第915話 すべての罪 *116000匹突破*

 ルズの息子たちとのゴブリン駆除は四日続き、飛行場に帰ってきたらルースブラックが着陸していた。


 ──ピローン!


 このタイミングかい!


 ──十一万六千匹突破です。


 また素っ気ないアナウンスか。前もあったからおかしなことではないんだが、なんか引っかかるよな。なんか悪いことの前触れか?


「おじちゃん? どうしたの?」


「あ、女神からのアナウンスが入っただけさ。風邪引く前に汗を流すとしよう」


 大分前に着いたようで、カインゼルさんの姿はなく、柄の悪いヤツが酒を飲んでいるだけだった。


 ちょっかいかけてくるかなと思ったが、柄の悪いヤツらは大人しいものだった。カインゼルさんに教育されたか?


 汗を流したらマルダクとラグラスを連れて城に向かった。マリルとマルゼは残ってもらった。あまり城はいきたくないみたいなんでな。


 城に到着し、そのまま伯爵のところに通された。


 王都でのことを説明したり話を聞いていたりしたんだろう。テーブルにはたくさんの資料が出され、ホワイトボードには男たちの写真が貼られていた。


「話は進んでいるようですね」


「ああ。大まかなことは話が纏まった。明日にでも王都にいってみる」


 計画や指揮はカインゼルさんに一任したので、オレは口を出さないことにする。王都、いったことねーし。


「どこに拠点を築くんです?」


 さすがに裏に伯爵がいると知られたら困るから貧民街に築くんだろうが、手頃なマフィアがいるもんなのか?


「王都の海側を仕切るライッガ一家のところに築く」


「港を仕切る一家なんですか?」


 そこに築けたら海からの出入りは楽になるな。


「ああ。後ろにムグルガ侯爵家がついているとウワサがある」


 今さらだが、侯爵と公爵の違いがわかるってなんなんだろうな? ダメ女神による自動翻訳だろうか? それなら文字も読めるようにして欲しかったよ。


「あの男は気に入らん。潰してくれるのならありがたい限りだ」


 カンザフル伯爵が嫌悪の顔を見せた。どうやら悪いことをいろいろやってそうだ。


「潰れても構わないところですか?」


「構わん。潰れたところで悲しむのは身内くらいだ」


 よほど嫌われている侯爵様のようだ。


「いざとなれば排除します」


 もはやオレに止まることは許されない。邪魔になるなら排除するまでだ。


「やるときはわしがやる。お前は後方でどっしり構えていろ。汚れ役はわしの役目だ」


 きっぱりと言い切るカインゼルさん。


「駆除員は駆除員の仕事をしていろ。駆除員の雑務はわしたちがやる」


「じゃあ、すべての罪はオレが受け持ちますよ」


 それが始めたオレの責任であり罪でもあるからな。


「お前は真面目すぎる」


 真面目とかじゃなく責任だ。


「上が腐れば下も腐ります。この先を考えたらセフティーブレットのマスターとして責任を誰かに投げるわけにはいかないのですよ。じゃないと誰もオレについてくることはありませんからね」


 金や物で従わせたところでそいつらは金や物に従っているにしかすぎない。オレに従っているわけじゃないのだ。


「セフティーブレットの一員は誰も見捨てない。助けを求められたら損害度外視で助けにいく。仮に命を落としても遺体は回収し、殺した者は必ず責任を負わしてやります」


 この世界、いや、時代では人権は紙より薄い。ゴミより価値がない。


 そんな時代で人を纏め、従わせるには存在を認めてやり、尊重してやることだと思う。お前たちは大切な存在だと教えてやることだ。


「今回の作戦に関わる者はすべからくセフティーブレットの一員です。使い潰すことはしないでください。お前たちの敵はセフティーブレットの敵です。ただ、人の矜持だけは徹底させてください。ゴブリンに堕ちたヤツはオレが駆除します」


 セフティーブレットの名を汚す者は殺す。オレが駆除する。それがオレの責任の取り方だ。もちろん、危害を加えた者には最大の謝罪はさせてもらいます。


「了解した」


 ビシッと敬礼するカインゼルさん。オレがやったこととは言え、敬礼が定着しそうで怖いよ……。


「オレは秋の終わり頃に王都に入ります」


 今は八月か九月って感じだ。十月終わりくらいに入るとしよう。それまで収穫を邪魔するゴブリンを駆除するとしよう。


「では、それまでに港は陥落させておくとしよう」


「金はありますか?」


「シエイラから出してもらった。あと、コラウスの商人も陰で協力してくれるよう商会から手紙を預かっている。交渉はこちらでやるよ」


「お願いします。ミリエルもいくと思うので、なにかあれば言ってください」


「わかった。タカトは安心してゴブリン駆除をやっててくれ」


「はい。そうします」


 ゴブリン駆除をやっていればダメ女神は文句は言うまい。てか、他にも回らないといけないし、ゴブリン駆除ばかりはやってらんないか。ハァー。


「あ、ガズも連れていくな。あいつ、銃の手入れが上手いみたいだからな」


「そうなんですか? いつの間に触ってたんだか」


 完全に放置しておいてなんだが、銃を触っているところなんて見たことないぞ。カインゼルさんもいつ見たんだか。


「ガズさんはなんと?」


「仕事をできるなら構わないとさ」


「そうですか。なら、ガズさんも連れてってください」


 あの人はゴブリン駆除は不向きみたいだ。工房での仕事や露店での仕事が合ってそうだ。


「わかった。報告は飛行場に送ることにする。人はタカトが用意してくれ」


 どごにいようと仕事は出てくるものだよ。


「了解です」


 ハァー。

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