第913話 教育は大変

 二人を捜していると、城壁側にある訓練場的な場所に二人とルズの息子たちがいた。


 確か、上が十三歳で下が十歳だっけか? ルズと違って体格はよさそうだ。


「マリル、マルゼ、待たせたな」


 子供同士の付き合いもさせたいが、請負員として二人を育てなくちゃならない。いつまでも一緒にいてやれないからな。生きていける力を身につけさせてやらないとイカンのよ。


「タカト殿。わたしもゴブリン駆除に参加させてください!」


 上の息子がそんなことを言ってきた。


「父親が許すなら構わないぞ」


 伯爵の息子の息子なので、マリルやマルゼに対する口調で答えた。


「コラウスの領主代理の息子もゴブリン駆除や魔物退治に参加したからな。お前らはダメとは言えんよ」


 将来、伯爵を継ぐかどうかはわからんが、継ぐとしたら下のことを知っておくほうがいいだろう。頭でっかちな領主では碌な治世を敷くことはできんだろうからな。


「父上に訊いてきます!」


 バビュンと駆けていってしまった。どうやら思ったらすぐ行動のようだ。


「弟くんは、いいのか?」


「ぼくは、あまり体を動かすのは得意ではないので」


「そっか。まあ、兄があれでは弟くんは慎重のほうがいいかもな。勉強は好きか?」


「はい。知らないことを知るのは好きです」


 こっちは確実にルズの血を濃く受け継いでいるな。


「それなら弟くんにはこれをやろう。古代エルフが残した知恵の眼鏡だ」


 予備のプランデットを取り寄せて渡した。


 起動方法を教えてやり、基礎画面の扱い方を教えた。


 日頃から頭を使っているのだろう、覚えが早い。ノートとペンを渡し、古代エルフ語を書かせて、こちらの言葉に訳させた。


「まずはそれを覚えるといい。結構便利なメガネだかな」


「はい! がんばって覚えます!」


 宙を見詰めながらプランデットを使い回していた。


 これで古代エルフ語を覚えてくれたら教えられるヤツが増えるってものだ。プランデットを使いこなせるヤツが本当に少ないからな。


「タカト殿! 父上の許可をもらいました!」


 兄くんが戻ってきた。心配になったルズもついてきちゃったよ。


「タカト、マルダクを駆除に連れていくのか?」


「やりたいと言うならやらせてみてもいいだろう。八歳のマルゼにもやらしているしな。小さい頃、怪我の一つもしてみるのもいい経験だ。痛みを知らないヤツは他人の痛みもわからないからな」


 オレもじいちゃんにそう言われたものさ。


「なに、即死でもない限り、怪我をしても全快させるさ」


 その身で経験したなら回復薬の威力をわかっているだろうよ。


「タカトは案外、厳しいのだな」


「優しくして欲しいなら優しくするさ。でも、この世界は厳しいからな。親ならこの厳しい世界で生きていける力と知恵を授けてやるものだ。親はいつまでも子供の側にいてやれないんだからな」


 三十過ぎてから親のありがたさを知る。本当に情けない息子で申し訳ありません。オレはこの世界で生き抜いてやるから父さんも母さんも長生きしてくれよな。


「そう、だな。父が死ぬ前に立派になった姿を見せてやらんとな」


「ルズは立派な息子で立派な父親だよ。子供を見ればわかる」


 ルズが教育したかはわからないが、我が儘には育ってない。ちゃんと親の教育が生きているってことだ。


「まあ、そう無茶はさせないさ。バカをさせないのも大人の勤めだからな」


 思い切りさせながらちゃんと手綱は握る。マルグで学んだよ。


「わたしは、あまり体を動かすことは不得意だ。マルダクを頼む」


「オレも体を動かすのは苦手だが、まあ、無茶はさせないよ」


 いざとなればマリルに任せるとしよう。今のオレでは十三歳でも勝てるかもわからんからな。


「よし。今日はマルゼが探索役だ。見つけたらオレたちを誘導しろ。とその前に二人を請負員としよう。せっかく倒しても儲けにならないんなら悲しいからな」


 ついでに稼ぐ経験もさせてやろう。


「弟くん、名前は?」


「ラグラスです」


「よし、ラグラス。お前はマルゼと一緒に行動しろ。プランデットを熱反応に切り替えるから。マルゼは探索の他に誰かと行動することを経験するんだ。いつまでも下の立場ではいられないからな。仲間を守るってことを学ぶんだ」


 失敗してもいい。ただ、動く前に考えて行動しろとは教えている。勇気があることと考えなしは違うからな。


「わかった」


 うん。いい子だと笑って頭を撫でた。


「マリルは、マルダクとペアを組んで駆除だ。お前も誰かと仕事をすることを学ぶといい。あまりにも単独行動をしすぎて誰かと連携することが下手すぎる。確かにお前の身体能力なら一人のほうが動きやすいだろう。でも、それは人の枠での中でだ。獣人の身体能力にはまったく追いついてない。人の身で強敵に勝つには群れるか技術を身につけるか、または強大な武器を使いこなすかだ。銃を持ったならわかるだろう?」


「……うん……」


 こいつはちょっとコミュニケーション能力が低い。まずは同性より異性とコミュニケーションを図るほうがいいだろう。まったく、女の子を育てるのは大変だよ。


「マルダクはマリルの補佐だ。まずはゴブリンの動きを把握しろ」


「わかりました」


「よし。では、ゴブリン駆除を始める」

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