第904話 それはなにより

 オレらが放置されることなく城に部屋を用意してもらい、その日は早々に休むことにした。


 もちろん、オレはホームに入って今日のことを伝えた。


「雷牙かラダリオン、コラウスに帰ってくれるか? もしかすると麦を運び入れるかもしれないんだ」


「あたしが戻る」


「じゃあ、頼むよ。しばらくコラウスにいてくれ」


 やはり館に誰かいないと不便だよな。


「ミリエル。アレクライトでカロリーバー生産してくれ。大量に必要になるかもしれないから」


「わかりました。ガーゲーでも生産しますか?」


「そうだな。できたら館に運んでもらえると助かる。今年の冬は各地で食糧不足になるかもしれないからな」


「ミジャーの被害、結構広範囲に影響を与えているんですね」


「そうだな。王都の商人はもう食糧を確保するために動いているよ。一月もしないでコラウスにもやってくるかもな」


「まるで第二のミジャーですね」


 まったくだ。ミジャーより被害が出そうだよ。


「まあ、その辺のことは領主代理に任せればいい。仮に麦をすべて奪われようとコルトルスとロンレアで作物が収穫できればコラウスが飢えることはないからな」


「今植えている豆は秋には収穫できるし、海沿いは雪が降らないから秋に植えて春に麦は収穫できるそうよ」


 なんだか農業の女神になりそうな勢いだな、ミサロは。


「都市国家の麦はどうだ? 順調か?」


「今年は悪くない育ちだっては聞いたよ。備蓄してる麦も買えてるってルートさんが言ってた」


 穀物商のルートさんはまだ都市国家にいたんだ。


「ガーゲーにあるプレクシックを出すか? あの、竜人に滅ぼされた港町、なんて言ったっけ?」


 海兵隊員の故郷で塩の町ってのは覚えてっけど。


「マクラエルです」


 ミリエルの記憶力が羨ましいよ。


「そのマクラエルにプレクシックを向かわせるか。それなら買ったものを大量にロンレアに運べそうだからな」


 魔力炉が動いたのならトンネルも復旧されたはず。ガーゲーにはまだマルーバの仲間がいる。乗組員を選抜することはできるだろうよ。


「雷牙。ビシャに伝えてくれ。指示書を書くから」


 オレは古代エルフ語は書けるので、プランデットに読み上げてもらえば伝えられるのだ。まあ、そのお陰でここの文字を覚えるのが疎かになってますけどね!


 それでミーティングを終了して指示書を制作。終わったらガレージの整理をする。


「ガレージ、もうちょっと拡張するか?」


 まだ三千三百万円ある。てか、食費で減りが早いよな。


 アレクライトの食糧は報酬で買っているからどんどん減っていくんだよな~。


 報酬に頼らない方法を考えているが、まったくいい案が思いつかない。アレクライト、なんで厨房がないんだよ。ガスボンベ、毎日使うとかなりの出費だよ。


「ダメ女神の罠だよな」


 報酬に頼れば頼るほどゴブリンを求めて駆除を外に求めてしまう。もしかして、魔境に誘導しているのか? いや、他にもゴブリンはいる。魔境にいくのは可能な限り避けておこう……。


 いつでも麦を入れられるようにしたらシャワーを浴びて城の部屋に戻って眠ることにした。


 物音で目覚めると、衝立の向こうでマリルが体を拭いているようだ。


 家族だと思われてオレたちは同じ部屋にさせられたんだっけ。


 年頃? の女の子だし、終わるまで寝た振りでもしておこう。マルゼもまだ眠っているしな。


 なんて横になっていたら眠ってしまい、マルゼに起こされてしまった。


「……すまん。寝過ごしたか……?」


「ううん。大丈夫。ご隠居様が起きたらパイオニアのところにきてくれって」


 懐中時計を見たら八時前だった。二時間くらい眠ってしまったか。


「腹が減ったか?」


「少し」


 二人は起きるの早いからな。腹も完全に目覚めただろうよ。


 城は特に厳重と言うわけではなく、伯爵家族が暮らすところと客室は離れており、従者的な部屋なんだろう。外にも近くて下働き的な人たちと会うくらいだった。


「おはようございます」


 パイオニア五号にはガズさんがおり、すっかり慣れた手つきでインスタントコーヒーを淹れていた。


「おはようさん。飲むかい?」


「お願いします。今日はなに食べます?」


「パンでいいよ」


 本当に食にあまり興味がないようで、昨日のラーメンが珍しくも喜んだ料理だったっけ。


 食べ盛りな二人にはホームからミサロが作っておいたビーフスト……なんとかってのを持ってきた。


「お、いい匂いだな。わしにもくれ」


 皿に盛っているとご隠居様がやってきた。


「朝はまだなんですか?」


 伯爵が出してくれなかったのか?


「いや、遠慮した。タカトが用意する食事のほうが美味いからな」


 貴族なのに大したもの食えてないとかなんの旨味もない地位だよな。


 皿にビーフストなんとかを盛ってやり、フランスパンを切ったものを出した。お好みで火で炙ってください。


「息子は全回復したそうだ」


 なんのこと? って一瞬理解できなかったが、伯爵の息子だってことを思い出した。


「それはなにより。カンザフル家は安泰のようですね」


 その息子が優秀かどうかは知らんけど。


「ああ。安泰にするにもタカトに味方するそうだ」


 本当にそれはなによりだ。

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