第946話 最後にオレが勝つ
自分たち語りにならないようオレの経歴を兵士たちに知ってもらった。
「オレからは以上だ。それぞれの名前を教えてくれ。あ、名前だけでいいぞ。この魔道具で名前と顔を覚えるんで」
魔道具、未だに見たことはないが、魔道具と言えば納得するくらいには普及されているようで、兵士たちは納得してくれた。
十六名の名前と顔、魔力、生体情報を記録させた。
「よし。では、バデットの特徴と対処法を説明する」
バデットは魔法で魔石に働きかけ、ゾンビ化させたとエレルダスさんたちが調べてくれた。
元に戻す方法はなく、回復魔法が効かないところから肉体も精神も死んでおり、体内の魔石の魔力がなくなるまで止まることはない。魔石にかけられた魔法は他にも移すこともできるそうだ。
「バデットは時間とともに魔力は消費され肉体は朽ちるが、どうも別の方法で魔力をどこからか摂取している節がある」
ネズミ算式に増えるにもエサがあってこそ。何万人もバデットにするにはそれだけのエサを供給されているってことだ。
「まあ、魔力を摂取してようとバデットはバデット。肉体が回復することも知恵をつけることもできない。初動でどうにでもできる相手だ。指揮官が無能でなければな」
その無能が誰だかわかった、いや、苦しめられてきたのだろう。兵士たちが眉を怒りに歪めた。
「まあ、だからと言ってオレが優秀とも限らない。オレが無能と判断したら腰の剣で刺すといい。自慢じゃないが、オレ個人の技量はここにいる者より下だ。下手したら新人兵士にも負けるかもな」
オレの基準はカインゼルさんだが、ここにいるヤツらの体格を見たらわかる。全員、オレより強いってな。
「あなたの実力を見てから判断します」
「それでいい。オレもお前らの実力を判断させてもらうんだからな」
ちゃんと命令に従うかをな。
「作戦はいろいろあるが、まずはバデットの行動を殺す方法でやるとしよう。他の兵士にも協力させて木の槍を作ってもらおうか」
ここに手頃な木があるかわからんが、なければ別の方法をやるだけ。思いついた順にやればいいさ。時間稼ぎが目的なんだからな。
集まった兵士にはカロリーバーを配り、腹を満たさせてやった。決して餌付けしたわけではありません。
「余ったものは家族か知り合いにでも渡すといい。袋を破らなければ十年は腐らない魔法がかけられているからな」
木を削るためにたくさんの兵士がいるので、パレットで外に出してある。好きなだけ持っていくといいさ。
「いいのですか?」
「構わないよ。兵士たちにはたくさん働いてもらわないといけないからな。ちゃんと食って力を蓄えてくれ」
「ありがとうございます」
「どう致しまして。少し、離れる。作業を続けておいてくれ」
オレが見ていては気まずいだろうから少しホームに入るとする。
缶コーヒーを飲んでいると、雷牙が入ってきた。
「ご苦労さん。バデットはまだいるか?」
「うん。飽きるほどいるよ。外に誘き寄せてもまた町に戻るから手間がかかって仕方がないよ」
「町に戻る?」
「うん。まるで町に縛られているみたいなんだ」
「…………」
「どうしたの?」
「いや、ラダリオンはどうしている?」
「町の外に拠点を作ってるよ。ドワーフの何人かも移った」
「そっか。オレはまだ城から離れられないからバデットを狩っててくれ」
「了ー解!」
ほんと、メビの影響受けすぎだ。
雷牙は休憩に入ってきたようで、バデットの動きを聞かせてもらった。ちなみに雷牙は牛乳が一番好きです。
三十分したら休憩終了。がんばるかと雷牙に声をかけて外に出た。
パレットは空になっており、兵士も半分くらい消えていた。
「お前らも休憩していいんだからな。本格的に動くのは明日だ。今から根を詰める必要はないからな」
「団長は怖くないのですな?」
集まった十六名の一人がおずおずと口を開いた。
「倒し方がわかっているものに恐怖は感じないよ。怖いのは油断と慢心だ。オレは死にたくないから情報を集めて勝てる算段を立てる。勝てないならそもそも戦わない。逃げるなり立て籠るなりする。それでも勝てないなら軍門に下って内部から壊してやるさ」
オレにくだらんプライドはない。あるとしたら安全第一、命大事に、最後にオレが勝つ、だ。
「まあ、恐怖は大事だ。無謀にならずに済むからな。オレの師匠でもあり尊敬する元兵士長の言葉だ。兵士は勇者になる必要はない。戦士になる必要もない。指揮官の手足となり勝利するのが役目だとな」
言ってることは非人道的なことを言っているが、兵士は個人ではなく集団で動くことを目的に存在する。
なら、警察のような組織も創れよとは思うが、それはまた別の話。ここではしばらくいらないのだから無視させてもらいます。
「そして、指揮官は兵士を失うことなく勝たせるのが役目だ。オレはよほどの命令無視をするんでない限り、一人も失わず勝たせてもらう」
王都にいるゴブリンを駆除するなら後方を確保する必要がある。生き残りが逃げる先としての役割を持ってもらわねば困るのだ。
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