第899話 地盤固め

 二日かけてプリシグラ村周辺のゴブリンを根絶やしにしてやった。


「うん。これで終わりにするか」


 やはりゴブリンの知恵で村を襲おうなんておこがましいだけだ。ってまあ、オレがこなければ村は滅ぼされていただろうけどな。


「よくやった。今日は美味いもんを食わせてやるよ」


 二人合わせて七十万円の儲けって感じか? 二、三日でこれだけ稼げたら上々だろうよ。オレもそこそこ稼げたしな。美味しい現場だったぜ。


「おじちゃん、毎食美味しいもの食べてるよ」


 この二日ですっかり慣れてくれたマルゼ。可愛いものだ。


「もっと美味いヤツだ。って言ってもオレが作るわけじゃないけどな。魔法の部屋にいる仲間が作ってくれたものだ。美味いぞ」


 キャンプ地を決めたらまずは風呂を用意してやる。


 すっかり風呂好きになったマリル。女の子は根っから女の子なんだな~って思うよ。


 マリルを先に入らしたらオレとマルゼで入り、さっぱりさせた。


 上がったらやっぱり缶ビールで一杯。二人にはスポット飲料だ。どうやら気に入ったみたいだ。


 ホームに入り、ミサロが作ってくれた煮込みハンバーグを持ってきた。二人は米よりパン派なので、ガーリックバターパンを焚き火で焼いて食べてもらった。


 食後は請負員カードでキャンプに必要なもの、食料品、服のサイズや靴の種類、武器などを教えた。


 マリルが文字を知っていたのでノートに書いてもらい、プランデットで使う文字を訳してもらった。


 二十二時になったら二人を就寝させる。


 イチゴに任せてオレはホームに入ってミサロやミリエルから状況を聞いた。


「……まさか、王都が食糧不足になっているとはな……」


 王都に着いたミリエルたち。そこで王都周辺の麦が結構ミジャーに食われたとかで、冬には食糧不足になるんじゃないかって情報を仕入れたようだ。


「そうなると、地方に強権をかけるかもな」


「地方は答えますかね?」


「答えたくても答えられないだろうな。被害はわからんが、話を聞く限り、ミジャーは各地にも下りたみたいだからな」


 コラウスに直行したわけじゃなく、各地を渡り歩いて最終的にコラウスに辿り着いた、ってことだろう。


「どう行動しましょう?」


「そうだな。ありがちな手だが、貧民街を制圧して、貧しい教会を乗っ取るか」


 ミリエルは本当に優秀で、しっかりと王都の地図を六割はオートマップを埋め、空から王都の写真を収めていた。


「ニャーダ族もいるなら同胞を探させる拠点を得るためだと言えば動いてくれるだろ。王都ならヒャッカスって組織の活動拠点があるかもしれないからな」


 これまでの流れからしてヒャッカスって組織はこの国と繋がっている感じがする。なら、活動拠点は必ず置いてあるはず。


 ……本部はまた別のところだろうがな……。


「では、マジッドさんたちに当たらせます」


「頼むよ。王都でゴブリン狩りをしてもらおうか」


「タカトさんはまだ王都にはこれないのですか?」


「そうだな。王都で暴れるとなるとガンザフル伯爵領で地盤固めしないといけないし、まだ時間はかかるな」


 逃げ道と前線基地をカインゼル伯爵領に築く必要がある。そうなれば結構滞在しなくちゃならないだろうよ。


「では、こちらも地盤固めを行います」


「そう急ぐこともないから王都観光でもするといい。きっとモリスの民もいるはず。必要なら味方にしたいのなら引き込むといい。殺し合いをするだけが侵略じゃない。人の心を侵略していくのも手だ」


 どんな政治体制でも不満はあるもの。さらに、食わせてくれるリーダーが正義なところがある。


「アレクライトでカロリーバーをたくさん作って人心掌握の弾にするといい。ガーゲーでも作らせるように指示も出すから」


 コラウスでも人気が出たなら王都でもカロリーバーは人気になるはずだ。


「あと、この造りだと王都って水を汲むのが大変だと思う。水汲み場を設けるのもいいかもな」


 王都には大きな川が二本あるが、水路らしきものは見て取れない。地下水道があったとしても王都中に張り巡らされてはいないだろう。飲み水に苦労しているはずだ。


「与えよ。さらば与えられん。ですね」


 なんてことを言うミリエルにびっくりしてしまった。


「よくそんな言葉を知っていたな?」


「タカトさんを見ていればわかります。まず与えてから利を得てますからね」


 この子は本当に頭がいい。十六の女の子が理解できる考えじゃないぞ。


「将来、莫大な利益を得たいなら目先の小金に執着する必要はない。必要なところに必要なだけ注ぎ込めばいい。多少なら損をしたって構わない。オレたちは着実に莫大な利益を得る未来に向かっているんだからな」


「タカトが魔王だったらとっくに世界を支配してそうだわ」


「この世界だけ言えば、支配なんて絶対に不可能だよ」


「なぜです?」


「知的生命体を一万年繁栄させられないような女神がいる世界であり、三回はやり直している。神でもできないことがオレにできるわけがない。精々、この国が精一杯だ」


 生存圏は小さくて強固なほうがいい。世界すべてを、なんて考えるほうが間違ってんだよ。


「オレたちの生存圏は一国くらいでちょうどいい。海があって平地があり、山々に囲まれていて他国からの侵略も少ない場所でいいんだ」


 まさに当たり国がここだ。


「国の支配権の半分以上をつかんでいれば国はオレたちをどうこうすることはできない。どうにかするにもひっそりとはできない。必ず動けば察知できるものだ」


「数は力、というわけですね」


「そうだ。国をすべて支配するより五割以上を保ち続けるほうがまだ苦労も少ないものだ」


 まあ、元の世界を考えたら三割でもいい気がするが、この国は問題がありすぎる。五割以上保ち続けるほうがいいだろうよ。

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