第924話 万能型

 休みの日ほど早く目覚める。


 なのに、清々しく目覚めるのだから不思議なものである。やはりストレスがないと身も心も健やかになるのかね?


「朝から飲む酒はうめー!」


 さすがに冷えたビールは飲めないが、お湯割りにしたウイスキーにハチミツを入れて飲む。これがまた美味い。


 波の音をBGMに酒を飲む。優雅でリッチな一時である。


 さすがに酔い潰れるわけにはいかない。子供たちに泳ぎを教えなくちゃならないし、ミリエルにはウルトラマリンの操縦を教えなくちゃならんからな。


 まあ、一週間はリフレッシュ休暇をすると決めた。一日くらい子供たちに使うのもいいだろう。


 大人たちが起きてきたので酒は片付け、朝の用意を始めた。


「タカト様。わたしたちが行います」


「器具はひととおり覚えたのでお任せください」


 それぞれの世話役の女性陣に奪われ、あれよあれよと追い出されてしまった。


 下働きのようなことできないと思ったら結構なんでもできる女性陣だった。


「ゆっくりすればいいのに」


「そうもいかんさ。主に仕える者たちだからな。それに、身分ある男にさせられないと教え込まれている。やらせておけないのだ」


 男女平等とか概念すらない時代では仕方がないか。


「こういうときは料理するのも勉強であり、思い出になるんですがね」


 仕方がないとは言え、なんとも生き難い時代だよ。余裕がなさすぎる。って、一番余裕がなかったオレが言っても説得力はないがな……。


「ルズたちも泳いでみたらどうです? ライフジャケットがあれば溺れることもありませんしね」


 せっかく海にきたんだから泳ぐといい。


「わたしは、あの船を動かしてみたい。楽しそうだ」


「わたしはあの空を飛ぶものに乗ってみたいです!」


 マルスさんも好奇心を疼かせながら主張してきた。これならもう一艘持ってくるんだったな。


「じゃあ、体制を考えましょうか」


 朝飯のときに今日の予定を決めた。


 子供たちはオレが面倒をみることにし、ルズは航に任せ、マルスさんは飛行隊の一人に教えてもらうことにした。


「ミリエル。悪いが、午前中は女性陣のことをお願いできるか?」


 女性陣のことはもうミリエルにお任せです。だってわかんねーんだもん。任せるしかねーじゃん。


「わかりました」


「すまんな。役に立たん男で」


「大丈夫ですよ。下手にタカトさんが関わるよりわたしがやったほうが安心ですからね」


 安心? ま、まあ、任せたのなら変な気をもむのは止めておこう。うん。


 朝飯を食って子供たちにも予定を教えて泳ぎの練習を行った。


 マリルやマルゼの運動神経を知っているから一日で泳げるようになるとは思っていたが、他の四人も泳ぎを覚えてしまった。凄くね?


「子供の成長力、どうなってんだ?」


 オレも泳ぎはすぐ覚えたものだが、ここまでだとは思わなかった。元の世界の人間とこの世界の人間のDNAが違うんだろうか?


 まあ、泳ぎを覚えたのなら次はミリエルにウルトラマリンの操縦を教えることにした。


「ルルカ、子供たちを見ていてくれ。なにかあれば大人に声をかけてくれ」


 さすがのメイド人形も耐水性はない。生活防水くらいだとエルガゴラさんがおっしゃっておりました。


「畏まりました」


「マリルも小さい子の面倒を頼むな」


「わかった。わたしも、あれに乗りたい」


 ウルトラマリンを指差した。


「興味あるのか?」


「うん。おもしろそう」


 ウルトラマリンには女の子を魅了するなにかがあるんだろうか?


「じゃあ、明日教えてやるよ」


 今日はミリエルに教えなくちゃならないからな。てか、ジェットスキー、もう一台買うか? 


 まあ、それはミリエルがどのくらい覚えるかを見てからだな。


 ウェットスーツを着たミリエルが出てきたので、ウルトラマリンの扱い方を教えた。


「マンダリンとはまた違うから一時間くらいオレが乗せて走らせてみるよ」


 独学だからちゃんと教えてやれないが、ミリエルは万能型。大抵のものは操縦できるのだ。感覚さえ教えてやればあとは自力で覚えるはずだ。


 ミリエルを後ろに乗せてウルトラマリンを発進させた。


「しっかりつかまっていろよ!」


「はい!」


 マンダリンのようにつかむところはない。腰に手を回してしっかりつかんでないと振り下ろされてしまう。海では暴れ馬に乗っているようなのだ。暴れ馬どころか普通の馬にも乗ったことないけどな。


 ミリエルが振り下ろされないように注意しながらもウルトラマリンの感覚を教えた。


 一時間くらいして砂浜に戻り、ウルトラマリンごとホームに入れた。ガソリンを補給するにはホームに入れたほうが楽なんだよ。


「ミリエル。一度、シャワーを浴びてこい。体が冷えているだろうからな」


 一緒のタイミングで入ったので、オレの腰に手を回したままのミリエルに声をかけた。


「……はい。浴びてきます」


 一時間は長過ぎたか? なんか疲れたような感じだった。マリルのときは十五分にするか。


 ガソリンを補給したらオレもシエイラのシャワー室を使って冷えた体を温めた。


 ウェットスーツを脱いだり着たりは時間がかかるよな。外がもうちょっと気温が高いなら海パンでやるのによ。


 ミリエルはまだなようなので、玄関に置いてあるウイスキーを飲んで待つことにした。

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