第936話 *カインゼル* 5
島は村が五つくらい入るほど広く、収容施設は八から十棟だろうか? 熱反応から三百人はいる感じだ。
公爵領として何十万人と暮らしていただろうに、大半は殺され、残りは奴隷として各地に散らばり、ここにはもは公爵家に深い繋がりがあった者が収容されているのだろう。
「ミリエルはよく逃げ出せたものだ」
詳しいことは聞いてないが、タカトと出会ったときは両脚を失っていた。想像しなくとも過酷だったとわかる。あれでよく生きていたと思う。女神に選ばれたにしても若い娘には厳しかっただろうよ。
わしも惨めな二年を過ごしたが、まだ五体満足でそれなりに食えていた。ミリエルの比ではないだろう。あの精神力は見習いたいものだ。
海兵隊員がそれぞれの位置から島に上陸。漁師は夜目もいいのか、暗視にしなくともずんずん進んでいき、見張りを次々殺していった。
「殺しなどしてこなかっただろうに、憎しみが勝っているんだろうな」
タカトの側にいると憎しみが和らぐのが問題だな。アルズライズに預けたのは正解だ。
「あいつらは兵士ではなく戦士として仕上げるか」
そのためには人を殺させる必要がある。これはタカトに負担をかけないよう黙っておかんといかんな。
女でも抱いて発散させればいいと思うが、タカトは頑なに女を抱こうとしない。望めば抱かれたい女など掃いて捨てるほどいるというのに。
タカトらしいと言えばタカトらしいが、見ているこっちとしては歯痒くてたまらん。あれではいつか精神が壊れてしまうぞ。
「女神様、なんとかなりませんか?」
祈るなどしたことがないわしでもつい女神様に祈ってしまうよ。男のわしでは敵を殺してやるしかできないからな。
「──カインゼル様。看守がいる建物に突入します」
おっと。今は襲撃に集中せんといかんな。
「よし。話ができるていどには痛めつけて構わない。身分のありそうなヤツは殺すなよ」
「了解」
「各員、チームであることを忘れるな。力を合わせれば凶悪な敵でも打ち勝つことはできる。それを証明してきたのがタカトだ。女神の使徒たる
──了解!
海兵隊員から決意が返ってきた。
わしもあの中に入って暴れたいのをグッと我慢して海兵隊員の指揮に集中した。
襲撃開始から三十分。下っぱ看守はほぼ制圧。身分ある者が住む屋敷も抵抗する者もいなくなった。
残りが未だに抵抗しているようだが、それも時間の問題だろう。直接指揮をするべく屋敷前にルースミリガンを着陸させた。
「カインゼル様。主要な者たちが屋敷の地下に閉じ籠りました。かなり頑丈な扉でアサルトライフルではびくともしません」
「反乱が起きたときのための部屋か。それなら船が隠してあるはずだ。五人、海に向かわせろ。生け捕りしろ」
逃げるなら島の重要人物ってことだ。是非とも生きてご対面しようではないか。
「了解」
扉まで案内してもらうと、確かにアサルトライフルではどうにもできない厚さの扉だった。
「下がっていろ」
ヒートソードを抜き、扉の隙間に切っ先を刺した。
スイッチをオン。出力最大にして扉を溶かした。
普段は石を熱してサウナにしている剣だが、鉄を溶かすほどの熱を発せられる恐ろしい神世の武器である。
扉の一部がドロドロに溶け、人の顔くらいの穴が開いた。
「冷めたら突入しろ」
そう急ぐこともない。冷めるまで待ったら扉を破り、奥に進んだ。
灯りは点けたままのようで、視界はそれなりに確保されているが、岩肌がごつごつしており、影ができている。
そう言えば、洞窟を根城にしていた盗賊がいたな~。暗闇に隠れて襲ってきたっけ。
グロック17を抜いて隠れている者に弾丸を食らわせてやった。
「影に気をつけろ」
すぐにライトを出して影に向けて照らし、隠れている者の脚を狙って制圧した。
……洞窟内で銃は不味かったな。タカトにイヤーマフを買ってもらわんと……。
「カインゼル様! 捕獲しました!」
奥から海兵隊員の声がして、十人くらいの男女が連れてこられた。
「逃げた者は?」
「桟橋に船が繋がれていた形跡がありました」
「そうか。なら、外の者に任せるとしよう。くまなく探ってなにもなければ上に上がれ。そいつらも連れ出せ」
尋問は明るところでやるとしよう。
屋敷は多少なりとも破壊されてはいたが、寝泊まりするわけでもなし。金目のものはすべていただくとしよう。
「捕まっている者たちを解放しろ。説明はわしがする。モリスの民を救いにきたことだけを告げろ。看守は殺せ」
たくさんいても尋問する数は限られている。下っぱは片付けさせてもらうとしよう。
モリス公爵がいるかどうかわからんが、それに準ずるお方はいるはず。迎えるために一番いい部屋を片付けて顔を洗うものや服を用意しておくとしよう。
「報酬も減ってきたな。また大量に発生して欲しいものだ」
いなくなるために駆除しているのだが、ゴブリンの稼ぎがないと必要なものが買えないとは皮肉なものだ。タカトが狩り場を作ろうとしているのがよくわかる。
「カインゼル様。公爵様をお連れしました」
現れたのはアルゲイス様ではなく、よく似たお方だった。
「セフティーブレットのカインゼルと申します。アルゲイス様のご親族の方でしょうか?」
「アーベイグ・ドゥ・モリス。アルゲイスの弟だ」
弟様か。確かにいた記憶があるな。
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