第926話 モリスの民

 リフレッシュ休暇も早いもので五日目になってしまった。


 子供たちも落ち着いてきたようで、今日は起きるのも遅く、タープの下でぐったりしていた。


 大人たちは逆に活発となり、航が操縦するプレシブスで島一週のクルージングに出ていた。


「釣りでもしてみるかな?」


 オレもデッキチェアでビールを飲んでいたんだが、やはり汗を流さないと美味さが落ちてしまう。


 ホームに入って適当に海釣り用のセット品を買ってきた。


 ウルトラマリンでちょっと沖に出て、さきいかを針に刺して海に投げ込んだ。


 まあ、釣れるわけもない。が、こうして波に揺られていると気持ちいいものだ。


「ん?」


 お昼くらいになり、帰るかと考えていたらよく知る気配を感じ、顔を上げて見回したらアレクライトが遠くに見えた。


「アルズライズか」


 他にもミシニーの気配も混ざっているな。


 釣り竿を片付けて浜に戻り、皆に船がきたことを伝えた。


「あれも船なの?」


 プレシブスの何十倍もある大きさに驚くマルゼ。村を出てから初めてのことばかりで驚きも少なくなってきたな。


「ああ。アレクライトって言う船だ。この海では最強の船だな」


 古代エルフのグーズルースがあったとしても魔力炉を搭載したのはアレクライトだけだろう。大砲とバルカン砲も積んでいるんだから勝てる船はないだろうさ。


「ミリエル、なにか聞いているか?」


「補給だと思います。わたしがいないので」


 あ、そっか。魔力は半永久的に供給されるとは言え、食料は生み出されない。いや、カロリーバーだけでは精神的にキツいだろうよ。


「ちょっといってみるか」


 あちらからもこれるが、こちらからいったほうが早いだろう。ルースミルガンだけでは島に上がるのも大変だからな。


「おじちゃん、おれも!」


「いきたいヤツは乗っていいぞ。ミリエルはホームに入ってくれ」


「わかりました。必要なものを買っておきますね」


 ルースブラックに乗り込み、アレクライトに飛んだ。


 船尾に着船して外に出ると、たくさんの男女が乗っていた。な、なんだ!?


「マスター」


 海兵隊員が迎えてくれた。


「なにがあったんだ?」


「モリスの民です。島の収容所から救い出しました」


 しゅ、収容所? そんなのがあったんかい?! 閉じ込めておくだけで金がかかんだろうに、なんでそんなことやってたんだ?


「何人いるんだ?」


「約三百人です。あと、かなり身分の高い者もいます」


 身分の高い者? 


「まずは補給をするか。停泊するように言ってくれ」


「了解です!」


 敬礼して駆けていった。


 数としては多いが、民としては絶滅に近い数だな。ここから攻勢をかけるのは難しいだろうな。復権を望んでいたら都市国家に運ばなくちゃならないな……。


 しばらくしてアレクライトが停まり、錨を降ろす音がした。


 アレクライトにも自動位置調整機能があるが、まったく動かないってわけじゃない。波が高ければ上下に動く。錨を降ろしたほうが動かないっぽい。


 アレクライトが停まったらホームに入った。


「ミリエル。アレクライトにモリスの民がいる。身分の高そうなヤツもいるそうだ。どうする? 会うか? 嫌なら会わないようにするが……」


 身分の高そうなヤツはおそらくミリエルの関係者だろう。会うのが嫌なら会う必要はない。ミリエルはもう自分の人生を選んでいるんだからな。


「大丈夫ですよ。わたしはタカトさんと一心同体。ゴブリン駆除に必要なら親類でも利用します」


 なんだか道を外させてしまった感があるが、それはもう今さらか。オレらは生き抜かなくちゃならないんだ、そのためなら悪党にでもなってやるさ。


「ありがとう」


 絶対にミリエルたちは守らないといけないと痛感させられるよ。


「まずはオレが会って事情を聞いてくるよ」


 利用価値があるかどうかはオレが判断する。オレがセフティーブレットの代表であり、ミリエルを引き込んだオレの責任だからな。

 

「わかりました。必要ならわたしを呼んでくださいね」


「ああ。ミリエルの助けがないとオレはダメだからな」


 情けないが、ミリエルのサポートがなければ権力者たちからの支持は得られなかっただろう。今いなくなったらセフティーブレットは維持できないだろうよ。


「ふふ。タカトさんはダメではありませんよ。自信を持ってください。ダメならすぐにわたしを頼ってくださいね」


「ああ、よろしく頼むよ」


 ミリエルの頭に自分の頭をぶつけてゴリゴリ押しつけた。


「痛いですよ」


「オレも痛かった」


 フフ、アハハと笑い合い、気持ちを切り替えて外に出た。


 外に出ると、アルズライズと身分の高そうな四十歳くらいの男性がいた。


 どことなくミリエルに似ているような気がする。これはなかり近い親族っぽいな……。


「休んでいるところ悪いな。ロンレアに向かう前にお前に会わせておこうと思ってな。こちらは、アーベイグ・モリス様。正式ではないが、先代の公爵様より後を継いだそうだ」


「アーベイグ・モリスだ。民を救っていただき感謝する」


「ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスター、一ノ瀬孝人です。公爵家の方が生き残っていてよかった。モリスの民はオレが保護させてもらいます」

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