第903話 反論は認める
暗くなる前にカンザフル伯爵領に入れた。
カンザフル伯爵領は王都まで近いからか、穀物地帯の一部で麦がメインの領地でもある。が、ミジャーが通ったようで、枯れている箇所が多かった。
こんだけ食うのがあってなんでコラウスまでくるかね? まったくどこまでも迷惑な害虫だよ。
「これでは半分も収穫できんかもしれんな」
「領民は飢えますか?」
「ガンザフルの領主なら大丈夫だろう。戦争で学んだ男だからな。備蓄はしているだろう」
「できる方のようですね」
「そうだな。だが、それでも今年の冬は厳しいだろう。勅令が下れば逆らうことはできんだろう。兵を出しやすい距離だからな」
なるほど。いい土地は与えるが、逆らえばいつでも武力で従わせるってことか。エグいな~。
カンザフル伯爵領の領都に城壁はなく、城も要塞みたいに強固な造りではなく、周囲を見渡せる高い塔が領都の四隅に建っていた。
壁がないのでどこからでも領都に入られ、兵士が守っている様子もない。武力を封じられてんのか?
「戦う相手もおらんしな。兵士は必要最低限しかおらんよ。戦争になれば農民を徴兵すればいいのだからな」
なんとも嫌な時代だ。まあ、数百年過ぎても徴兵制はなくなっていないんだから知的生命体が一万年続けるとか最初から無理なんじゃね?
「宿はありますかね?」
もう暗くなっている。今から会いにいったら失礼だろう。
「いや、今から会いにいく」
大丈夫か? と思いながらもご隠居様に任せて城の門に向かうと、驚いたことに白髪の門番がご隠居様に気がついた。
「マシェル様!」
「ジャオ、久しぶりだな。元気そうでなによりだ」
「マシェル様こそお元気そうでなによりです。また会えるとは思いませんでした」
どうやら知り合いのようだ。
話はとんとんと進んで城に通され、まずはご隠居様が伯爵と話を通すために中に入っていった。
オレらは馬小屋の横を借りて夕飯とする。
「今日はインスタントラーメンにするか」
たまにこういうのが食べたくなるんだよな。
鍋を持ってきて味噌味の袋麺をぶち込み、ネギやナルト、煮卵を適当に入れた。
「美味しい!」
「初めての味だが、なかなか美味いじゃないか」
「わたし、これ好きです」
三人にも好評なようだ。やっぱ袋麺は味噌だよな。反論は認める。
五袋分は投入したが、皆食欲がよろしいようでまた五袋投入することにした。
「おいおい、わしを抜け者にするなよ」
次はチャーシューを切って入れようと考えていたらご隠居様と同年代の男性とやってきた。
「よろしいので?」
「わしの友人のサールスだ。現カンザフル伯爵だ」
「サールスだ。そなたがタカトか。女神の使徒だそうだな」
「正確には女神にゴブリンを駆除しろと異世界から連れてこられた被害者ですね」
神から遣わされた存在って意味では使徒だけどな。
「タカトはこういう男だ。教会のヤツらとは違う。味方になっていたほうがいい。かなりキレる男だ。カンザフル家を守りたいのならタカトにつけ。ライダンド家はタカトについた」
「お前ほどの男がか?」
「それだけの実績をタカトは築いてきた。あのミヤマラン公爵もタカトについた。アシッカ、ロンレアもだ。ミジャーもタカトの力で最小限に抑えた。今年さえ乗り切れば来年は通常の収穫に戻る」
もちろん、農業は天候次第だが、ダメ女神の動きからしてゴブリンが根絶やしになる気候になるなら別の地域に移すはずだ。それをしないのならゴブリンが増える気候になるってことだ。
「そう決断を急がすことはありませんよ。伯爵様にしたらどこのどいつともしれない男。信じられないのも仕方がありませんからね。ただ、決断は早いほうがいいと思いますよ。倉の麦を奪われる前にね」
「商人が動いているのは知っているだろう?」
「ああ。二割ほど高くてもいいから売ってくれと言ってきとるよ」
「どうするのだ?」
「悩んでいる。ここで売っても領地の分が減る。だが、売らずにいても不足すれば王命だと言われて奪われる。どちらが得か考えにあぐねいておるよ」
金は得ても他の食糧が買えるわけでもないし、商人が集められるのなら王命(勅令)が出ないかもしれない。大変だよね。自分の判断で領地の運命が決まるんだからな。
「なにか方法はあるか?」
「倉にある麦って、伯爵様の判断で売っていいものなんですか?」
「貯蔵分はカンザフルの財産だ。わたしが決められるものだ」
「なら、ライダンドかコラウスに売ってください。冬、食糧危機が訪れたら保存食を売りますので」
カロリーバーを出して伯爵様に食べてもらった。
「それはエルフの技術で作られたものです。その袋を破らない限り、十年は保存できます。まあ、毎日食べたら飽きると思いますがね。それと、実らない麦は刈って家畜のエサとして売ってもらえますか? 報酬はこれで。神の薬です。どんな大病でも片手片足がなくとも回復させれるものです。一つ渡すので効果を確かめてください」
「効果はわしのは肌艶、この体を見たらいい。五十七とは思えんだろう?」
「た、確かに、やたら元気だとは思っていたが……」
「その薬のお陰だ。それを飲めばお前の息子も元気になるだろうよ」
だからご隠居様は薬のことを口にしたのか。
「どうするかは伯爵様の判断にお任せします」
悩むことなく薬をつかむと戻っていった。
「おじちゃん、ラーメンいい感じだよ」
おっと。伸びたら台無しだ。さっさと食ってしまおうじゃないか。
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