第898話 父親になった気分

 オレの察知能力では二百匹もいない感じだが、高性能ロボットたるイチゴのセンサーは強力だ。数に間違いはないとなるとやはり子をなしているようだ。


「イチゴ、降りるぞ」


 気配からオスメスの違いまではわからない。が、動かないところからして巣に籠っているようだ。


 ブラックリンをなだらかな場所に降ろした。


「イチゴは周囲を警戒だ。ゴブリンなら殺すなよ」


 リンクスから416に換えさせた。殺さないようにできるだろうよ。


「マリル、マルゼ、こっちだ」


 オレたちがきたことを察したのだろう。巣穴に逃げて姿がまったく見えなかった。


「四匹のはどこだ?」


 三匹以下はオレが受け持つとして四匹以上は二人に任せることにするか。


 十三歳と八歳に手榴弾とか、元の世界なら大顰蹙ものだが、この時代は子供でも働かせる。十三歳と八歳なんて働き盛りだろうよ。


「これは手榴弾。ここをピンってのを抜いてここが外れると、五つ数えたあとに爆発する」


 爆発ってのがピンとこないのだろう。キョトンって顔になっているよ。


 ……ふふ。まさに姉弟って感じの顔をするな……。


「少し下がっていろ」


 二人に見えるよう巣穴の横に立ち、五メートルくらい下がったらピンを抜いて巣穴に手榴弾を放り込み、マルチシールドを展開した。


 ズドーン! と手榴弾が爆発。一万五千円が入ってきた。


 手榴弾は一個四千五百円なので一万と五百円の儲けだ。これ、結構楽で好きなんだよね、オレ。


 何度かやってみせ、まずはマリルからやらせてみる。


「大丈夫。失敗したらお前を抱えて逃げるから」


 これでも三段階アップしている。五十キロくらいなら抱え上げられます。


 ……筋力じゃなく体力をアップして欲しかったよ……。


「扱い方を間違えれば危険なものだが、適切に扱えば有効な武器だ。その腰に差しているマチェットとなんら変わりない。ピンを抜いて穴に放り込む。そしたら逃げる」


「ピンを抜いたら穴に放り込む」


「そうだ」


 急がせず、マリルの覚悟ができるまで待ってやる。慌てたってケガするだけだからな。


 女は度胸! とばかりに表情が締まり、ピンを抜いて巣穴に手榴弾を放り込んだ。


「よし、逃げろ!」


 背中を押してやった。


 オレは逃げずにマルチシールドを構えて破片が飛んでいかないようにした。


 一度やれば緊張が解けたようで、五回もやると慣れてきて、十回もやれば手際がよくなった。


「次は請負員カードで手榴弾を買ってみろ」


 準備金分は余裕で稼がせてやった。あとは、自分の報酬から買わせるとしよう。


 請負員カードの使い方を教え、他にも生活に必要なものも教えて買わせてみた。


「四匹のを選べば充分稼げるはずだ。イチゴ。マリルの補佐と護衛を頼む」


「ラー」


「マリル。あとはイチゴに教えてもらって巣穴を吹き飛ばせ」


 人間ではないイチゴにビビりながらも巣穴を探し求めて山を登っていった。


「次はマルゼだ。スリングショットの練習をしようか。ここなら誰の迷惑もかけないからな」


「おれもゴブリンを吹き飛ばしたい」


「それはマリルに任せろ。お前はスリングショットでゴブリンを殺してもらう。巣穴にいるより出歩いているゴブリンのほうが多いからな。それに、ねーちゃんを楽にさせてやれ。お前を守るために苦労していたんだ。次はお前がねーちゃんを守る番だ。男なら強くなれ。大切なものは絶対に奪われたりするな。守り切っての男だ」


 元の世界じゃ男だ女だと流行らないが、この世界ではまだ大切なことだ。簡単に大事なものが奪われてしまう。


 男であることが強さとなるならオレはそれを利用する。この世界に連れてこられて大切なものがたくさんできたんだからな。


「マルゼ。まだわからなくていい。だが、今はちょっとずつできることを増やしていけ。それは必ずマルゼの力になる。大切なものを守る力となるんだ」


「……うん。わかった……」


「そこで認められるならマルゼは必ず強くなる。金印にだってなれるさ。オレが知る男たちはそうやって強くなったんだからな」


 マルゼの頭をわしわしとしてやる。


「おれ、金印になれる?」


「なりたいと思い続け、いろんなことを覚えて、人を守れる男になるなら必ずなれる。体を鍛え、心を鍛えるんだ」


「うん! おれ、がんばる!」


「その意気だ。さあ、スリングショットの練習をするぞ」


 オレも予備のスリングショットを出してマルゼと一緒に練習をする。


 夕方になると、マリルとイチゴが戻ってきたので山頂に向かい、キャンプの用意を始めた。


「今日は疲れただろう。美味いものを食わせてやるよ」


 ってまあ、シチューを作るんですけどね。オレ、未だにシチューとカレーしか作れないんで。


 キャンプ用品や食材を取り寄せてシチューを作った。


「たくさんあるからいっぱい食っていいぞ。と言うか、いっぱい食え。食ってデカくなれ」


 腹壊すわ! って突っ込みが入らないのでたくさん二人に食わせた。


「なんだ、もういいのか? まだあるぞ」


「イチノセ。それ以上は虐待になります」


 まさかのイチゴからの突っ込み。お前、そんなこと言えたんだ!?


「そっか。まあ、一日寝かせたシチューは美味いしな。明日に回すとしよう」


 もう食えないとばかりに木に寄りかかる姉と弟。どこまでも似た者姉弟だよ。


「見張りはイチゴがするからゆっくり休むといい」


 毛布を取り寄せ、二人にかけてやった。

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