第906話 欲しい人材

 肉体労働でも殺し合いで動くのとはまた違う。働いたあとのビールが何倍も美味く感じるよ。カァー! 美味い! もう一杯!


 シャワーを浴びてもう一杯。着替えて外に出た。


「なんだかんだで六日もかかったな」


 アレクライトの生産能力、そこまで高くなく、コラウスでもカロリーバーを欲しがったので予想以上に時間がかかってしまったよ。


「タカト」


 倉庫一杯のカロリーバーを眺めていたらルズがやってきた。


「肉がついてきたようですね」


 人って六日もあればここまで肉がつくんだな。十キロくらい太ったんじゃね?


「急激に肉がついたから歩くのがしんどい。息子たちにも動けと突っ突かれているよ」


 さすがコミュ力オバケ。すんなり会話をしてくるよ。


「三十を過ぎると肉が落ちなくなりますからね、日頃の運動はやっていたほうがいいですよ」


 伯爵も運動してないからぽっこり腹が出ている。ご隠居様は長生きしたいからか毎日運動しているよ。


「そうだな。病気になってよく思ったよ。健康が一番だとな」


「よくわかります。体が資本ですからね」


「資本か。さすが発展した世界からきただけはある。そんな発想が出るのだな。タカトが生きた世界のことを教えてくれ」


 これから長い付き合いとなるのだ、酒でも飲みながら話し合うのもいいだろう。てか、ビール飲みすぎたな。


 ルズは酒は苦手だと言ってたが、それは不味い酒が嫌いなだけだったらしく、日本酒は満面の笑みで飲んでいた。


 そういや、コラウスでも日本酒が好きなヤツが多かったな。ここのヤツの舌に合う味なんだろうか? 米なんてないのにな。


 オレは余市十年をロックで飲みながらルズと遅くまで話し合った。


 そのまま眠ってしまったようで、起きたときは体がバキバキ。二日酔いになっていた。飲みすぎた……。


 でも、これがいい。充実した飲みだった証拠だからな。


「こんな楽しい酒は初めてだ」


 ルズも二日酔いだったが、こうして向かい合って飲む酒が新鮮だったのたろう。顔が笑っていた。


 お互い、顔を洗うために部屋を出て外の井戸に向かった。


「水が美味い」


「ここは水が豊富ですよね」


 オレは水は飲まず、顔を洗うだけにした。


「これでも平年より少ないそうだ。わたしが小さい頃は井戸の水位も高く、城の噴水も止まることもなかったそうだ」


「雨が降らなくても麦が育つんですからカンザフルはいい土地なんですね」


「コラウスは厳しい土地なのか?」


「雨が降らないと厳しいかもしれませんね。それに、去年は魔王軍がゴブリンを引き連れてきたので危うく滅びるところでしたよ」


 正しい選択をする度に最悪の状況が訪れるとか洒落にならんわ。もしかして、あのときが一番最悪だったんじゃないか? いや、他にも最悪はあったか。クソ。最悪が多すぎてなにが最悪かわからなくなってきたぜ!


「……ま、魔王軍……?」


「別の大陸では同じ世界から連れてこられたオレの同胞が仲間たちと魔王軍と戦っています。この世界はルズが思うより平和じゃありません」


 他を知るとここは平和だ。テレビやネットがない世界じゃ見える範囲でしか世界を知らないだろうよ。


「タカトは、魔王軍と戦って勝ったのか?」


「そのときは女神からもらった力があったので勝てました。今はその力もないので魔王軍がきたら速攻で逃げます」


 居場所がわかれば数キロ先から迫撃砲を撃ち込んでやるよ。


「今日は各地のことを勉強しますか」


 この人は世界を知ったほうがいいと思う。王国が崩れたとき、立て直すメンバーにいて欲しい人材だ。


 せっかくなのでご隠居様や伯爵も混ぜて、これまで収めた写真や映像、経験を語った。


 元々頭がいい人らなだけに理解度が高い。自分の国がどうなっているかがわかって唸っていた。


「王国はよく滅びないものだな」


「王国にとって王都周辺のことなんでしょうね。ここは土地に恵まれ、水に恵まれ、気候に恵まれています。女神としてもここを守れば人類が滅びることはないと考えたんじゃないですかね。昔から駆除員を送り込んでいますからね」


 ここは、地震もなければ火山もない。温泉があるからないってこともないんだろうが、一帯を滅ぼすような火山はないだろうよ。駆除員にまた火山を爆発させられたら困るだろうしな。


「この国って、他国と貿易してたりします?」


 他国と戦争したんだから周辺国ってのはあるんだろうよ。


「いくつかの国とはやっているな。今は特に海の向こうの大陸と交易が盛んだ」


 伯爵家にある地図を見せてもらった。


「案外、向こうの大陸って近いんですね」


 船で三日か四日って話で、島があるので波も高くなく、大型魔物もいないので交易は盛んらしい。ただ、外洋船ではないので船はそこまで大きくないようだ。


「魚はここまで届くんですか?」


「塩漬けされたものや干物にしたものは届くな」


 生はさすがに無理か。魔法があるんだからなんとかならないものなのかね?


「やはり王国とは王都周辺のことを言っているみたいだな」


 魔物がいる世界では仕方がないか。王国の中心さえ強力なら力で従わせることもできるしな。


「なかなか面倒な世界だ」


 まあ、どんな世界でも面倒か。人間は世のため人のために生きられない生き物だからな……。

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