第916話 リミット *117000匹突破*
王都に向かう男たちにワインを注いでいく。
男たちは二十四人。コラウスで真っ当な職につけなかった男たちだ。
どいつもこいつも柄が悪い。探れば悪さの十や二十しているだろう。何人も泣かしたことだろう。だが、それらの過去は問わない。一人の人間として扱うことにする。
「乾杯!」
オレもコップに注いだワインを飲み干し、空のコップを地面にたたきつけた。
男たちに説明はしてないが、察したようにワインを飲み干し、地面に空コップを叩きつけた。
「これでお前らはセフティーブレットの一員だ。一員となったら簡単に死ぬことは許されない。殺されるくらいなら殺せ。仲間を見殺しにすることは許さない。ゴブリンに堕ちることは絶対に許さない。人であることを誇りを持て。いいな?」
おう! と全員が応えた。本当にカインゼルさんは人を従わせるのが上手いよな。
「カインゼルさん。あとは任せます」
「任された!」
すっかり敬礼が板についてきたカインゼルさん。この人は本当に優秀だよ。
男たちはカンザフル伯爵が用意してくれた馬車で王都に出発した。
それを見えなくなるまで見送り、長いため息を吐いた。
「タカト。こちらも出発する」
セフティーブレットの交渉部部長と相談役がやってきた。
「はい。気をつけて」
「ああ、こちらのことは心配するな。本業と言ってもいいことだからな」
「そうですね。本職に任せます。万が一のときは助けにいきますんで」
万が一のときはニャーダ族を出すようミリエルに言ってある。問題なく王都を脱出できるだろうよ。
「そのときは頼む。まあ、そうならないよう注意する」
「ルジューヌさんも気をつけて。なにかあれば公爵様に顔向けできませんからね」
「己の命も守れぬ女にはなりたくありませんが、万が一のときは助けにきてくださいね」
「それは約束します。助けが向かうまで絶対生きててください」
皆には内緒にしているが、イチゴを密かに王都に向かわせた。マリンとカレンもイチゴの指揮下に入れたから万が一にも対処できるだろうよ。
カンザフル伯爵夫人も王都に向かうので馬車は立派なものだ。三台で向かうようで、兵士も護衛でついていくようだ。
城に残る伯爵やルズ、息子二人で見送った。
「タカト殿。今日もゴブリン駆除に参加させてください」
「こちらとしては構わないが、貴族としての勉強はいいのか?」
さすがにゴブリン駆除ばかりはしてられないだろう。どうなんだ? とルズを見た。
「そうだな。王都のことを話しておくか。父上。どうでしょうか? そろそろカンザフル家の立ち位置や立場を学ばせては。これから事態は動くでしょうし」
「確かにいい機会かもしれんな。タカトのお陰で話を聞けるくらいには成長したみたいだしな」
オレ、なんかしたか? ゴブリン駆除しか教えてないんだけど。
「そんな~」
「タカトはまだカンザフルにいるんだ、また連れてってもらえ」
「勉強したら連れていくと約束するよ」
そう言い聞かせてオレは飛行場に戻った。
「久々にルースブラックに乗るか」
ちょくちょく乗らないと腕が鈍ってしまう。体力もついてきたし、ルースブラックで周辺を探ってみるか。
「レンカ、ルルカ、発進準備をしてくれ」
ルースブラックのマナック補給係を任せているが、飛ばないときは食事の用意をしてもらっている。ほんと、チートな能力で生み出したものはチートだよ。
──ピローン!
あちらはなかなか順調のようだ。一日空いたってことは籠城しているわけじゃないんだな。
──十一万七千匹突破です。
あん? この声、リミット様か?
──しばらく孝人さんのほうも担当になりました。よろしくお願いします。
一生担当でも構わないくらいです。ダメ女神から仕事を奪ってください。
──残念ながらしばらく代理で受け持つだけです。セフティーのようにご協力はできませんが、アドバイスはできるかと思います。
では、今年の冬は食糧不足になりますか?
──不足になると思います。ただし、わたしの眼では未来を見透すことはできません。あくまでも予想ていどに思ってくださると助かります。
ありがとうございます。それだけわかれば充分ですよ。やはりリミット様は女神です。あ、女神だったわ。すみません。
──孝人さんが向かおうとしている山には特異種のメスがいます。生け捕りにして女王がいた島に放つとよろしいかと。適度に増やして適度に駆除すれば定期的に稼げるでしょう。やるかやらないかは孝人さんにお任せします。
ダメ女神から叱られませんか? リミット様が?
──ご心配には及びません。特異種は女王ではありませんから。
つまり、ダメ女神が口を出すのは女王以上ってことか。あと、数ってところだろうな。
──では、孝人さんの活躍を願っております。
やはりリミット様は素晴らしいな。あの方が創る世界ならまだマシな世界になることだろうよ。山崎さんが羨ましいよ。
「てか、生け捕りか。ミリエルにお願いするか」
オレだと殺しちゃうからな。まずは調査してみるとしよう。
「マリル、マルゼ、今日は休みにする。自由にしてていいぞ」
二人にも休みは必要だろう。ゆっくり休むといいさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます