第935話 *カインゼル* 4

 復讐に生きていたときのアルズライズに似ているな。


 やってきた海兵隊員を見てそんなことを思ってしまった。


 嫁や子供を殺されたのだから憎しみに燃えるのは当たり前だ。家庭を省みなかったわしでも家族を殺されたら怒りもするからな。


 その憎しみを消し去ったのがタカトだ。臆病者のクセに、仲間のためには覚悟を決め、誰よりも危険を冒す。きっとこいつらのためにも危険を冒すのだろうな……。


 タカトが前に出ないよう、こいつらを鍛えないといかんな。竜人と当たる前に実戦(人を相手としたな)を経験させたいものだ。


「カインゼル様で?」


「ああ。そうだ」


「ミリエル様がアレクライトにきて欲しいとのことです。モリスの民が収容されている島を発見しました」


 ……モリスの民か……。


 アルゲイス・ドゥ・モリス公爵。わしは会ったことはないが、伯爵様(前)とは親交が会った方だ。


 ミリエルがアルゲイス様の娘と聞いたときは驚いたものだ。どんな運命かと思ってしまったものだ。女神様が導いたとしか思えんかったな。


「わかった。カナドにわしは少し出かけると伝えてくれ」


「わかりやした」


「補給品は運んできたか?」


「はい。ミリエル様が用意してくれました」


 魔法で容量を増やした箱を三箱渡してくれた。


 中を確認すると、酒や弾薬、調味料、そして、回復薬小が一瓶入っていた。


「あいつはちゃんと自分の分は残しているんだろうな?」


 慎重な男だから必要な分は確保しているんだろうが、必要なら自分の分さえ差し出しそうだからな。ミリエルに注意するよう言っておくとしよう。


 プレシブスに乗り込み、アレクライトに向かった。


「やはり海を走るものだな」


 水路を走るための舟だが、海の上でも問題なく走れている。落ち着いたら操縦させてもらうとしよう。


 アレクライトは岩島の陰に隠れており、プレシブスが警備に降ろされていた。ん? 岩島にも何人かいるな。


 後部からプレシブスに乗ったまま入ると、アルズライズが迎えてくれた。


 ……こいつも律儀な男だ。わしを立てようとするんだからな……。


「さらにさっぱりした顔になったな」


 憑き物が落ちて、本来の、いや、一皮剥けた男の顔になっているな。


「そうだな。生きる目標をもらったんでな」


 アレクライトとは子供の名前とか。まったく、そういうところが人たらしなんだよな、タカトは。子供の名前を冠した船を与えるとか親でなくとも泣くわ。なんの美談だって話だ。


「ミリエルは?」


「ホームに入っている。朝になったら出てくる」


「では、その前に話を決めておくか」


 ミリエルはもうセフティーブレットのナンバー2であり、タカトを支える者。些事はこちらで片付けておくとしよう。

 

「ああ。島の情報は仕入れてある。さっさと終わらせよう」


 アルズライズもわしと同じことを考えていたようだ。やはり金印の冒険者は一味も二味も違うな。


 作戦室的な部屋に通され、島の情報を教えてもらった。


「襲撃はカインゼルに任せる。海兵隊を使ってやってくれ。銃の扱いはタカトが教えてある」


 タカトは剣の才能はまるでないが、銃の扱い才能はあった。あれで三十年触ってこなかったんだから人の才能とはわからないものだ。


「わかった。朝までには終わらせるとしよう」


「ああ、了解だ」


 海兵隊員は元々漁師。海に強いから何人かを海から向かわせて残りはプレシブスで上陸させるか。


 わしはルースミルガンで指揮するか。いきなりわしが参加しても海兵隊員の連携もあるだろうからな。


 海兵隊員を集めて上陸作戦を説明する。


「いきなり現れたわしに指揮されるのはおもしろくなかろうが、タカトのために今は我慢してくれ」


「いえ、カインゼル様は元兵士長とか。専門家の指揮なら全面的に従います。おれたちに戦い方を教えてください」


 自分たちの実力はちゃんとわかっているようだ。まあ、タカトといれば凶悪な魔物と戦っている姿は見ただろう。そんなのを見せられたら自分らの力がどれほどのものか嫌でもわかったのだろうよ。


「わかった。速やかに制圧しようかと思ったが、海兵隊の実戦訓練といこうか。弾は各自三十発まで。拳銃はなしだ。ナイフを使え」


 銃は強力すぎて素人でもそれなりの戦果は出せてしまう。条件を厳しくしないと訓練にならないだろう。


「了解です!」


 不平を口にせず、全員が敬礼で答えた。


「プランデットは使えるのか?」


「通信なら習いました」


 まあ、わしもプランデットはそれほど使いこなせてはいない。エルフの言葉は難しくて年寄りにはたまらんよ。


 各自、上陸作戦を把握するまで話し合い、夜中に作戦を決行する。


 島の近くまでアレクライトで向かい、海兵隊員が出たらわしもルースミルガンで出た。


 暗視にしているので視界はいいが、やはり年齢が年齢だからか、夜の飛行は心もとないな。回復薬でも老化は治らないのは悲しいよ。


「──カインゼル様。配置につきました」


「よし。監視は殺していい。偉そうなヤツは生け捕りにしろ。話を聞きたいからな」


 重要な情報を持っていたらあとで困るかもしれない。面倒でも皆殺しは避けておこう。


「了解」


 さて。やるとするか。

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