第918話 逆ハー

「ミリエルとこうしてゴブリン駆除をするのも久しぶりだな」


 駆除と言っていいかわからない虐殺だったが、まあ、ゴブリンが減ってくれるなら手段などなんでも構わないさ。


「そうですね。楽しみです」


 なにが? とは訊けなかった。満面の笑みがちょっと怖かったから。


「レンカとルルカ、連れていくか?」


 特異種のところまで三百メートルくらいある。途中にもゴブリンがいる。護衛は必要だろう。


「大丈夫です。わたしも腕が鈍っているので勘を取り戻したいので」


「今度、オレたちだけでピクニックにいくか。ゴブリン駆除っていう娯楽しかできないがな」


「フフ。いいですね」


 この世にゴブリンがいる限り、オレらが向かう先にはゴブリンがいる。特にゴブリンの気配がわかるオレにはアドベンチャーピクニックになるだけだよ。


 P90に弾を装填させたミリエルが特異種がいる場所へ出発した。


 今回は即死級の眠りの魔法を使わないから百メートルも離れていたら安全だろうが、誰か近づいていたら困るのでオレは見張りだ。この山、薪や山菜を採りにくるそうで、人がよくくるんだってさ。


 ルースブラックの上に昇って周囲を探る。今のところは誰もいないようだ。


「──タカトさん。目標に到着。決行します」


「了解」


 と、ゴブリンの気配が一瞬にして薄くなった。


「眠らせました」


「ご苦労様。十五分後に向かう」


 眠りの魔法の効果が消えるまでは近寄れないので、十五分待ってからミリエルのところに向かった。


「眠りの魔法、かなり広範囲に広がってんな」


 威力を小さくしたはずだからそこまで広がるはずないんだが、半径百メートルまで効果が出ているな。ミリエル、成長しているのか?


 ま、まあ、ミリエルはまだ十六歳。まだまだ伸び盛り。新たな三大魔女とか言われそうだな。


 三百メートルほどなのですぐに到着。確かに特異種と思われるゴブリンが倒れていた。


「ご苦労様。ぐっすりだな」


「はい。なるべく長く眠れる魔法を放ちました。丸一日は眠っていると思います」


 てことは日頃から練習していたってことか。恐ろしいことやってんな。


「しかし、初めて見るゴブリンだな。」


 身長は二メートルくらいあり、やたら体格がいい。筋肉がヤバすぎるだろう。人間の頭くらい簡単に潰せそうだな。


「パワータイプか?」


 ここまできたら首長でも不思議じゃないが、リミット様は特異種と言っていた。ただ筋肉が自慢のゴブリンってことか。


「こいつ、メスなんですね」


 そう。こいつメスなんだよね。こいつに見合うオスとかいんのか? 周りに倒れてんのは一メートルくらいの身長なのに。


「逆ハーレムか?」


 まったく羨ましくもねーな。


「レンカ、ルルカ、ゴブリンを縛ってくれ。ミリエル。オレたちは特異種を縛り上げるとしよう」


 てか、普通のロープじゃこいつを縛れないな。鎖で縛るか?


「タカトさん。こいつの片足、切り落としませんか? ゴブリンを増やすならオスのゴブリンに面倒みられる立場にするといいと思います」


 なかなかエグいことをおっしゃる。まあ、ゴブリンに対して罪悪感なんぞないのでマチェットを振り下ろして切り落としてやった。


 すぐにミリエルの回復魔法で血を止めたので死ぬことはなし。あ、両目も潰しておくか。


「ただ子を産むだけの存在か。哀れだな」


 やったヤツが言うなって話だが、やっていることの意味くらいはわかる。表面的にも哀れんでやろう。


「ミリエル。オレが巨人になって運ぶ。警戒を頼むな」


「わかりました」


 ホームに入って装備を外してきて巨人となった。


 縛りつけたゴブリンを籠に入れてルースブラックのところまで運んだ。


 一回目のゴブリンを運ぶと、ルースカルガン三号艇がやってきた。


「色、変えたんだ」


 ルースホワイトになっているよ。てか、すべて色を変えたら日曜の朝にやっているアニメみたいな名称になっちゃうかもな。


 ルースブラックの横に着陸。後部ハッチが開いて元徴税人の双子とドワーフの護衛(名前は忘れました)が降りてきた。


「いつもミリエルをありがとな」


 元に戻って三人を迎えた。


「お礼はいりません。わたしたちの意思でやっていることですから」


「それでもお礼がしたいなら物でお願いします」


 うん。口調は変わっても中身は変わってないようだ。


「ミリエルは警戒に出ている。稼ぎたいなら稼いでもいいぞ」


 終わったらミジャーの粉を撒こうと思っている。なら、こいつらを稼がせてやってもいいだろう。どうせ増えるんだしな。


「ミリエル様と相談したらやってみます」


「そうだな。ミリエルの部下なんだしな」


 オレとは別系統の指揮下だ。ミリエルの判断に任せるとしよう。


「オレはまだゴブリンを運ばなくちゃならんからミリエルと合流してくれ」


 ミリエルの場所を教え、オレはゴブリンを運びを再開させる。


 三往復し、最後に特異種のメスを運んだ。


「ふー。巨人になると腹が減って仕方がないよ」


 巨人になるのも慣れてきたが、もうちょっと効率的に巨人になれないものかね? せめて半日はなってられないと使う場が限定的だよ。てか、どこで使えと巨人になれる指輪を渡したんだ、あのダメ女神は?


「ほんと、微妙なものしかくれんダメ女神だよ」


 缶ビールを取り寄せ、一気に飲み干した。

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