第911話 驚異でも脅威でもない
医療が発達してない世界で五十年も生きた人は強い。二十も若いオレが真っ先にぶっ倒れてしまった。
目覚めると、酷い二日酔いだった。ベッドから転げ落ちるようにホームに入り、シエイラが使うシャワー室に入ってゲロゲロオェー。熱い湯を出して酔いを醒ました。
三十分くらい浴びてちょっと復活。巨人になれる指輪を出して指に嵌めた。
「はぁー。効くぅ~」
巨人になれる指輪の間違った使い方。てか最近、巨人になってねーなー。
「タカト! どうしたの!?」
真っ白に燃え尽きていると、雷牙が玄関から入ってきた。
「……二日酔い……」
「また? 大人はしょうがないんだから」
ハイ。大人はしょうがない生き物なんです。飲まなきゃやってられないことがたくさんあるんですよ。
「なんかあったのか? 外から入ってくるなんて」
まだ六時前。なにもなければまだ眠っている時間だ。
「ゴブリンの群れを発見したから皆で向かうんだ。今は弾薬を運び出してるの」
「応援は必要か?」
「いらない。五千匹くらいだし」
五千匹がもはや驚異でも脅威でもなくなっているか。まあ、あいつらパターンが決まっているからな。条件を整えたら一万匹でも余裕だろうよ。
「そうか。しっかり稼いできてくれ。こちらはまばらしかいなくて一日十匹が精々だ」
「任せて。いっぱい稼いでくるから」
「頼りにしてるよ」
頭をわしわしする。
「EARとルンをたくさん持っていくね。請負員も連れていくから」
「ああ。予備のルンも充填しておくから惜しみなく使っていいからな」
館にも発電機(マナックを入れて動くヤツね)があるので充填はできる。ガレージをもう少し拡張できたらルースミルガンを入れて発電機代わりにするんだがな。
「じゃあ、いってくるね」
「ああ。ビシャによろしくな」
雷牙を見送り、濡れた服を着替えるために男部屋に向かった。
カインゼルさんたちも二日酔いだろうから今日は休んでもらい、明日から動いてもらうとしよう。
「あ、おはよう」
着替えてきてよく冷えたスポーツ飲料を飲んでいると、ラダリオンが起きてきた。
館にいるから朝早く起きる必要もなく、八時くらいに出る感じで起きてきているよ。
「おはようさん。館はどうだ?」
「暇」
そう言って女風呂に向かった。
まあ、今のコラウスは平和そのもの。麦に被害は出たものの壊滅的被害にはなっていない。去年が豊作だから備蓄でなんとか乗り切れられる。ただ、麦を買いにきた隊商をどうするかは領主代理次第だがな。
「ガーゲーにもいかんとならんな」
カロリーバーはルースカルガンで運んではいるものの、四トントラックと同じくらいの容量しか運べない。一都市を潤すなんて無理だろう。それに、ホームにも備蓄しておきたい。今のうちに運んでおこうかな?
どうするか悩んでいると、ラダリオンが下着姿のまま出てきた。
まったく、年頃な年齢なんだから羞恥心を養いなさいよ。
「そうだ。ゴルグたちがまたロンレアに向かうって」
「あ、そう言えば、ダンの嫁になるヤツはどうなった?」
「今回連れていくって」
「それならラダリオンもついてってくれるか? 初めての旅なら大変だろうからな。サポートしてやってくれ」
館から離れられるのは困るが、ダンの嫁さんになる女性の安全と精神を守る必要もある。巨人の支持を守るためにもラダリオンについていってもらうとしよう。
「わかった。知らせてくる」
結果を聞くためにホームに残り、今のうちにラダリオン用のお菓子を買っておく。歩くとなるとたくさん食べるからな。あと、ワインも買っておくか。
「冬の前にどこかで稼いでおないとな」
セフティープライムデーがやってくる前に一千万円は稼いでおきたい。どこか近くに女王はいないものかね?
ここでダメ女神のアナウンスが入るところだが、さすがにそうタイミングはよくないか。雷牙たちの活躍を期待しよう。
「──タカト。ゴルグが了解だって」
「そうか。いくときは気をつけろな。食料なんかは用意しておくから」
ゴルグたちでも用意しているだろうが、それでも持てる量は決まってくるし、途中で仕入れるのも大変だろう。ホームに入れるヤツがいるなら断然旅は楽になるはずだ。
「わかった」
よろしくとガレージに向かい、濡れた服を干し、新しい服に着替えた。
チリンチリンと鈴の音が聞こえた。なんだ?
「シエイラか?」
扉を見ると、シエイラの手が黒い壁から出ていた。
「どうした?」
最近知ったのだが、体の一部が出ていれば声も届くのだ。
「また二日酔い?」
どうやらラダリオンが報告したようだ。
「ちょっとな。カインゼルさんや伯爵たちと飲んだだけだから大丈夫だよ」
「まったく。飲みすぎには注意してよ」
「ああ、気をつけるよ。飲める人が集まったから羽目を外してしまっただけさ」
やけ酒ではないので安心してください。
「調子はどうだ? 無理してないか? ちゃんと早めに寝るんだからな」
「わたしは大丈夫よ。奥様連中が世話を焼いてくれているからね。逆に不自由だわ」
「子供が産まれるまでの我慢だからな」
「わかっているわよ。タカトも気をつけてね」
「死亡フラグは立てたくないからな、ただいまはシエイラの顔を見てから言うよ。奥様方によろしくな」
手をつかんで甲にキスをした。
「じゃあ、いってくるよ」
「いってらっしゃい」
装備をつけて外に出た。
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