第901話 苦労はタダ

 朝、広場に隊商がいないので八時前くらいに出発した。


 人数が増えたので四号から五号に換え、なぜか峠を越えたいという村人をトレーラーに乗せることになった。


「買い出しだよ。隊商は村で降ろさないから」


 確かにあの村の規模では降ろしたところで大した儲けにはならんか。村は隊商に買わせるほうだし。


「それならグラクス伯爵領の町に下りたほうがいいんじゃないか?」


「山を越えると高くなるんです」


「人件費のほうが安いってわけだ」


 苦労はタダってことだろうか? 嫌な時代だよ。


「帰りはどうするんだ?」


「たくさん担いで帰ってきます」


 うん。オレは絶対山で暮らせないわ。


 前に隊商はおらず、道もしっかりしている。橋も石で作ってあるから進みが早い。てか、ここを歩いていくとかなんの修行だか。山を越えると広場があった。


「この馬糞、なんとかならないものかね?」


 広場には必ず落ちている馬糞。片付けてから立ち去れよと思う。


「いつもはここで一泊します。水も豊富で、あそこに洞窟があるので魔物の心配もないんです」


 気になったので広場に入ってその洞窟とやらを見学する。


「奥は深いのか?」


「そう深くはないですが、裂目があるので奥にいかないほうがいいです」


 オートマップを取り寄せ、確認してみると、確かに裂目があり、範囲外まで深さが続いているっぽい。


 洞窟探検とか趣味ではないが、この世界の洞窟はどこに繋がっているかわからない。とりあえずケミカルライトを出して裂目にポイ。光が見えなくなる、くらい深いようだ。


「サーチアイでは無理っぽいな」


 ガレージの肥やしになっているガチャ品だが、なくすのも嫌だ。ここは諦めておくか。


 洞窟を出て少し休んだら出発した。


 これと言った問題もなく山を下っていると、隊商が上がってくるのが見えた。


「今の時期って隊商の往来が激しいんですか?」


 双眼鏡で覗くと、かなり長い列を作っている。二百台くらいあるんじゃね? さすがに列を作りすぎだろう。


「もしかすると豆を買いにきたのかもしれんな」


「豆、ですか?」


「飢饉食とされている豆で葉が硬い。土の中で生るのでミジャーも食わないものだ」


「ミジャー対策として広まったものですかね?」


「かもしれん。昔の者に感謝だな」


 百年前にもミジャーの被害はあったみたいだし、光一さんの子孫が広めたのかもしれんな。


「売るほどあるんですか?」


「タカトに言われてから急いで植えたからライダンドでは売るほどあるな」


「買い占めにきた、ってところですかね?」


「そうだな。食糧不足になると見込んだ商人が先駆けてきたのかもしれんな」


 判断が早いこと。こちらの事情が伝わっている感じだな。


「どうします? ライダンドに伝えますか?」


「構わんさ。その辺は息子が上手くやるだろう。豆はすべてライダンドで買い上げる旨を伝えてあるからな」


 さすがライダンド伯爵。そつがない。こうなることを見越していたのかもしれんな。


 道が馬車一台分の幅しかないので避難路的な場所で待つことにした。


「通りすぎるのに相当な時間がかかりそうだな」


 広場まで十五キロはある。夕方まで着かなくちゃならないのだから二時間くらいで通りすぎるだろう。


 村の連中に待つか歩くかを問うと、待つとのことだった。


 昼までにはまだ二時間半くらいある。ただ待つのも時間がもったいないのでマリルにグロック19とP90の扱い方を教えることにした。


 三十分くらいして冒険者らしい男がやってきた。


「隊商の護衛、鉄印のバルガだ」


「銀印のタカト。こちらも護衛だ。カンザフル伯爵領に向かっている」


 お互い、名乗りを上げて札を見せ合った。


「この先、道に問題はない。魔物も見ていない。数日前、プリシング村でゴブリンの大群が襲ってきたがオレたちが片付けた」


「ゴブリンの大群? 村は大丈夫なのか?」


「村に被害はない。ただ、隊商の往来が多くて野菜は不足しているようだ。グラクス伯爵領に入れば多少の値上がりはしているが、問題なく手に入ると思う」


「情報感謝する。逆にロコス伯爵領は値上がりしている。麦は去年の倍だ。治安も少し悪くなっている。気をつけることだ」


「貴重な情報感謝する。そちらも気をつけてくれ」


 鉄印のバルガと名乗った男が戻っていった。


 しばらく馬車がきて、商人風の男が被っていた帽子を取って挨拶してきたので、こちらは敬礼して応えた。ヘルメット被ってないので。


 マルゼも降りてきてオレの横に立って敬礼の真似をした。


 なんだか微笑まれているが、十分も続けると疲れてきたので止めることにして、挨拶してきたヤツに返すくらいにした。


「商売上手ならここでなにか売り出すんでしょうね」


 馬車は人があるくらいのスピード。馬車から降りても走って追いつく。なんかすぐに渡せるものなら売れるんじゃないかな?


「そうだな。わしもなにを売ったらわからんが」


 こんなことなら商人を連れてくるんだった。あちらにコラウスの商人がいたら声でもかけてみるか。


 読みとおり二時間くらいで通りすぎ、パイオニア五号を発車させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る