように次々と兵士たちが声を上げ出した。
「お前たちの意思が一つになった兵士団に勝てるものなし! ランティアックからバデットを駆逐するぞ!」
おおぉぉぉぉぉう! と野太い叫びが轟いた。
「さあ、槍が尽きだら次は縄だ。足場を悪くすればバデットはまともに歩くこともできない。肉を裂き、血を流させればバデットは回復することはできない。流れた血は乾燥し、固まる。バデットなど倒す方法はまだまだある。手間暇かければ冬まで終わらせることができる。さあ、やるぞ! 急げば麦を刈れるかもしれない。街に残っている倉庫を探せば食い物があるかもしれない。冬を乗り切れる希望をつかまえろ!」
覚悟は伝播し、やる気は燃え上がる。
この調子なら本当に冬がやってくる前に終わらせることができるかもしれないな。
もう少ししたら職員たちを呼び寄せるとしよう。あ、ミズイックさんを連れてくるのもいいな。ランティアックの鉄はコラウスがいただくとしよう。
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