第923話 ライフジャケット

 朝。本格的なリフレッシュ休暇の始まりだ!

 

 まず、海を眺めながらビールである。異論は認める。だが、我は退かぬ! 

 

 あぁ、日光を浴びながら飲むビールの美味きことよ。缶ビール二本で眠りについてしまった。


 起きたら昼を過ぎており、目覚め一発に缶の角ハイボールを飲んだ。


 大人の休日感があって素晴らしい。あ、親父の休日じゃない? って疑問は却下します。


 子供たちの声が楽しそうである。平和な海水浴場って感じで懐かしいよ。


「タカトさん」


 もう一本とクーラーボックスに手を伸ばしたらミリエルがやってきた。なかなか十六歳の女の子が着るとは思えない際どいビキニだこと。


「どうした?」


 目のやり場に困るが、ミリエルの下着姿などよく見ている。てか、ホームは女性率が高いから気を使うのはオレくらいなものだ。雷牙はよくラダリオンやミサロに風呂に入れられているから裸でも気にしてないよ。


「ウルトラマリン、教えてください」


「ミリエル、ウルトラマリン操縦したことなかったっけ? あ、ないか」


 ウルトラマリンを使ったの、地底湖だけだな。二台のうち一台は地底湖に置いたままだし。


「はい。やることもないので操縦してみたいんです」


 ミリエルも休みを知らない存在だったか。まあ、オレも定期的にやすんでないし、休むのはそれぞれに任せている。リフレッシュ休暇と言ってもわからんか。


「わかった。酒を抜いてくるからちょっと待っててくれ」


 飲酒運転したところで咎める者はいないが、ミリエルになにかあったら困る。酒を抜いてから教えるとしよう。


 ホームに入って冷たいシャワーを浴びたら巨人になれる指輪をして酒を抜いた。


 ウエスト型の自動膨張式ライフジャケットをいくつか買って外に出た。


「ミリエル。これを腰にしろ。海に落ちたとき自動に膨らんで浮くことができるから」


「落ちたらホームに入ればいいのでは?」


「冷静に対処できたらいいが、海は優しくない。慣れてないとパニックを起こすものだ。まあ、保険だと思ってつけておけ」


 オレも使ったことはないが、ウルトラマリンを買ったときどんなものか買って説明書を読んだ。また読みながらミリエルに装着させた。


「一回膨らんだ終わりだ。また新しいのを着けろよ」


 一つ三千円もするものだが、命には代えられない。惜しみなく使うといいさ。


「そう言えば、ミリエルって泳げるのか?」


「お風呂に顔を沈めることはできます」


 うん。この時代じゃ泳ぐ必要もないか。漁師でもない限りは。


「まずは海に浮かんでみるか」


 海に入らせてライフジャケットを膨らませた。


 ミリエルの手を取って沖のほうに連れていく。オレは立ち泳ぎができるので問題ありません。これでも水泳部のヤツに勝ったこともあるんだぜ。


「おじちゃん! おれもやりたい!」


 手を繋いでミリエルにばた足をさせていたらマルゼたちが集まってきた。


 ミリエルが教えたようで、マルゼだけじゃなく女の子たちもワンピースの水着を着ていた。


 今さらだが、この時代の女の子に水着なんて着せてよかったんだろうか? 男の子には刺激が強いんじゃなかろうか? オレの常識でもさすがに不味かったんじゃね?


 とは思ったが、大人たちもいるし、問題が起こることもないだろう。性教育はそれぞれの家でやってください、だ。 


「仕方がないなぁ~。ミリエル、ちょっと待っててくれな」


「はい。一人で練習しておきます」


「高波には気をつけろよ。水着を持っていかれるときがあるからな」


 海でビキニは合わないと思うが、男からしたら嬉しいもの。本人が気にしないのならオレが口出すことじゃないさ。


「泳いでみたいヤツはこれを腰に着けろ」


 一応、十個は買っておいた。マルゼ、マリル、マルダク、ラグラス、エレル、マルガス(マルスさんの子ね)の六人には充分だ。明日のはホームに入ってから買うとしよう。


 着け方を教えたら海の中に入れさせて膨らませ、まずは足の届く場所で海に慣れさせる。


「マスター。わたしたちもいいでしょうか?」


 アリサたち水着になることに抵抗はないのか、ミリエルと同じ際どいビキニを着ていた。


 ……性に寛容な時代なんだろうか……?


 まあ、マイセンズ系のエルフも少ないのだ。盛り上がればいいと思うよ。


 アリサの他に女性は二人。髪の色が違うからマサキさんの血は流れてないエルフのようだ。


「あと少しだから足りないときは明日な」


 マイセンズ系のエルフは八人いるので、四人につけさせ、子供たちと同じく足の届くところで海に慣れさせた。


 すっかり指導員になってしまったが、海難事故を引き起こすわけにもいかないのでやるしかない。


 夕方まで海に慣らせたら上がるように指示を出し、体を洗わせて世話役の女性たちに温かいもの出すようお願いした。


 オレたちはホームに入り、温かいお湯で体を洗ったら回復薬小をミリエルに飲ませた。


「日焼けはちょっと引いたな」


 赤くなっていた肌がちょっとだけ薄くなった。回復薬小一粒ではダメか。


 もう一粒飲ませると肌は元に戻った。


「タカトさんは飲まないんですか?」


「焼けるのもまた海の醍醐味さ」


 美肌に憧れるほどオレは美容に興味はない。将来、染みが出たところで気にせんさ。まあ、どうせこの先回復薬を飲む状況がくるんだ、今飲まなくても気にしないさ。


「疲れただろう。休んでていいぞ。オレは外で寝るから」


 子供たちに花火をさせてやりたいからな。今日は砂浜で夜を過ごすことにしよう。

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