第927話 アーベイグ・ドゥ・モリス
場所を移してアーベイグ・ドゥ・モリスさんと話すことにする。
「アーベイグ様は、モリス家を再興するのですか?」
「はっきりと訊くのだな」
「オレはこの国になんの義理も義務もありません。ゴブリンを速やかに駆除できる体制を構築したいだけです。ただ、この国には女神と反する組織が潜んでいます。勘ですが、その組織は王国の中枢部まで根を張っているでしょう」
堕天使。トウナカ・ユウカさんが代々言い残してきた警告。ゴブリンを増やしている元凶とか。
どこまで正しい情報かはわからない?だが、ヒャッカスなんて組織がいる。あながちウソとは断言できないだろう。
「もしものとき、領主代理、いえ、コラウス辺境伯を中心とした諸領連合軍を組織化して王国と対峙する、なんて計画を立てて、今のところ成功しています。コラウス、アシッカ、ミヤマラン、ロンレア、それに付属する男爵は味方にしています。足りないのは旗印。モリス家は王を出した家でもあると聞いています。モリス家を復興して王となるなら女神の使徒たる一ノ瀬孝人が後ろ盾となります」
領主代理を旗印に、って考えていたが、兄殺しの汚名を被せるのは偲びないと思っていた。だが、王を出したこともある家なら旗印にしてもいいんじゃね? とかも考えていたんだよね。
「散り散りになったモリスの民はあるていど集めています。必要なら家臣としてあなたの下に帰してもいい。なんならモリス家を陥れた者を討つことにも協力します。すべてはあなた次第です」
「…………」
「まあ、今はゆっくり回復させて考えを纏めてください。オレは別にあなたを傀儡にする気はありません。あなたの治世を行ってください。オレが求めるのはゴブリンを速やかに駆除できる体制です。それを認めてくれるのならオレはあなたの剣となりましょう」
オレは誰かの下につくことを嫌とは思わない。どちらかと言えば誰かの下で中間管理職になりたい。大きいことを決めたり、できもしないことを言われたくもない。安全な場所で安全に過ごしたいんだよ。
「ちょうどよく、ロンレア伯爵のご子息とカンザフル伯爵のご子息がいます。会ってみませんか? 最近の情勢を聞くには適切な方々のはずです」
ロンレアは十年くらい世間から閉ざされていたが、ミヤマランの公爵と話している。カンザフル伯爵は王都に近い。オレから聞くより理解しやすいはずだ。
「……そうだな。聞かせてもらうとしよう……」
「アーベイグ様。ご家族は?」
「妻と息子、娘が二人いる。兄夫婦は五年前に死んだ」
兄夫婦がミリエルの両親、ってことこな?
「生かされた、と言うことですか? 人質的な理由で?」
「アルズライズから頭が回る男だとは聞いていたが、そこまでわかるのだな」
「あなたたちを生かす理由を知っているだけです」
「……カルベガかミリエルが生きているのか……?」
頭が回るのはこの人だろう。よくわかったよな。
「ミリエルは生きて、オレの家族となってセフティーブレットを支えてくれています。島に降りて話し合ってみてください。オレから聞くより本人から聞いたほうがいいでしょうからね。アルズライズ、アーベイグ様を運んでくれ。オレは補給するから」
「わかった。回復薬も頼む。病人が結構いる」
「了解」
回復薬中を渡し、あとはアルズライズに任せ、まずは船橋に上がった。
「ライズさん。アレクライトは順調ですか?」
副船長としてアルズライズを支えるために残ってくれた。教育もしてくれてるそうでありがたい限りだ。
「ああ。航海に問題はないが、補給ができないのが難点だな」
「そうですね。ゴブリン駆除の報酬がどんどん消えていきますよ」
水と食料は生産できる。が、あんなものを毎日食っていたら精神的に病んでくる。補給しないと船での生活はやってらんないだろうよ。
「あの島をゴブリン養殖場にしますよ。来年には増えていると思うので半年に一回くらい稼ぎにきてください」
増えても三百から四百匹だろうが、カロリーバーをばら撒けば勝手に増えてくれる。中継地でも増やすのだから苦しいのは今年だけだろうよ。
「ゴブリンを増やしたりしていいのか?」
「リミット様からの提案ですから大丈夫です」
「リミット様?」
「別の女神様です。本当は魔王を倒す山崎さんを担当しているのですが、今だけオレも兼任しているようです」
「女神が他にもいるのか?」
「女神の下についている方のようですが、女神らしい女神様ですよ」
あの方の下ならまだ気持ちよくゴブリン駆除ができたのによ。山崎さんが羨ましいよ。
「……お前が女神を敬うなんて珍しいな……」
「リミット様は配慮のできる方ですからね」
どこかのダメ女神とは大違いだ。リストラされろ。
「これから物資を運び出しますんで整理お願いしますよ」
「ラー。酒も頼むな。人が増えたせいで大っぴらに飲めなくなったんでな」
「ふふ。それなら酒はここで出しておきますよ。マルーバも隠しておけ。自分で飲んでもいいし、部下を鼓舞するときに使ってもいいからな」
船橋にはマルーバと獣人の女がいる。船橋メンバーには優遇しておくとしよう。
ホームに入って酒を運んできた。
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