第905話 コミュ力系

 伯爵の息子さんは、オレくらいの年代だった。


 ちゃんと嫁もいて十二歳くらいの子供が二人もいた。


 不謹慎ではあるが、子供二人は男だ。息子が死んでも孫がいればなんとかなったんじゃね? なにが不味かったんだ?


「ありがとうございました」


 伯爵の息子なのにやたら腰の低い人。パワー系ではなく調和を大切にするタイプっぽいな。


「お気になさらず。味方が欲しくて伯爵様に擦り寄ったまで。そちらもオレを利用してください」


「随分と正直な男だ」


「油断するなよ。タカトは甘いようで甘くはない。必要なら損することも厭わない。利用するつもりが利用される立場になるからな」


 そこ。手の内をバラさないでください。


「タカトは五十年先まで見ている。その下準備も着々と進めている。カンザフルにきたのもその一手を打つため。どうだ、拒否できなかっただろう?」


「……そうだな。拒否できなかった。下調べしたのか?」


「タカトの凄いところは少ない情報から的確な判断を下せることだ。行き当たりばったりなことが多いのに、知っていたかのように解決策を瞬時に示す。ライダンドはそれで救われた」


 ちょっとオレを持ち上げすぎなんですけど。


「あまり煽てないでください。オレは万能ではありません。間違うことも失敗することもあります。信じすぎないでください」


「このとおり謙虚で疑り深くもある。一つの勝利に一喜一憂したりはしない。どこまでも冷静に、己の決めた目的のために動くことができる男だ」


 ほんと、それ以上持ち上げるの止めてくださいよ。己を失うじゃないですか。


「息子を救ってもらった恩は必ず返す」


「恩はいりません。伯爵様は領地のために動いてください。それはオレが利にもなりますからね」


 カンザフルがセフティーブレットの拠点になれば王都まで余裕で飛べる。王都近海にアレクライトがいたらこの周辺の制空権はこちらのもの。必要なら王都を燃やすことだってできるさ。必要じゃないのならやらないけど。


「息子さん──」


「ルーズルクスです。同年代のようですし、ルズと呼んでください」


 なんか伯爵が息子を助けたかった理由がわかったような気がする。この人はコミュ力系だ。


「オレは一ノ瀬孝人。タカトと呼んでください」


 握手文化はないが、手を差し出すとすぐに理解して手を握った。この人、絶対味方にするべき人だ。


「ルズ。まずは体力をつけてください。勝負はこれからなんですから」


 回復したとは言え、体は鈍っている。リハビリして戦える体力と気力を取り戻してください。


「伯爵様。昨日の続きをしましょう」


「うむ。カンザフル伯爵家はタカトに味方する。今後のことを教えてくれ」


 ルズの部屋を出た。


「三人は町でも見てきていいぞ。あと、ゴブリンが何匹かうろちょろしている。暇なら駆除してきていいぞ」


 三人がいてもつまらないだろうし、町にいくなりゴブリンを駆除するなり好きにしたらいいさ。


「そうか。なら、おれは町を見てくるよ」


「わたしたちはゴブリンを狩ろうか?」


「うん。スリングショットで倒すよ」


 三人三様出かけていった。


 オレらは伯爵の執務室に向かい、お互い知る情報を交換し合った。


 その日は情報交換で終わり、次の日はオレの計画を語り、カンザフル伯爵領に土地を借り、セフティーブレットの支部を置くことにした。


 さすがに人材不足で職員は連れてこれないが、それなら現地調達すればいい。経験上、不遇なヤツは必ずいる。そういうのを雇うとしよう。


「これが古代エルフの技術で作った保存食です」


 またカロリーバーを出して伯爵に食べてもらうことにする。


「やはり美味いな」


 美味いんだ。本当に大したもの食ってないのか?


「一応、六種類あるのでときどき食べるのなら飽きはこないでしょう。城の分として盗まれない場所に保管しててください」


 ホームからカロリーバーを大量に運んできて、城の者に運ばせた。


「毎日、あれの五倍は生産しています。麦の代金としてください。それが食べ物とは思わないでしょうからね。奪われることもないでしょう」


 城内の倉庫に入れておけば兵士がきても食べ物とは思わないだろう。じゃあ、なんだと問われたら困るが、別に分散して置いておけば別のものと思われるだろうさ。


「さすがに倉庫には入れられんから地下倉庫に隠しておくか」


 そんなのがあるんだ。万が一に備えて造ったものかな?


 地下倉庫に案内してもらうと、やはり麦が大量に入っていた。運ぶの大変だっただろうな~。ご苦労様です。


「では、これを出したらカロリーバーを詰めておきますよ」


 ちょっとした体育館くらいあり、一領地を支えるには少ないが、買おうと思うとどのくらいの金額になるかわからない。カロリーバーで済ませられるならいい買い物だろうよ。


 イチゴがいるのでパレットに積むのはそこまで大変ではない。まあ、三日もあれば入れ替えはできるだろう。館のほうでは大変だろうがな。


 ホームに入ってイチゴを連れてきてフォークリフトを出せる空間を作り、入れ替えを開始した。


 一ノ瀬運送業務開始! 

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