第942話 妥協であり線引き
「北は……あっちか」
ヘルメットの方位で北を確認。動体センサーをオンにすると大量に蠢く反応があった。
「ラダリオン、集めるの上手いな」
バデット化すると本能の塊となる。ゾンビのように肉を食らうことはなく、魔力を奪おうとする。肉体と理性のリミッターが外れているから纏われたらタダでは済まない。だが、一旦、方向性を向けさせたらそう簡単に止まることはない。
五分経ってもバデット化した人間がその場から動くことはない。消えたラダリオンを追っていた。
バデットの治し方など知らないし、救ってやれるほど優しくはない。優先すべきは仲間の命。救われたいのなら神に救世主でも願ってくれだ。
集まっている中にマルダードを投げ込んでやる。
携帯武器から逸脱した威力でバデットを数百体は吹き飛ばした。
それでもまだ数百体が蠢いている。ゾンビ映画好きには堪らないだろうよ。オレは別に好きでもないからうんざりするばかりだがな。
削るようにバデットに弾丸を食らわせる。一円にもならない戦いは萎える一方だよ。
千発以上入れた弾もなくなり、バールを抜いて脚の骨を折っていった。
戦闘強化服を着ていても疲れるものは疲れる。体力も減る。腹も減る。モチベーション維持ってのは本当に大変だよ。
無理しないうちにホームに入り、雷牙が入ってきたのでバトンタッチ。戦闘強化服に着替えたらダストシュートさせた。がんばれ。
水分補給とカロリーバーで腹を満たしたら弾をレッグバッグに詰め込んだ。これが結構面倒なんだよな。
「──タカト。エクセリアが限界。ホームに戻った。明日の朝に出てくるって」
残り二割で四時間以上戦ってたんかい! どんな二割だよ? 普通のヤツでも四時間も戦っていたらバテるぞ。
「あの人だけで魔王を倒せるんじゃないか?」
チートタイムで十六将の一人を倒しただけだが、山崎さんやエクセリアさんの力から考察すると魔王の力は十倍。最大でも二十倍はいってないはず。グロゴールを一人で倒せるくらいだろう。
仮にそれ以上なら勇者が相手しているはずだ。
勇者は別のなにかと戦って死んだなら魔王は女神から見てそれほど脅威とは思われてないってこと。つまり、山崎さんやエクセリアで倒せる相手ってことだ。
その部下ならそこまで脅威じゃない。現れたところでエクセリアでも充分相手できるだろうよ。
「ラダリオンもホームに入れ。雷牙が戻ってくるまで休むといい」
「わかった」
「弾はまだあるか?」
「もう尽きる寸前。在庫もない」
どれだけ撃ったんだか。まあ、オレも三千発以上は撃ったけどな。
「マナイーターに換えるか」
最初からマナイーターでやるんだったな。
「あたしは鞭を使う」
「鞭? 鞭なんて使えたんだ」
ラダリオンと鞭が結びつかんのだが。
「時間があったから練習してた」
言われてみればラダリオンがゴブリン駆除には出てなかったな。その間に練習してたんだ。すぐサボろうとするオレとは大違いだ。
「これならバデットをミンチにできる」
巨人が持ったら殺戮兵器になりそうだ。鞭を振ったときのパンって音、音速超えた音なんだよな。
「──タカト。ドワーフと会ったよ。ロズって名乗ってた」
バデットの数が減ったから出てきたか?
「わかった。雷牙は休め」
「大丈夫。疲れるほど動いてないし」
雷牙にしたら二時間くらいなんでもないようだ。こいつもチートに育ちそうだな。
「わかった。暗くなるまでバデットを排除してくれ」
「任せて。ゴブリンより歯応えがあっていい練習になるよ」
そう言えば雷牙ってゴブリンしか相手してなかったっけな。
雷牙にダストシュートしてもらうと、ロズと仲間と思われるドワーフが何人かいた。
「旦那!」
「無事でなによりだ。でも、酷くなる前に帰ってこい。リミット様からアナウンスされなかったら助けにこれなかっただろう」
報告しなきゃ助けられるものも助けられんだろうが。
「……すみません……」
謝るロズの肩を叩いた。
「生きていてなによりだ。がんばったな」
帰りたくても帰れなかったのは想像できる。仲間を見捨てられなかったんだろうよ。
「ありがとうございます」
安心したのか、泣き出してしまった。よくわかるよ。そのプレッシャー。
「雷牙。あとは任せる。暗くなったらホームに入れよ」
「了ー解!」
ビシッと敬礼する雷牙。ビシャかメビの影響を受けたか? 他が真似するだろうが。
「ロズ。城に案内してくれ。状況を知りたい」
「わかりました」
アポートウォッチでヒートソードを一本取り寄せてロズに渡した。
「お前が信頼するものに渡せ」
「いいんですかい?」
「お前はセフティーブレットの一員だ。セフティーブレットとは関係ない者をトップに立たせろ」
これは妥協であり線引きだ。オレが守るのはセフティーブレットの一員。この国を救うためにきたわけじゃない。救いたければセフティーブレットと関係ない者を立たせろだ。
「……旦那……」
「セフティーブレットはゴブリン駆除ギルドだ。リミット様によればこの国に魔王軍の将が約六万のゴブリンを率いている。オレらはそちらを相手にする。バデットは別の者にやらせろ」
「ま、魔王軍ですかい!?」
「おそらく、バデットを広めたのは魔王軍の将だろう。その将を倒せば三千万円が手に入る。止めを刺した者の総取りだ。他に奪われたくないのならがんばることだ」
請負員カードも大量に発行して渡した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます