第925話 ハッスル

 マリルもマリルで万能型っぽい。一度で感覚を覚えてオレの動きに合わせている。


 二度目に扱い方を教えると、すぐに頭に入れて操縦させたらお見事としか言いようがなかったよ……。


 それでも無理をさせないようにオレが後ろに乗って操縦させ、もうオレいらねーなってレベルになったら一人でやらせることにした。


「ミリエル。新しいのをもう一台買うか」


「そうですね。わたしも乗りたいですから」


 マリルがなかなか帰ってこないので、もう一台買うことを決めた。


 カワサキのウルトラ310LX-S、だったっけ? たぶん、三百万しなかったからこれなはず。


「七十パーオフシールを使っても結構な値段すんな」


「またがんばって稼ぎましょう」


 そうだな。皆が笑って使えるものなら安いものだ。特異種にもがんばってもらって子孫繁栄してもらおう。オレたちの未来のために、な。


 ……あとでオレたちの糧になってくれたゴブリンどもにカロリーバーをお供えしておこう……。


「おじちゃん、おれも乗りたいよ!」


 ミリエルの操縦を見ていたらマルゼが抗議を上げてきた。


「うーん。二人とも戻ってくる気配がないしな~」


 なんか二人とも競ってね? まあ、別にレースをしているわけじゃないんだが、二人から感じる気迫がそう思えてくるんだよな。


「じゃあ、マンダリンに乗せてやるよ」


 ブラックリンには乗せたことあるが、あれはちゃんと防水加工されており、魔力は使うが浮遊もできる。波をダイレクトに感じられなくとも遊ぶならウルトラマリンとそう変わらんだろう。


「アリサ。マンダリン借りるな」


 付かず離れずなアリサに声をかける。君はなにをしているんだ? 


「はい。どうぞ」


 との許可を得てマンダリンに跨がった。


 ブラックリンはプランデットなしでは乗れないほど高機動を見せるタイプだが、マンダリンは通常型。パトロールに使われるものなので高機動な動きはできない。


 なので、普通に乗るくらいならこちらで充分であり、練習したら大体の者が乗れるようになる。まあ、それなりのセンスを持ってないと無理だけどな。


「マルゼ、乗れ」


「うん!」


 不満になるかと思ったが、別にそうんな感じはなく、どちらかと言えば喜んでいる感じだ。遊んで欲しかったのかな?


 子育て経験がないので子供心を理解することはできないが、八歳なんて遊び盛りの時期だ。なら、思い切り遊ばせてやるとしよう。この頃の思い出は一生に残るだろうからな。


 マルゼが乗ったらバーをしっかり握っているように伝え、マンダリンを舞い上がらせた。


 プランデットによる制御をしてないから細かな出力ができない。ブラックリンにばかり乗りすぎた弊害だな。


 それでもブラックリンには結構乗っている。レーシングマシンから市販のバイクに乗ったようなもの。二十分も操っていれば勘がわかってきた。


「マルゼ、しっかりつかまってろよ!」


「うん!」


 マンダリンを急降下させて海面ギリギリで急上昇。大きく旋回して滑るように滑空。海面から一メートルくらいのところを飛んでマリルの横についた。


「ねーちゃん! 遅いぞ!」 


「うるさい!」


「おじちゃん、逃げろー!」


 加速してマリルを追い越して海面を裂くように飛んで波を起こした。


 ブイを浮かせてアリサたちと勝負するのもおもしろいかもな。


「マルゼ、海に突っ込む! 落とされるなよ!」


「了ー解!」


 三十メートルくらい上昇したら噴射を止めて急降下。十メールくらいで逆噴射。スピードを殺して海に突っ込んだ。


 水圧に体を持っていかれそうになるのを水魔法で払い飛ばして威力を殺した。


 後ろにマルゼの気配があることを確認して機首を上げて噴射。海の中から飛び出した。


「──スゲー!」


 マルゼが歓喜している。まったく怖くもなく不安もないようだ。強い子だよ。


 アクロバティックな飛行を繰り返し、魔力が半分を切ったところで砂浜に戻った。


「おもしろかった!」


 大満足でなによりだ。


「タカト殿、おれも乗せてください!」


「わたくしもお願いします!」


 エレルまで言ってきた。カンザフル家の血だろうか? 案外、武闘派だったりする?


「わかったわかった。順番な」


 ジャンケンを教えて順番を決め、一人十五分に決めてマンダリンを飛ばした。


 さすがに四人も乗せるとヘトヘトだ。ビールを一缶飲んだら眠りについてしまった。


 疲れはしたが、ここちよい眠りだったので、気持ちよく夜中に起きてしまった。


 ……こうやって落ち着いた精神で星空を見るの、元の世界以来だな……。


 大人の夜は明け透けだな。まあ、開放的になって盛り上がってんだろう。


 子供たちはぐっすり眠っているようなので気づいてないようだ。


 邪魔しないよう起き上がり、オレに気づいたレンカとルルカを制してガンベルトを腰に回して空堀を飛び越えた。


「ゴブリンたちもハッスルしているようだ」


 捕獲した中にもメスはいたし、増えるのは早いかもしれないな。


 木々の手前まで向かい、ホームからカロリーバーを持ってきてばら撒いた。


「オレたちのためにハッスルお疲れ様です」


 ゴブリンたちに敬礼して戻った。

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