第941話 団結は力なり
ヘルメットを取ってスポーツ飲料を一気飲みした。
戦闘強化服が体温調整してくれているはずなのに全身から汗が止まらない。喉がカラカラだったぜ。
さらにもう一本飲み干してなんとか喉の渇きが収まってくれた。ふー。
「タカトさん、今のうちにシャワーを浴びてきてください」
待機してくれてたミリエルの言葉に従い、シャワー室に向かって戦闘強化服を脱いで熱いシャワーを浴びた。
そう長いこと戦ったわけじゃないのに丸一日動いたかのような疲労だ。もっと走り込みしておくんだったよ。
それでも水分を取ったお陰で少しは回復した。戦闘強化服の内部を洗ってまた着込んだ。
「ミリエル。悪いが、館に戻ってきてくれ。完全に戦争になりそうだ」
リミット様からのアナウンスを伝えた。
「ま、魔王軍ですか。かなり厳しい状況ですね」
「魔王軍と言ってもゴブリンだ。いつものように駆除したらいいだけだ。問題は食糧だ。まだロズたちが何人いるかわからんが、それなりの数はいるだろう。他の町にも生き残りはいる。そうなると敵の数より味方の胃袋だ」
相手がゴブリンならどうとでもできる。オマケみたいなものだ。
「これから冬になる。マガルスク王国に生産能力はない。穀物庫を探せば多少なりともあるかもしれない。生き残りを生かすことができるかもしれない。だが、冬を乗り越えるには暖も必要だ。それもなんとか解決したとしても生産能力がなければ他から持ってくるしかない」
カロリーバーの生産だって限界がある。生き残りが数万人数ならまだしも数十万人もいたらどうする? 仮にも国だぞ。百万人いたって不思議じゃない。そのすべてがバデット化したとかあり得んだろう。
どこぞのゾンビ映画じゃねーんだ、ねずみ算式に増えるなんてことあり得ない。生き残りは相当数はいるはずだ。
「戦争なんて物資が豊かなほうが有利だ。ゴブリンなんて都市戦に出すとか愚策でしかない。オレらは食糧確保に勤しみながら冬を越え、来年の春までには終わらせることだ」
それがどれだけ困難か。自分で言ってて泣きたくなてなってきたよ。
でも、泣くわけにはいかない。オレはセフティーブレットのマスター。上が弱気になっていたら下まで弱気になる。こんなときだからこそ笑ってみせるのだ。
「なに、大丈夫。勝算はある。負けない状況を作り出してやるさ。それには、駆除員が館にいてくれなくちゃならない。この国もいろいろ問題を抱えているからな。指揮をしてくれるミリエルにいてもらいたいんだ」
王都にはカインゼルさんがいるが、充分な戦力を保有しているわけじゃない。なにかあれば支援に迎える者は残しておきたい。その判断と決断をできるのはミリエルだけだろう。
「わかりました。お任せください」
「ありがとな。安心してマガルスクに集中できるよ。ただ、必要があればミリエルにもきてもらう。ゴブリン相手ならミリエルの力は強力無比だからな」
バデットにミリエルの魔法は効かないが、ゴブリンには即死級の威力を見せる。魔王軍の将軍でも有効だろうよ。
「はい。そのときはゴブリンを殲滅してみせます」
……この世界、たまにチート級のがいるから怖いよな……。
「頼りにしているよ。カロリーバーと水を用意しててくれ。ヒートソード、すべて持っていくな」
冬には欠かせない一品。何本あったっけ? 使ってないのは三本か。ほんと、よく当たるものだよ。
オレのも混ぜれば四本。一都市ならなんとかなるか?
「薪はどうします?」
「まだ大丈夫だろう。町なら家を壊せば木は手に入るからな。回復薬がないのが痛いな」
回復薬のほとんどはカインゼルさんに渡しちゃったからな。
「それなら修道士を集めます。もうコラウスの教会はセフティーブレットの傘下みたいなものですから。四人くらいなら集められると思います」
いつの間に教会も掌握してたんだか。頼もしい限りだよ、うちの女性陣は。
「第二陣くらいに乗せてくれ。町の様子がわからないと行動できないからな」
戦力の逐次投入は愚策とよく聞くが、だからと言って無策で投入することはできない。投入する場所の情報を知らなければ投入なんてできるか。
「生き残りを纏める必要もあるからな。組織化しないとバデットを回避してもゴブリンで詰む」
逃がすとしても戦うにしても組織化しないとただ無駄に命を散らすだけだ。種族に関係なく団結は力なり、だ。どれだけ強固にするかが勝利の鍵になるはずだ。
「──タカト、交代! 入った場所から北にバデットを集めた!」
転がるようにラダリオンがホームに入ってきた。
「了解!」
7.26㎜弾はまだ入っているはず。ラダリオンの補給が終わるまで充分だろうよ。
「ライガが入ってきたら援護に出します」
「そのときは戦闘強化服を着させろよ。変な病気に感染されたら困るからな」
雷牙は近接戦闘型。返り血をよく浴びて帰ってくるんだよな。ブーメラン持っているのによ。
「わかりました。お気をつけて」
「おう! いってくる!」
タボール7を構えながら外に出た。
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