第919話 恒例行事

「ふー。結構時間がかかったな」


 飛行中、暴れないようにゴブリンを縛るので暗くなるまでかかってしまったよ。


 ……缶ビールを飲んだことは内緒だよ……。


「ミリエルたち、まだがんばってんな」


 三人に稼がせることを選んだようで、ゴブリンの気配は消えていき、報酬は増えていっていた。


「ん? 目覚めたか」


 丸一日には目覚めないと思っていた特異種のメスが動き出した。


 あの筋肉なのでかなり頑丈に拘束したので動くことは難しいだろう。バタバタうるさいのでラットスタットで黙らせておく。


「運ぶときはまた眠らせないとダメだな」


 てか、これだけのゴブリンを運ぶの、こんなに大変だとは思わなかったわ。


 暗くなってからミリエルたちが帰ってきた。


「随分と張り切ってたな」


「はい。メーとルーにも王都へいってもらうので行動できるだけの報酬を稼がせたかったんです。最近、こんなに群れるゴブリンもいませんからね」


 オレとしてはありがたいが、セフティーブレットを維持するためには稼がなくちゃならない。ドツボにはまるって言うのかね?


「運ぶのは明日にしよう。ミリエルは汗でも流してこい。三人用のシャワーは設置してあるから」


 簡易シャワー室を運び出している。すぐに使えるようにもしてあるよ。


「メー、ルー、ライカ、汗を流しなさい。料理はホームから運んでくるから」


 わかりましたと素直に返事をする三人。どんな教育をしたらこんなに従順になるものだ。


 オレは酒を抜くためにシャワーを浴びたので、三人がシャワーを浴び終わるまで警護させていただきます。


「この山のゴブリンは大体駆除したみたいだな」


 アシッカに運ぶゴブリンは捕まえたんだろうか?


「シャワー浴びました」


 双子の片割れがやってきた。こいつ、どっちなんだろう?


「わたしはルーです」


 じーっと見てたらオレの考えを見抜かれてしまった。


「そ、そうか。見分けられなくて悪いな」


「構いません。わざと同じように整えてますから」


 こいつらなりの生存戦略なんだろうよ。どう生きているかはわからんけど。


「そっか。なにか飲むか? ルースブラックにクーラーボックスあるから好きに飲んでいいぞ」


「大丈夫です。三号艇にも積んでますので」


 まあ、三号艇はミリエル専用だ。なら、快適にしているか。


「そっか。てか、なんで白にしたんだ?」


「判別しやすくするためです。マスターがそのほうがいいだろうと聞きました」


 あ、うん。なんかそんなこと言ったような気がする。どれも同じだから自分用に黒くしてもらったのだ。


「よく白があったな」


 黒ならすぐできるって言うから黒にしただけなんだけどな。


「他にも色はあるようです。ただ、昔のエルフには全体を染めるとかはなかったみたいですね」


 それはオレも言われた。黒はあまりいい色じゃないって。


「マイセンズでは黒は戦闘色として使われていたみたいだな。マンダリンやルースミルガンも黒いヤツあっただろう」


 EARは銀色だが、ESMや戦闘強化服は黒だった。マンダリンの文化なんだろうよ。


「言われてみれば黒でしたね。マスターの好みじゃなかったんですね」


「オレは青い色が好きだな」


 それが属性に繋がっているのかはわからんが、泳ぐのや海は好きだったよ。


「今年は海で泳ぐことしなかったな~」


 海を目指したのは泳ぐことも含んでいた。夏は海、ってのがオレの中での行事になっていたからな。


「まだ気温も高いし、島にいって海水浴でもするか」


 ゴブリンを放つ島で? とか言われそうだが、別に襲ってくるわけじゃない。数十匹の気配なら我慢すればいいだけだ。


「マリルとマルゼ、あとルズたちも誘ってみるか」


 王都でがんばっている方々には申し訳ないが、それもまた人生。誰かが働いているときは誰かが休んでいるもの。世はそうやって動いているのだよ。


 ミリエルが出てきたら話してみた。


「アシッカにゴブリンを置いてからでもいいですか?」


「ああ、ゆっくりで構わないよ。オレもゴブリンを島に運んだり準備したりする必要もあるからな」


 海水浴するにも環境を整えないといかん。楽しむためには準備万端にせんとな。


「わかりました。三日くらいで終わらせます」


「そういや、ゴブリンは捕獲したのか?」


「はい。二十匹ほど捕まえて転がしています。レンカとルルカを借りますね」


「構わんよ。その間に報告してくるから」


 ホームに入ってRMAXを出してきた。一応、馬車できているヤツもいるので道はあるのだ。


 まずは飛行場に向かい、スリングショットの練習していたマルゼに海にいくことを伝え、マリルに伝言するようお願いした。


「オレは城にいってくる。終わったら山に直接向かうが、なにもなければ山にきてもいいし、飛行場で待っててもいいぞ。明日にはここにくるからな」


「わかった。ねーちゃんが帰ってきたら相談してみるよ」


「ああ。くるなら明るいうちにしろよ」


 そう告げて城に向かい、ルズに海にいかないかと誘った。


「いってくるといい。城はわたしが残るからマルダクたちに海を見せてやるといい」


 伯爵が許してくれたのでルズ、マルダク、ラグラスを連れていくことにした。


「用意に二日かかるので、準備ができたら迎えにきます。五人までなら追加しても構いませんので」


 そう告げて城をあとにした。

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