第900話 一緒にくるか?

 一時間くらいで話を終わらせ、オレは外に戻って眠りについた。


 イチゴがいるので目覚めは快適──とまではいかないが、夜に眠れるのはやっぱりいいものだ。


「山の朝は冷えるな」


 山崎さんからもらったインナーを着ているから寒くはないが、顔は剥き出しなので山の冷え込みがダイレクトにきているよ。


「おじちゃん、おはよ」


「おはようさん。早いな」


 まだ六時前だぞ。


「昨日は早く寝たしね、いつもはもっと早いよ」


 そういや、この時代は朝日が昇ったら起きて仕事が始まるんだったっけな。六時半に起きてひーひー言っていた自分が情けないぜ。


「朝飯を食ったら村に帰るとしようか」


 マリルもとっくに起きており、火を焚いて昨日の残りのスープを温めていた。


 朝飯はパンとスープで簡単に済ませ、キャンプ地を片付けたら出発した。


 結構遠くまで出たので村に着いたときは昼を回っており、今日は気温が高いから全身汗びっしょりだった。


 村の端にある共同の川で汗を流したらミサロが作ってくれたカツサンドを食うことに。その間に服はホームで洗濯する。


「そう言えば二人って、案内の仕事がないときってなにしてたんだ?」


 そんな話、してなかったっけ。


「畑の手伝いをしたり広場に荷物を運んだりです」


 マリルには言葉使いを教えているので、なるべく丁寧に話しているのだ。


「あまり稼ぎにはならないけどね」


「わたしたちはまだマシなほうだと思います。食べるものがなければ山で調達できますから」


 その分、危険と隣り合わせだろうがな。


「案内人って、村にどんだけいるんだ?」


「仕事の合間にできる人がやっている感じです。今は畑があるのでわたしに声がかかったんです」


「じゃあ、ゴブリンの片付けは迷惑だったか?」


 とんだときに手伝わせてしまったな。


「いえ、ゴブリンが減ってくれたほうが村としてはありがたい限りです。あいつら、本当に鬱陶しい存在ですから」


 あのダメ女神、なんのためにゴブリンを創り出したんだ? 害しかねーだろうに。


「ゴブリンはすぐに増えるが、それでも根絶やしにするとしばらくは仕事がなくなるな……」


 どこからか流れてくればいいが、首長が率いる群れでもなければ急激に増えることはないだろう。


「お前たちは、ここを離れる気はあるか? と言っても出稼ぎみたいなものだがな」


 狩り場が一つだから困るのだ、なら狩り場をいくつか作って回ればいいじゃない、だ。


 それにこの二人の両親はすでに亡くなっている。二人で身を寄せあって暮らしているのなら出稼ぎに出てもいいんじゃないか?


「おれはいきたい! おじちゃんといたい! ねーちゃん、いこうよ!」


 積極的なマルゼ。ど、どうした!?


「ここにいても貧しいだけだ! ゴブリンを狩って美味いメシが食えるなら村を出たほうがいい!」


「マリル。残りたいなら残ってもいいんだぞ。ゴブリン駆除もそう楽な商売じゃない。ここで誰かと結ばれて子を作るのも悪くないはずだからな」


 まだ十三歳とは言え、この時代は早婚だ。もしかしたら好いた男がいるかもしれない。無理に連れていっては馬に蹴られて死んでしまうぞ。


「いえ、わたしもいきたいです! 山で一生を終わるなんて嫌です!」


 都会に憧れる田舎の少女、的な感じか?


「それならしばらくオレと一緒に行動するとしよう。王都方面に請負員がいないしな。戦えるヤツがいてくれると助かる」


 マリルは十三歳とは思えない身の軽さをしている。音もなくゴブリンに近づき、後ろから首に突き刺すのを得意としていたよ。


「じゃあ、一緒にいっていいの!」


「あい。ただ、オレはあちらこちら見ないとならないから離れることもある。そのときはスリングショットや文字の練習をしておけよ」


「うん! もっともっと練習して一発で仕留められるようになるよ!」


「その意気だ」


 マルゼの頭をわしわしと撫でてやった。


「じゃあ、今住んでいるところを引き払ってこい。荷物は……置いていくなり誰かにくれたりしたらいいさ。必要なものは買えばいいしな」


 アイテムバッグ化したチェストリグを渡した。容量は少ないが、身の回りのもは大体入る。拠点を得たなら徐々に増やしていけばいいさ。


「あ、村を出るのに誰かの許可が必要だったりするのか?」


「そんなのはないけど、村長には言ったほうがいいかもしれません」


「そっか。なら、オレはルグリックさんに伝えるか。終わったら宿にきてくれ。いや、明日の朝にするか。今から出発しても途中で野宿になるしな。構わないか?」


「はい、構いません。明日の朝に向かいます」


「ゆっくりでいいからな」


 この二人の朝は、朝日が山から出たときだからな。


「一応、金を渡しておく。世話になった人がいるならいくらか渡すといい」


 銀貨二枚と銅貨を適当に渡した。


「じゃあ、朝に」


 二人とはそこで別れ、まずは冒険者ギルドに向かい、二人のことを伝えたらあっさり許可──と言うか、二人がそうしたいのなら好きにしろとのことだった。


「そういうものなんですか?」


「そういうものさ。誰かが出ていけば誰かが入ってくる。この村はそうやって続いているのさ」


 ってことだった。


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 とうとう900話まで来たか。よく続いたものだ。ここまで読んでくださりありがとうございます。

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