第893話 先手必勝

 支部長であるルグリックさんの紹介で、十二、三歳の女の子が連れてこられた。


 まったく予想もしなかった案内人に、思わずルグリックさんを見てしまった。


「ここでは性別に関係なく仕事をするんですか?」


「まあ、ここは山の上で、生きるには厳しいところだからな。働けるなら女子供関係なく仕事をさせるよ。マリルは若いが、この周辺ことならよくわかっている。安心していいぞ」


 それだけ小さい頃から山を駆け巡っているってことか。あれだな。モニスと同じタイプなのかもしれんな。


「マリル。オレは一ノ瀬孝人。タカトと呼んでくれて構わない」


 握手文化はないので自己紹介だけにしておく。


「で、こちらはご隠居様。こちらがゴズ。この三人でゴブリンを駆除する。最近、ゴブリンはよく見ているか?」


「毎日のように見てる。追い払っても追い払っても現れるから村の連中の怒りは頂点に達しているよ」


 なかなか賢いことを言うものだ。地頭がいいんだろうな。


「ルグリックさん。村に泊まれるところはありますか?」


「ああ。冒険者相手の宿があるよ」


 まずはそこに案内してもらい、作戦会議を開くとする。


 飲み物を出し、ホームからホワイトボードを運び出してきた。


「な、なんなんだ、今のは!?」


「オレの魔法です。気にしないでください」


「いや、気にするわ! タカトは大魔法使いなのか?」


「ゴブリン駆除ギルドの創設者が大魔法使いなだけで、オレは普通の男ですよ」


「この男の普通は普通じゃないから信じる必要はないぞ。まあ、優秀な男だからゴブリンのことは安心していいぞ」


 なんのフォローかわからないことを口にするご隠居様。


「マリル。ここをプリシグラ村として広場はここ。畑はどこだ?」


「ここだよ」


 マリルに聞きながらプリシグラ村の周辺の地図を築いていった。


「ゴブリンの気配からこの辺に首長がいると思います。距離にして約八百メートル。完全に村を襲うとする位置に集落を築いていますね」


「ゴブリンが村を襲うのはよく聞くが、二百人もいる村を襲ったりするもののか?」


「あいつらは数さえ揃えば大都市だって襲いますよ。千匹もいたら躊躇いなく襲ってきますね」


 もう秒読み段階に入っている感じだな。


 まったく、タイミングがいいのか悪いのか、狙ったかのような状況だよな。オレのいくところゴブリンあり、だぜ。


「千匹もいるの?」


「いるな。ここに約三百。こことここに二百匹ずつ。残りは村を襲うような形で散らばっている感じだな。もしかしたら数日以内に村に襲ってくるだろう」


「おいおい! それは本当なのか?! 本当なら一大事じゃないか!」


「大丈夫ですよ。襲ってくる前にこちらから襲いますから」


 先手必勝。襲ってくる前にこちらから襲いかかってやるよ。


「ゴブリンは腹を空かせているようなので狂乱化させて一ヶ所に集めます」


 マリルから手頃な谷を教えてもらい、ホワイトボードに✕印を描いた。


「うん。ご隠居様はマリルと行動してここに向かってください。ガズさんはオレとです」


「本当に三人でやるつもりなのか?」


「はい。ルグリックさんは村の防衛に当たってください。千匹すべてがここに集まることはないでしょう。二百匹くらいは村にやってくるかもしれませんからね」


 狂乱化してくれたらすべてが集まってくれるかもしれないが、そうもいかないだろう。場所が狭いからな。


「ご隠居様にはこれを渡しておきます」


 EARとプリジック、ルンを四つ渡し、使い方を教えた。


「古代エルフの武器か。昔は凄い武器があったものだ」


「魔力抵抗値がある魔物には効きませんけどね。ゴブリンならこれで充分です」


 二千発は撃てるだけの魔力はあるので、半分が無駄弾になったとしても余裕で足りるだろうさ。


「オレたちはここにゴブリンを集めたら集中攻撃します。安全なところから駆除してください。もし、首長と遭遇したら逃げてください。たぶん、EARでは倒し切れないかもしれませんから」


 気配からしてそこそこのヤツだろう。リンクスでもないと効果はないだろうよ。


「決行は夜。それまで休んでください」


 プランデットを夜間モードにしてご隠居様とマリルに渡した。


 オレはホームに入り、ブラックリンに榴弾を詰め、M32グレネードランチャーに催涙弾を装填させた。


「あ、タカトさん。こちらは用意できましたので王都に向かいますね」


「了解。オレたちはちょっと遅れるかもしれない。首長が率いる群れがいたんで稼ぐとするよ」


「まだ千匹単位の群れがいたんですね」


「ああ、本当にな。もしかしたら小集団なら結構いるのかもしれないな。早く着いたら王都周辺の山を探ってみるのもいいかもな」


 ダメ女神は言ってなかったが、それはいつものこと。オレを誘導しているのかもしれない。あれは本当に悪辣だからな。


「応援はいりますか?」


「千匹ならいらないよ。ご隠居様やガズさんに稼がせたいからな」


「では、イチゴを連れていってください。こちらはマリンたちが揃っているので」


「そうだな。念のため連れていくか」


 となるとイチゴのブラックリンも出しておくか。装備はリンクスとプリジックを持たせるか。


「じゃあ、連れてきますね」


 了解と答え、イチゴのブラックリンを出し始めた。

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