第928話 食肉加工室 *120000匹突破*

 補給完了。五百万円が飛んでしまったよ。ハハ……。


「五百万円で済んでるのが奇跡か」


 アレクライトには乗組員と海兵隊、世話をする女の獣人が乗っているだけ。五十人もいないから五百万円で済んでいる。倍もいたら報酬はとっくに枯渇しているところだ。


 ──ピローン! 


 休憩室で一休みしていると、電子音が入った。


 ──お疲れ様です。十二万匹を突破しました。


 十二万匹?


 ──これと言って報告することもありませんでしたので、切りのよいところでアナウンスさせてもらいました。


 こういう配慮ができるからリミット様は素晴らしいんだよな。


 ──あと、山崎さんより伝言です。回復薬大を一瓶いただきたいそうです。セフティーホームに食肉加工室を増設したのでそちらに定期的に渡せるそうです。エクセリアさんにコラウスに向かうよう伝えておきました。


 マジ神。いや、マジ真の女神様。お祈りさせていただきます。


 ──では、引き続きよろしくお願い致します。


 感動で涙が溢れた。この何気ない配慮、見習えと言いたいよ。


 ホームに入り、ボックスロッカーに回復薬大の瓶を入れた。


「てか、なんかあったのかな?」


 回復薬大を使う状況なんてそうはないだろう。


「ん? もう開いたのか」


 常時待機している者がいるのか?


 緑のランプが点いたので開いてみたらコンテナボックスが入っていた。


 エルガゴラさんが付与魔法で空間を拡張したもの。出して中を見たら肉のブロックが入っていた。


「なんの肉だろう?」


 見た目は牛肉っぽい。この世界の生き物だからなんとも言えないところなんだよな。


「オレにはどう料理したらいいかわからんし、獣人のおばちゃんに任せるとしよう」


 アレクライトの台所(厨房とは言えない)を預かる二人のおばちゃん。一人は酒場で働いていたそうだからいいように料理してくれんだろう。


 新たなコンテナボックスとありがとうございますって紙を添えてボックスロッカーに入れた。


 コンテナボックスを持って外に出た。


 台所に向かい、おばちゃんにコンテナボックスを渡した。


「モリスの民にも肉を出してやってください。カロリーバーだけじゃ寂しいでしょうからね」


「足りるかい?」


「足りないときは違う肉を出しますよ」


 まだロースランの肉があったはず。冷凍庫を空にしておこう。これから山崎さんから肉が届くんだしな。


「野菜は足りてますか?」


「ああ。芋やカブなんかの日持ちするものは王都で仕入れたから大丈夫だよ」


「王都に降りたんですか?」


「あたしらは降りてないよ。モリスの民が幽閉されていた島には降りたけどね」


「なにかいいものでもありましたか?」


「いや、酷いところだったよ。あたしらも酷い生活を送っていると思ったけど、さらに酷いところはあるもんなんだね。よくあんなところで生きていたと思うよ」


 かなり酷いところのようだ。アルズライズ、回復薬求めていたしな。


「まともな王にまともな法を与えて、まともな国を創ってもらいたいもんですね」


「あんたが王になるんじゃないのかい?」


「オレに王なんて無理ですよ。大事なものをいざってときに切り捨てられませんからね。セフティーブレットの一人を救うために全員に動けと命令するような男ですからね」


 そして、本当に大事な者を守るために捨てるような男でもあるんだからな。


「あたしでも救いにきてくれるのかい?」


「いきますよ。セフティーブレットの仲間は誰一人見捨てません。だから死ぬ前に助けを求めにきてください。さすがに見えないところにいられたら助けるものも助けられませんからね。オレらがいくまで死なないでください」


「はは。そいつは難しいね」


「難しくても諦めないでください。必ず助けにいきますから」


 今は口約束でしかないが、それを周知するためにも言っておく。それが台所にいるおばちゃんでもな。いや、むしろこういうおばちゃんに言っておかなくちゃならない。こういうおばちゃんの情報伝達能力は5Gより速いからな。


「では、よろしくお願いします」


 台所をあとにして甲板に出た。


「アルズライズはまだ帰ってこないか」


 ブラックリンで戻るか? と考えていたらプレシブスがアレクライトの周りを走っていた。


「海兵隊か?」


 アレクライトの後部ハッチからプレシブスが出入りできるようになっている。ロンレアで積み込んだのかな?


「ん? 子供たちを乗せてたのか?」


 すっかり忘れてた。子供たちを連れてきてたのを。


 楽しそうにしているのでもう少しアレクライトにいることにするか。


 休憩室に戻り、缶コーヒーを取り寄せて一服の続きを再開させた──ら、いつの間にか眠っており、マルゼに起こされてしまった。


「やっと起きた」


「……何時だ?」


 船内なので昼か夜かわからんのだよ。懐中時計も置いてきちゃったし。


「二十時だよ」


 時計の見方を覚えたマリルが教えてくれた。


「すっかり寝込んでしまったな。ルースブラックは戻ってきたか?」


「うん。でも船長が今日は船に泊まれってさ。大人たちはまだ話しているからって」


 そっか。まだ話し合ってんのか。まあ、募る話もあるだろうし、数時間では語り終えないか。


「じゃあ、船に泊まるとするか。部屋、余ってっかな?」


 五十人もいると部屋は大体埋まっている気がする。


「船長が用意してくれたよ」


 さすがアルズライズ。子供には優しい男だよ。


 ──────────


 そういや、二巻のためにミリエルの過去を書こうとしてたっけ。出せなくてごめんなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る