第910話 臭くていいのは今のうちだけ
ルースブラックが着陸。後部ハッチが開いてカインゼルさんとルジューヌさんが降りてきた。あと、モウラの下にいたウッドと部下五人も。
「お疲れ様です。ロンレアはいいんですか?」
「ああ。落ち着いたんでな、ミリエルをアシッカに運んだついでにお前の様子を見にきたよ」
伯爵の嫁さんが出産が近づいているそうで、嫁さんがミリエルにいて欲しいとの要望があったんだってさ。出産時はオレも側にいてやらないとな。
「こちらはどうだ?」
「飛行場はできたので今は建物に移っています。完成するまでは近隣のゴブリンを駆除してますよ」
「ゴブリンがいるのか?」
「百匹いるかどうかですね」
「そんなものか。ゴブリン、減ってきたのだな」
「女神によれば向こうの大陸や都市国家方面にいるみたいですが、来年にはまた増えますよ」
増えるのも早いなら育つのも早い。来年の春には嫌でも増えているだろうよ。
「出稼ぎにいくなら大陸の向こうがいいと思いますが、あちらは魔王軍がいると思いますから、ゴブリン駆除以外もやると思いますよ」
あのダメ女神が示したってことはゴブリン駆除以外にもやらせるためだろう。その手には乗らんぞ。オレは足場固めに専念させてもらいます。
「タカトが動かないと言うならわしらも動かないほうがいいな。騒ぎの中心になる定めみたいなものを持っているからな、お前は」
悔しいが、否定できない。この世界に放り出されてから平和な期間は数日しか与えられなかったからな。クソが!
「やることがないなら休んでていいんですよ。いつ休みになるかわかったもんじゃないですからね」
この時代に週休二日の概念どころか休日の概念があるかも怪しい。仕事することが生きることだからな。まるで上司が帰らないと部下が帰れない心情だよ。
「休みと言われてもな~。毎日食事ができて柔らかい寝台で眠れる。適度に動いて適度に休めている。これで休めと言われては逆に不安になる」
どんだけ仕事人間なんだか。いや、オレもそうなりつつあるがよ。
「それなら王都に向かって拠点を築いてください。貧民街なら乗っ取っても罰せられることもないでしょう。人が足りないときはコラウスから連れてってください。普通の仕事に馴染めない者でも町を仕切る闘争はできるでしょう」
力でしか解決できないヤツはいるもの。そういうヤツらならマフィア闘争に励んでくれるだろうよ。
「……なるほど。確かにそういうヤツはいるか。よし。連れてこよう」
ほんと、カインゼルさんは有能な働き者だよ。軍隊を率いたりマフィアを率いたりと、オレなんかよりよっぽど英雄だと思うわ。
「まあ、そう急がずそちらの話を聞かせてください。ライダンドのご隠居様やカンザフルの伯爵様にも聞いて欲しいので。あと、ルジューヌさんを紹介しておきたいですからね」
ミヤマラン公爵の娘。オレたちの繋がりを示すためにもルジューヌさんさんを紹介する必要はあるだろう。
マリルとマルゼも連れていくか。城で夕飯をいただくとしよう。
タイミングよくご隠居様も帰ってきたのでカインゼルさんたちを紹介したら、ご隠居様とカインゼルさんは面識があった。
「生きておってなによりだ。あの時代を知る者は少なくなったからな」
「はい。あの頃は大変お世話になりました。また会えて嬉しいです」
前コラウス辺境伯に仕えていたカインゼルさんなら戦争でご隠居様と一緒になっていても不思議ではない。辺境軍として派兵したみたいだからな。
「ルジューヌさん。構いませんか?」
一応、断りを入れておく。ミヤマランの代表みたいなもんだからな。
「構いません。ただ、服を持ってきてないので、せめて湯を浴びさせてください」
「そうですね。マリル。ルジューヌさんを風呂に案内してくれ」
上がってきたマリルにお願いし、オレとマルゼはホームから運んできたお湯で体を洗うことにした。
「マルゼ。臭い男は嫌われるからしっかり洗えよ」
オレもじいちゃんから教えられたものだ。臭い男とケチな男は女に嫌われるってな。まあ、好きでもない女なら嫌われても構わないがな。好いた女に嫌われるような男だけにはなるな。
「そんなものなの?」
まだ八歳には早いようだが、臭くていいのは今のうちだけだ。十歳を越えたら罪になるから覚えておけよ。
新しい下着と服に着替えさせ、脱いだものはおばちゃんたちに洗ってもらう。洗剤を自由に使っていいと言ったら人気になりすぎて当番制にしちゃったよ。
ホームにあるシエイラの未使用の下着と服を借り、ルジューヌさんに渡した。
「他の者で申し訳ありませんが、ルジューヌさんに合う服を用意できないので我慢してください」
戦いを専門としていたルジューヌさんは体が引き締まっている。シエイラとはサイズが違うはず。ダメなときは城の者に調整してもらってくださいな。
「綺麗な服ですね」
「気に入ったのならそのまま使ってください。予備の服なので」
部屋着として買ったもののはず。ホームに入れないのだからルジューヌさんに使ってもらうとしよう。
オレも着替えてきて城に向かうとする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます