第929話 ミシニーさんは痩せられない

 朝になって島に戻った。


「じっくり話せましたか?」


 貴族な話し合いがどんなものかはわからんが、アーベイグさんの表情が少し柔らかくなっていた。打ち解けたのかな?


「ああ。世の流れを感じたよ」


「過ぎてみれば一瞬。先を見たら長い道のり。今をしっかり生きるしかありませんよ」


 この世界に連れてこられてそう強く思うよ。


「マルスさん。申し訳ありませんが、アーベイグさんたちをロンレアで匿ってください。モリスの民も。復興の人材として使ってください」


 住む場所は港町にある。三百人くらい焼け石に水だろうが、これからもモリスの民は増えるはず。新たな地でがんばってもらうとしよう。


「これからはロンレアの民として生きられるようにしてください。王国に目をつけられるのも困りますからね」


「タカト殿。本当にアーベイグ様を国王にしようというのか?」


「状況次第ですね。もし可能ならロンレアがアーベイグさんの後ろ盾となってください。さすがにミヤマランでは目立つでしょうからね」


「父と相談してみます」


「さらに申し訳ありませんが、このままロンレアに戻ってもらえますか? 伯爵に説明をお願いします」


「わかりたした。そうします」


 荷物を片付け、アレクライトに運んだ。


「アルズライズ。頼むな」


「了解。任された」


 すっかり敬礼が板についているな。てか、敬礼がどこまでも広がってんな。


 仕方がないのでオレも敬礼で応え、島に戻った。


「って、ミシニーはいかなくていいのか?」


 当然のようにルースブラックに乗っていたから突っ込むこともできなかったよ。


「これと言った騒ぎもないしね、ゴブリンが増えるまでのんびり過ごすとするわ」


 金印の冒険者がそれでいいのか? まあ、冒険者は個人事業者。好きに商売をして好きに休めばいいさ。


「ルズ。予定変更で申し訳ありません。明日、カンザフルに戻るとしましょう。公爵様にも話を通しておきたいですからね」


 ミヤマラン公爵家とモリス公爵家は四大公爵家に入っている。なら、親交もあったはず。話を通しておくべきだろうよ。


「そのとき父も連れてってくれ。公爵様と話がしたいだろうからな」


「わかりました」


 しばらくはお偉いさんの足になって運んでやるとしよう。


 今日はゆっくり過ごし、ゆっくり起きたらら皆をカンザフルに運んだ。


「片付けしてくるので話を纏めておいてください。マリル、マルゼ、いくぞ」


 ちなみにミシニーは島に残って酒を飲んでます。あいつ、ちょっと太ってたが大丈夫か? ミシニーさんは痩せられないになるぞ。


 これ以上、太らせないために片付けを手伝わせて汗を流させたら酒で喉を潤し始める。こいつ、本当にだらけてきたよな……。


「んじゃ、いくか」


 ゴブリンども。次にくるまでに増えておけよ。


 カンザフル島に別れを告げ、カンザフルに戻ったら伯爵の足(翼か?)になり、ミヤマラン、ロンレア、アシッカと飛び、最後にコラウスに向かった。


 国のことは伯爵たちに決めてもらい、王国と一悶着起きることを前提に計画を立ててもらい、セフティーブレットはその下で動くことにした。


「内乱か」


「珍しいことですか?」


 領主代理の呟きに返した。


「いや、珍しくはない。巻き込まれる民はいい迷惑だがな」


「だったら迷惑にならないよう動いてください。民を思うならね」


「難しい注文だ」


「こなせないのなら他の者に譲ればいいだけです」


 実力がなければ排除されるだけ。ただそれだけだ。


「……お前はときどき容赦のないことを言うよな……」


「貴族だからと言って絶対的な存在じゃありませんからね。オレの世界じゃ民衆に倒された貴族なんて珍しくもありません。今を耐え抜いても子の代に外れるだけ。嫌なら自分の代で片付けることです」


 子供にオレの業を押しつけるつもりはない。好きに生きられるようオレの代でセフティーブレットを組織化して、次の駆除員に渡せるようにするさ。


「そうだな。わたしもミルドが可愛いからな。苦労はさせたくない」


「母親ですね」


「紛れもなく母親だ。わたしをなんだと思っている?」


 不利になったので速やかに退散。領主代理の怒りが収まるまで逃げることにした。


 ちなみにカンザフル伯爵は、しばらくコラウスに滞在するそうです。領主代理に協力するんだってさ。隊商がきたときのために。


「マリルとマルゼは、しばらくコラウスでゴブリン駆除をやってくれ」


 二人には王都を見せてやりたかったが、それぞれに任せた以上、オレが動くわけにはいかない。コラウスでゴブリンを駆除しながらそのときに備えるとしよう。


「金を持っておけ。コラウスは広いから報酬以外の金が必要になるからな」


 二人には銀貨五枚と銅貨三十枚ずつ渡した。


「おじちゃん、RMAXを使ってもいい? まずはコラウスを見て回りたいから」


 マリルがそう尋ねてきた。


「いいぞ。帰ってきたらどんなか教えてくれ」


「わかった」


 RMAXを出して二人に鍵を渡した。


「ミシニーはどうする?」


「そうだな。せっかく帰ってきたし、知り合いに顔を出してくるよ。館に部屋を用意しててくれな」


「あいよ」


 三人とは城で別れ、オレはルースブラックで館に帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る