第896話 姉弟
ゴズさんを回収したのは午前三時。今日はゆっくり休んでくださいと、宿屋の前でホームに入った。
シャワーを浴びたら缶ビールを一缶飲んですぐに寝た。
久しぶりに動いたのでぐっすり。起きたら昼前だった。
「……日に日に体の疲れが取れ難くなってんな……」
一億円分の若さが欲しいところだが、若返ったところでゴブリン駆除ライフが長くなるだけ。そんな人生ごめんである。オレは六十歳で引退したいよ……。
寝起きにシャワーを浴びて缶ビールを一杯。美味い! もう一杯!
「って、飲みすぎだ」
イカンイカン。まだ片付けが残っているのに酔い潰れるところだったわ。
巨人になれる指輪をして酒を抜いた──たら腹が減った。出るのはお昼過ぎてからにさせてもらいます。
皆が入ってきて状況を説明したら用意をしたら外に出た。
「賑やかだな」
村の連中が騒いでいるのか、ガヤガヤと声があちらこちらから聞こえた。
宿に入ると、ガズさんが食堂でこの世界のワインを飲んでいた。この人、質実剛健なのか貧乏性なのか、あまり贅沢しないんだよな。酒もオレが出すものじゃなくこの世界のワインやエールを飲むのだ。
「遅くなりました」
「構わないよ。こうしてゆったり酒を飲んでられるからな」
「独身者の贅沢な過ごし方ですね」
「アハハ。確かにそうだ。結婚してたら働いてこいってドヤされているところだ」
脚をなくしていたから結婚願望はないようで、こうして安酒をチビチビ飲んでいるのが一番の過ごし方だそうだ。
……オレも元の世界ではこんな休日だったっけ……。
「ご隠居様は?」
「片付けに出ているよ。タカトを待てばと言ったんだが、じっとしていられないと少し前に出ていったよ」
「元気な方だ」
基本的な鍛え方が違うのだろう。体力も気力も老人に負けているよ……。
「オレも見てきます。なにか必要なものはありますか?」
「ツマミをもらえるか? あのサキイカってヤツが気に入ってんだ」
ほんと、安い男だよ。
ホームに入ってサキイカを買ってきてガズさんに渡した。
「じゃあ、いってきますね」
外に出てご隠居様の気配を探る。ん、あっちか。
谷の方向らしくいってみるが、道がわかりません。いや、道がないのでわかりません。どこから下りんだ?
ブラックリンで降りるか? と考えていたらマリルと十歳くらいの男の子と遭遇した。
「よかった。谷に下りる道を探してたんだよ。あ、もしかして、帰るところだったか?」
「ううん。あたしたちも下りるとこ」
「じゃあ、オレも連れてってくれるか? 昨日とは報酬は別に払うよ」
昨日と同じく銅貨五枚を渡した。てか、銅貨五枚とか山の仕事は安いよな。これでよく生きられるものだ。
「……こっちだよ」
二人について谷下に向かった。
やはり山で暮らしているせいか、鹿のようにピョンピョン身軽な歩きをしている。おじさんにはちょっと厳しいです。
それでも大人の意地でついていき、やっとこさ谷下にやってこれた。
「ちょっと休憩しよう」
おじさんには限界です。少し休ませてください。
スポーツ飲料を取り寄せ、二人にも渡して一気に飲み干した。フー。
「これ食うか? 味はそこまでいいもんじゃないが栄養はあるぞ」
古代エルフが作りし完全栄養食。味のバリエーションはないが、結構バランスが取れた食い物だ。ダイエットするならまさにこれ! って逸品だな。
……毎日食うのは嫌だけどな……。
「いいの?」
「いっぱいあるから構わないよ。なんなら持っているのをすべてやるよ」
一応、非常食として持っているが、そこまで非常になったこともなし。シュリンクを外さなければ何年でも保つが、ときどき入れ替えはしておこう。気分的になんか嫌だからな。
アイテムポーチからカロリーバーを出して二人に渡した。
「その袋には魔法がかけられていて、破らない限り十年でも二十年でも腐らない。まあ、腹が減ったらすぐに食うといい。大事に取っていても仕方がないしな」
また機会があればくれてやるよ。
またスポーツ飲料を取り寄せて二人に渡した。ゆっくり飲んでもうちょと休ませてくださいませ。
「ねえ」
「ん? なんだ?」
早くいこうってんならよしてくれよ。まだ膝が笑ってんだからさ。
「ゴブリンを狩ると儲けられるの?」
「んー。ゴブリンは狩ったことはあるか?」
「仕事がないときはやる。五匹も狩れば一食分にはなるから」
ゴブリン一匹……いくらだっけ? どうでもいいから記憶にねーわ。
「それならゴブリン駆除ギルドに入るか? ギルドに入れば一匹で三食分にはなると思う。安いのなら二日分にはなるんじゃないか?」
オレは元の世界で一日の食費は千五百円でした。あ、酒代は別です。
「そんなに!?」
「ゴブリンを狩らないと儲けはないがな。けど、稼げるならオレが着ているような服や靴も買えるぞ。ただ、ギルドの者にしか使えない金だからここら辺の屋台で使うことはできないがな」
請負員カードを二人に渡した。
「ギルド員になったからって特別な決まりはない。嫌なら一年間ゴブリンを狩らなければギルド員でなくなるだけだしな。やるか?」
「弟も構わない?」
「年齢は決めてないが、あれだけ坂を難なく下りられるなら問題ないだろう。安全にゴブリンを狩れよ。うちは安全第一、命大事に、だからな」
「じゃあ、二人でやるよ」
うんと頷き、二人に名前を告げさせて請負員とした。
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