第943話 ランティアック辺境公

 この世界で城壁都市は珍しくないが、この町のはやたらと頑丈で高いな。巨人とでも戦っていたのか?


 堀などはなく、町との間に五十メートルくらい空間ができており、今は瓦礫やら死体やらが転がっていた。


 ……この町の立ち位置ってなんなんだ……? 


 巨人でも入れそうな門があり、何十トンもありそうな鉄冊で閉じられていた。


「どこから入るんだ?」


「こっちです」


 ロズについていくと、人用の門があった。


 ここは扉式で頑丈そうではあるが、一般的に使われているようで、石畳に轍ができていた。


 バデット対策なのか、土嚢が高く積み上げられて人一人通れる隙間が創られていた。


 その隙間を通り、トンネルか! って突っ込みたくなる城門を潜ってやっと城内に入れた。


「さながら難民キャンプって感じだな」


 手作りのテントやらバラック小屋ができており、ドワーフだけかと思ったら人間も結構いた。


「ここは、ランティアック辺境公が治める地で、マガルスクでも北にあります。いくつもの鉱山を所有しているのでかなり大きい都市ですね」


 確かに町ってより都市って感じの規模だったな。二十万人くらい余裕でいる、いや、いた都市だったのかもな……。


「ロズはどんな立場なんだ? かなり自由に動けているみたいだが」


 使われている感じはしない。自警団として動いてんのか?


「ランティアック辺境公から食糧確保をお願いされて動いています」


「ここは、ドワーフに寛容な地なのか?」


「はい。鉱山で働くのはおれらですからね、財産は大切にするお方です」


 なるほど。バカではないが、ドワーフを人として見てない感じか。


「ドワーフだけを移動させるって可能か? 食糧と水はセフティーブレットが用意する」


 オレらに一都市を賄えるほどの食糧は用意できない。どちらかを切り捨てなくてはいけない。なら、切り捨てるのは人間のほうだ。


「…………」


「悪いな。オレは神でもなければ救世主でもない。救える命は限られるんだ。最優先させるべき命はセフティーブレットの一員。次に一員が大切にする家族の命。余裕があればその仲間と、オレは優先順位を決めている。誰も彼も救っていたら最後は誰も救えず滅びるだけだ。ランティアック辺境公は優先順位の範囲外。その民もだ」


 オレはしがないゴブリン駆除員。誰も彼も救える度量もなければ才能もない。ただの一般人なんだよ。


「ドワーフだけならなんとか救ってやる。覚悟を決めろ」


「……はい……」


「主要なメンバーを請負員にしろ。運がいいことに魔王軍の将が六万ものゴブリンを引き連れている。すべてを駆除したら約二億円。ドワーフが何人いるかわからんが、今年の冬は余裕で越せるだろう。お前が将になって動け。ドワーフが逃げる時間はオレが稼いでやるから」


 請負員カードを大量に発行。カロリーバーを詰めたコンテナボックスを渡した。


「この水筒はホームと連動している。出る量は限られているが尽きることはない。ラダリオンか雷牙が合流するまではそれでしのげ」


 こちらに人間の兵士たちが駆けてくるのが見えた。


「わかりました」


 装備していたX95とレッグバッグ、リュックサックを渡した。


「……旦那……」


「オレ一人ならどうとでもなる」


 どうせ武器は取り上げられるならロズに渡していたほうがいい。それを使って生き残れ。


「何者だ!」


 槍を向けれ誰何される。気が立っているとは言え、あまり賢くない兵士のようだ。


「ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのギルドマスター、一ノ瀬孝人。ソンドルク王国からきた」


「ソンドルクだと?」


「一応、冒険者ギルドにも登録して、銀印の位を持っている」


「証明するものは?」


「ギルド職員相当の鉄板なら持っている」


 鉄板を渡すと納得されてしまった。


 ダメ女神が創っただけに冒険者ギルドはどの国にもあり、信頼されるものとなっている。ただの板なのに、素直に信じられるとか不思議パワーが秘められているのだろうか?


「こい! 武器は預からせてもらう」


 ダミー用に残していたガンベルトを外して渡した。ちなみにヘルメットは外してい小脇に抱えています。


 兵士に囲まれながら城に向かった。


 第二城壁は三メートルもないもので、第一城壁の五分の一もない。ただ、境界線的な感じのもののようだ。


 それでも隔絶的な境界線のようで、中のヤツらはいい服を着ており、清潔に保たれていた。


 ……最初から籠城する目的で造られた感じだな……。


 それなら民衆に還元してやれよとは思うが、身分が根づいた時代では人権って概念すらない。あの身分に寛容な領主代理でも有象無象の民衆は人とは見てなかった。ランティアック辺境公は民衆を数としか見てないんだろうな~。


 それを証明するかのように通された部屋は謁見の間的なところではなく、辺境公の配下、政務を仕切っている感じの男の部屋だった。


「街で暴れていたのはお前か?」


「はい。そうです」


 簡素な質問に簡素に答えた。


 兵士が返してくれなかった鉄板を差し出し、男は手に取ることなく覗いた。そういや、鉄板に刻まれた文字ってなんて書かれているんだ? 今まで気にもしなかったよ。


「何者だ?」


「ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのギルドマスター、一ノ瀬孝人です。冒険者は仕事上、登録しているだけです」


「ゴブリン駆除? そんなのが仕事になるのか?」


「なります。こうしていい装備をしていることが証明になるはずです」


 戦闘強化服は古代エルフのものだが、その上にプレートキャリアを着込んでいる。いい身分の者なら質はわかるはずだ。

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